<米陸軍計画>
未来型ロータークラフト ![]()
米陸軍は未来型垂直多用途機(JMR/FVL:Joint Multi Role/Future Vertical Lift)と呼ぶ新しいロータークラフトを計画中。同機は現用UH-60ブラックホークに代わって2030年代の実用化をめざすもので、巡航速度426q/hを最低基準とし、2017年から試験飛行に入る予定。
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この要求に応じて、ベル・ヘリコプター社は、V-280ヴェイラー(valor:勇気)と呼ぶティルトローター機を提案している。
同機はV-22オスプレイで習得した技術を基本とし、速度、航続距離、ペイロード、敏捷な運動能力にすぐれ、巡航速度510q/h、作戦行動半径900〜1,500kmの飛行性能を有し、UH-60ブラックホークばかりでなくAH-64アパッチ攻撃機にもとって代わり、米陸軍の将来のロータークラフトとして有効な働きが可能という。
V-280のティルトローター機構は、V-22と異なり、エンジンが主翼に固定され、ローターマストのみが動くので、構造は簡単。操縦系統はフライ・バイ・ワイアになる。
また機体重量に対してローターの回転面が比較的大きいので、ディスク・ローディングがV-22よりも小さい。したがってダウンウォッシュも弱く、胴体側面の大きなドアからホイスト作業をするのも楽になる。もうひとつオスプレイは艦船に搭載するためローターの折りたたみ機構が必要だが、V-280は主として米陸軍だけが使用するので折りたたみ不要。したがって部品数が少なく、機内スペースが廣くなる。
キャビンの搭載能力は兵員11人と乗員4人。作戦進出距離は460kmだが、兵員を乗せずに回航するときは3,800kmの航続性能を有する。これで空中給油などの支援を受けることなく、遠くの戦場まで自力で展開することも可能。
こうしたV-280を、ベル社は第3世代のティルトローター機と呼んでいる。第1世代はXV-3とXV-15、第2世代はV-22とアグスタウェストランド社へ売り渡した民間向けのAW609ティルトローター機。合わせて55年間の開発努力から、今ここに第3世代のティルトローター機が生まれようとしている。
ローターのみが動くベル社の新しいティルトローター構想![]()
競争相手のシコルスキー社は米陸軍のFVL要求に対し、ボーイング社と組んで、コンパウンド・ヘリコプターを提案している。
同機は、かねて飛行実験を続けてきたX2高速実験機を基本とするコンパウンド機で、S-97レイダーと呼ぶ。すでに設計を完成しており、試作機は2014年にも飛行可能という。
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ほかにAVXエアクラフト社とピアセッキ社も、米陸軍に対しJMRヘリコプターの提案をしている。AVX機は同軸反転ローターに2つの推進用ダクテッドファンを組み合わせたもので、尾部のファンによって推進力が増し、430q/hの速度性能を発揮する。
AVXエアクラフト社の提案![]()
ピアセッキの提案はPA61-4と呼ぶ固定翼つきのコンパウンド機。尾部にダクッテッド・プロペラがついて432q/hの速度性能を有し、艦船搭載のために固定翼を外しても、主ローターと尾部のプロペラで330q/hの速度を発揮する。また物資の吊り下げ輸送の場合は高速で飛ぶ必要がないため、ダクッテッド・プロペラを外して普通の尾部ローターをつけてもよい。これで速度は300q/hになるが、機体重量が軽くなり、燃料消費も減って運航費が下がる。
PA61-4![]()
第5にユーロコプター社も提案しているもようだが、具体的な内容は公表されていない。おそらくは、かねて高速試験飛行をしてきたX3実験機を基本とするものであろう。
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これらの提案は、米陸軍による審査の結果が今年末までに決まり、2017年に試作機が飛行する予定。 その調達について、米国防省は1機1,300〜1,500万ドルを想定している。
なお、これらの候補機は、いずれも野心満々の設計で、今のロータークラフトに比べても飛行性能や搭載能力において大きく進歩しようとしており、軍用機のみならず民間機としても、ロータークラフトの新時代を切り開くものとなるであろう。
(西川 渉、2013.4.16)
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