アメリカでは現在、どのくらいの企業がビジネス機を使っているのだろうか。米国ビジネス航空協会（ＮＢＡＡ）の推定によれば、ビジネス機を保有する企業は総数27,000社になるという。このうち6,000社はタービン機を飛ばしており、16,000社が双発ピストン機、5,000社が単発ピストン機という内訳である。
こうした企業の中でＮＢＡＡに加盟している会員は、現在4,700社である。５年前の会員数は3,000社だったというから、わずかな間に一挙に伸びたことになる。そして５年後には15,000社にしてみせるというのがＮＢＡＡの強気の目標である。ビジネス機保有企業の半数以上を取りこもうというわけだ。
といっても会費を増やすというような経済的なことが目的ではない。できるだけ多くの声を結集して政府の航空政策に反映させ、ビジネス機がもっと飛びやすく、もっと使いやすい環境をつくっていくためだというのである。
現在、ＮＢＡＡの会員が保有するビジネス機は合わせて6,275機。うちビジネス・ジェットは3,290機、ターボプロップ機は1,320機、ピストン機1,231機、ヘリコプター434機となっている。
このうちビジネス・ジェットは１機当たりの平均飛行時間が1995年で419時間であった。96年はまだ集計ができていないが、95年を上回ったものと推定されている。
このようなビジネス機の運航の実態はどうなっているのだろうか。米『ウォールストリート・ジャーナル』紙がＮＢＡＡの会員企業にアンケートを送り、９月下旬のＮＢＡＡ年次大会で以下のような調査結果を発表した。ここに、その一端をご紹介したい。
調査は５月におこなわれた。アンケートの発送数は1,459通、有効回答数は614通（42％）であった。
その集計結果を見ていて、アメリカ人らしいユーモアを感じさせらたのは「あなたはビジネス機の中でどんな新聞雑誌を読みますか」という質問。もちろん答えは『ウォールストリート』紙で、ダントツの23％。それに続くのは『フォーチュン』、『ビジネス・ウィーク』、地方紙などだが、いずれも９％以下。回答者は苦笑しながら調査元の名前を挙げたにちがいない。もっとも報告書自体は「ビジネス機を使うのは企業のトップだから、その人たちが本紙を読むのは当然」と生真面目な解釈をしている。
最初の質問は「ビジネス機をもつことの目的または利点は何ですか」というもの。９割近い回答が、当然のことながら「便利だから」（87％）と答え、さらに「時間のコントロールが可能になる」（79％）、「生産性が向上する」（76％）といった利点を挙げている。また「ステータスを示す」（７％）という真正直な答えもあった。
逆に、ビジネス機を使っていて「不満に思うこと」は何か。第１位は「取得価格の高いこと」（65％）、つづいて「運航費が高い」（58％）という。また「航続性能の短いこと」（13％）にも不満があり、「株主の反対を受けること」（６％）もあるらしい。株主総会などで「贅沢じゃないか」などという質問が出るのかもしれない。「不満はない」と答えた人は１％しかいなかった。
では、そうしたビジネス機の購入は誰が決めるのか。回答を寄せた企業トップは、10人中９人が購入に当たって「何らかの関与をした」（89％）と答え、みずから「必要性を検討」（70％）したり、「メーカーや機種の選定」（52％）をしたりしている。
また「ビジネス機の購入に当たって最も重視した点は何ですか」という質問に対しては「購入費」（81％）、「運航費」（78％）、「信頼性」（69％）、メーカーの「整備支援体制」（66％）という答えが多く、それに「航続距離」（62％）、「搭載能力」（60％）、「巡航速度」（53％）などの飛行性能が続く。しかし、メーカーがしばしば強調する「快適性」（36％）を重視する人は意外に少なかった。
次に、こうして購入されたビジネス機は、年間どのくらい使われるのだろうか。まず企業トップの航空機を利用した出張回数は、普通のエアラインも含めて、１〜９回が８％、10〜19回14％、途中を省略して80回以上12％というように、平均では49回だそうである。つまり毎週１回ずつ飛行機に乗って飛び歩いているわけだが、そのうち自社保有のビジネス機を利用する回数は68％で、ちょうど３分の２ということになる。
ビジネス機を保有する企業はどんな企業であろうか。回答を寄せた614社の４割が上場企業で、残りは非上場の私的企業であった。しかし、いずれも大企業である点に違いはなく、平均では、売上高が13億ドル（約1,600億円）、従業員数は3,380人となっている。
業種は、３分の１以上が製造業、15％が運送または通信業、13％が金融、保険または不動産業、同じく13％がサービス業、８％が小売り業、５％が建設または鉱山業、２％が農業、林業、漁業、牧畜業である。ただし７％は無回答。
これらの企業はどんな航空機を保有するのだろうか。アンケートに答えた企業は、総数614社のうち584社だが、そのうち固定翼機を持っている企業は564社（97％）、ヘリコプターを持っている企業は54社（９％）だった。両方を持っているところもあるので数字は100％を超える。
またビジネス・ジェットを持っている企業は68％で、３分の２以上。そしてターボプロップ機の保有が31％、多発ピストン機が14％、単発ピストン機が７％である。今やビジネス機といえばジェット機という状況になってきた。
保有機数は、固定翼機については１機というところが56％、２機が25％、３機が９％、４機以上が10％。同様にヘリコプターは１機保有の企業が72％、２機が17％、３機が４％、４機以上が７％であった。
次に、こうしたビジネス機はどんな使われ方をしているのか。まず誰が乗るかという質問に対しては、当然「トップ」（97％）ということになるが、「ミドル・マネジメント」（63％）という答えも意外に多い。さらに営業スタッフ（44％）、その他の専門スタッフ（42％）、社外の顧客送迎（42％）と続く。
ビジネス機を米国から欧州やアジアなど、大洋横断の長距離出張に使いますかという質問に対しては、３分の１の202社が「使っている」（33％）と答えている。その飛行回数は過去１年間で平均10回という大変な数で、目的地は西欧（54％）、中南米（52％）、カリブ海（35％）、東欧（16％）と続き、日本は10％であった。
ビジネス機に関する今後の計画はどうだろうか。回答者の３分の１が２年くらいのうちに追加または代替機として「ビジネス機を購入する計画がある」（31％）と答えている。購入機種は先の保有状況と同じで、68％の企業がビジネス・ジェットを買う予定。そしてターボプロップ機を買うと答えた企業は５分の１足らず（16％）、ピストン・エンジンはごくわずか（８％）であった。ヘリコプターは５％である。
機数は大多数（68％）の企業が１機で、２機以上は19％。その際、現用機のメーカーを購入先として重視するかどうか、５段階の点数をつけてもらったところ、５点（非常に重要）と答えた企業は５％、４点は22％、３点29％、２点19％、１点（余り重視しない）は20％であった。平均点は2.6点で比較的少なく、現用機と同じメーカーにこだわっている企業は必ずしも多くない。とすれば、どのメーカーも安くて良いビジネス機を開発すれば買ってもらえるわけで、今後の開発競争はますます激しくなるであろう。
以上を要するに、米国ビジネス機の平均的なオーナー像は、上場企業よりも非上場の大企業で、３週間に２回ずつ自分の選んだビジネス機で飛び、月に１回ずつ欧州や中南米へ長距離飛行をし、ときにはカリブ海のリゾート地で休養も取るといった仕事ぶりである。
そして、機内では『ウォールストリート・ジャーナル』紙を読むというが、これは本当かどうか分からない。また内心は、ビジネス機にかかる経費がもう少し安くならないかと思っていて、もっと経済的な機材が出れば買い換えようと考えている人も多いといったことになろうか。
最後にもうひとつ、この調査は、回答を寄せた企業トップ614人に「あなたはパイロット・ライセンスを持っていますか」と訊いている。それに対して「イエス」と答えた人がなんと29％もいた。つまりビジネス機保有企業のトップは操縦資格を持つ人が多いわけで、もともと航空機に対する理解があり、それを積極的に利用しようという考えが出てくるのは当然であろう。
よく、ビジネス機を持つのはオーナー企業かワンマン企業だというが、もうひとつトップがパイロットの資格を持っているかどうかも重要な鍵であった。日本にビジネス機が少ないのもうなずけるような気がする。
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