三菱MRJの開発と競合機

 

 日本が長年逡巡してきたジェット旅客機の開発がいよいよ動き出した。YS-11の生産中止から35年――何故こんなに長い空白が生じたのか。おそらく、わが航空工業界がYS-11症候群とでもいうべき病気にかかって、その後遺症から抜け出せなかったためであろう。

 それがようやくリハビリに成功し、なんとか立ち上がろうというのが三菱リージョナルジェット(MRJ)である。病み上がりではあるが、開発構想の中身はなかなか立派とお見受けした。是非とも成功して貰いたいと思う。この立派な構想が前途けわしい国際競争の中で、どこまで闘ってゆけるか。以下、これから乗り出す市場の状況を見てみよう。

 

 リージョナルジェットの市場は周知のとおり、ボンバーディアとエンブラエルが2分している。その寡占状態の現状に対し、新たな参入を試みているのがロシアと中国である。その意味では日本は5番目の、遅れてきたプロジェクトといわれるかもしれない。

 ボンバーディア・リージョナルジェットはCRJ200(50席)、CRJ700(70席)、CRJ900(90席)から成り、現在およそ1,400機が世界中で飛んでいる。さらに最近は新しいCRJ1000が完成、間もなく初飛行する。同機はCRJ900を2.95m引き延ばしたもので、乗客100人乗り。最近までに39機の注文を受け、2009年秋から引渡しがはじまる。

 エンブラエル・リージョナルジェットはモデル170(70席)、175(75席)、190(98席)、195(108席)があり、昨2007年は合わせて130機を生産、世界中で総数1,200機が飛んでいる。

 そこへ、ロシアのスホーイ・スーパージェット100(95席)が名乗りを上げ、昨年9月26日にロールアウトした。すでに73機の注文を取り、当初の計画では2007年9月に初飛行する予定だった。しかしまだ、飛んだという話は聞かない。

 中国のARJ21(70〜90席)は昨年12月21日に上海でロールアウトした。「翔鳳」(Flying Phoenix)という立派な名前をつけ、去る3月には初飛行することになっていたが、これもまだ飛んでいない。最近の英フライト・インターナショナル誌によると、装備品メーカーのテストが遅れていて、初飛行も半年ほど先の今年9〜10月という。2009年秋までに型式証明を取る計画もとうてい無理であろう。

 それにARJ21には技術的な新鮮味、すなわち歴史の時代を画すような特徴もしくは進歩が見られない。エンジンはエンブラエル170と同じGE CF34-10Aで、それ自体は悪くないが、三菱MRJがプラット・アンド・ホイットニーの全く新しいギアード・ターボファン(DTF)を採用したような意欲は感じられない。

 このエンジンは前面のファンと後部の低圧タービンの間に減速ギアを組みこみ、それによって両者の回転数に大きな差異をもたせ、効率を上げて燃料消費を大きく減らすものである。CF34にくらべると2割ほど少なくなる。加えてMRJは主翼を複合材製として機体重量を下げ、そのことによってさらに燃料消費を減らし、競合機に対して3割減までもってゆく。これによってCO2やNOX(窒素酸化物)の排出も減らし、騒音は半分を目標としている。

 もっともARJ21が陳腐なのは、初めから冒険はしたくない。先ずは既存の技術を使いながら西側メーカーとの関係を深め、今のボーイング737やエアバスA320に代わる大型機の開発と製造に向かう布石と見るむきもある。

 現実に中国は2007年2月、中国商用航空機という製造公司をつくり、大型輸送機の開発に取り組んでいる。まずは総重量100トン程度の貨物機を開発し、2020年頃に飛ばすらしい。

 話を戻して、ARJ21は中国エアライン各社から171機を受注している。英フライト誌は確定131機、仮50機と書いているが、その中で10機を発注している山東航空(Shandong Airlines、山東省済南市)が量産1号機を受領する。

 こうしたリージョナル機を中国が必要とする理由は、へき地への旅客輸送で、チベットなども対象になっている。

 以上のような市場の動向を見ながら、MRJの開発を目的として設立された三菱航空機(株)の戸田信雄新社長は「競争相手として手強いのは矢張りボンバーディアとエンブラエル。中国やロシアの計画は恐るるに足りず」と意気軒昂なところを見せている。

 確かに英フライト・インターナショナル誌(4月8−14日号)の比較表を見ると、むろんMRJは設計上の数字ではあるが、先行4ヵ国のリージョナルジェットにくらべて乗客数の割りに総重量が軽く、エンジン出力が大きく、離陸距離が短いといった特性をもつようだ。

 とはいえ、MRJはまだ全日空の確定15機、仮10機の注文しか受けていない。メーカーとしての採算分岐点は恐らく350〜400機というから、今後よほどの販売努力が必要であろう。MRJの販売目標は1,000機である。健闘を祈りたい。

(西川 渉、2008.4.14)

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