NBAAショー(3)

新世代のファルコン7X

 

 

 仏ダッソー社が開発中のファルコン7Xは高アスペクト比の主翼にフライ・バイ・ワイヤを組み合わせ、広くて快適なキャビン・スペースと長航続性能を持つ新世代の3発ビジネスジェットである。

 現用ファルコン900EXにくらべて、航続距離は10,550kmで3割増、キャビン・スペースは2割増、価格は3,500万ドル余で1割増となる。900EXとガルフストリームW-SPの中間に位置するといえよう。

 今年7月のパリ航空ショーで計画が発表されたときは、ファルコンFNXと呼ばれていたが、最近7Xに変わった。ファルコン・ビジネスジェットには、これまでファルコン10のような2桁の数字、ファルコン200のような3桁、ファルコン2000のような4桁の数字がついていた。それが、ここにきて1桁になったのは新世代への飛躍を示すのだという。

 またダッソー社は1桁の「簡単な数字の方が将来性があって魅力的」という(私にはよく理解できぬが)。しかも「7」という数字はラッキーナンバーであり、将来はその前後の番号を使って大小さまざまな派生型を開発し、発展させてゆけるからとか(日本ならば末広がりの「八」の字になるところだろうか)。またXは未知の神秘的な雰囲気をただよわせると共に、高度の飛行特性を示唆するものだそうである(広告宣伝会社の無理なこじつけに、ダッソー社がまどわされていなければいいのだが)。

 主翼はアスペクト比が高い。これで遷音速領域の空力特性が良くなり、マッハ0.90までは抵抗や振動が少なく、高速巡航性能を発揮することができる。

 さらにフラップ、スラット、スロットを全展開にすれば、巡航時の3倍の揚力が発揮できるので、進入速度は104ktと900EXより5kt下げることも可能。そのため着陸滑走距離は716mという短さである。

 キャビン内部は幅が900EXと同じだが、長さは2.5mほど延びて12.5m以上。ガルフストリームW-SPとほぼ同じである。乗客も乗員もゆったりした快適な機内で、13時間という長時間の飛行も可能となる。

 客席は標準で10席。機内は大きく3区画に分かれ、前後に手洗いやギャレーがつく。乗員の休憩室を設けることも可能。

 防音装備も非常に良く、機内の平均騒音レベルは50〜52デシベル。与圧は巡航高度15,000mでも1,800m相当になる。

 ファルコン7Xの操縦系統はビジネスジェットとしては初めてフライ・バイ・ワイヤとサイドスティックを採用する。その利点は、ダッソー社の説明によれば「サイドスティックを通じて、フライトパスのコントロール、フラップの出し入れなど翼の形状変更に伴う自動トリム調整、およびヘディングやピッチ姿勢が正確になる」。 またウィンドシアに遭遇したときはパイロットが機体強度を気にすることなく限度いっぱいの迎え角を取ることができ、衝突回避操作に際しては失速の心配なしに最大限の飛行性能を引き出すことが可能。こうしたことはパイロットによるサイドスティックの操作がそのまま操縦翼面に伝わるのではなく、いったんコンピューターに入って、改めて操縦翼面に指示が出て行くからである。また車輪ブレーキにもブレーキ・バイ・ワイヤが使われている。

 コクピットの風防は4枚。これまでのファルコンにくらべて視界が広い。

 エンジンはPW307Aターボファン(推力2,760kg)が3基。PW300シリーズはファルコン2000EXのほか、ホーカー1000、ガルフストリーム200、リアジェット60などに使われてきたが、最近ではサイテーション・ソヴリン、ホーカーホライゾン、ドルニエ・エンボイ3にも使われている。実績が多いのでオーバホール間隔は7,200時間である。

 飛行速度は最大マッハ0.90、巡航マッハ0.87。最大離陸重量は29,500kg。燃料搭載量は13,150kgである。

 燃料を満タンにすると、乗客8人と乗員4人で10,550kmの航続距離になる。これがファルコン7Xの標準的なペイロード航続性能で、主要都市間の距離を分析し、顧客の意見を聞いた結果から定められた。たとえばパリを起点にすれば、東へ10,550kmの範囲には東京、北京、ヨハネスブルグが存在する。西へ飛べばロサンゼルス、メキシコシティ、サンパウロがある。

 ニューヨークが起点ならばヨーロッパ全域と南米の全域、そしてリヤドやホノルルが入る。ただし東京へは直接飛べない。 

 こうしたファルコン7Xは2005年春に初飛行し、2006年夏までに型式証明を取り、直ちに量産機の引渡しに入る予定。最近までの予約注文は41機という。1機あたりの価格は3,565万ドル。

 なおダッソー社ではファルコン2000EXの飛行試験もつづいている。同機は去る10月25日に初飛行したもので、PWC308Cエンジン(推力1,470kg)2基を装備、現用ファルコン2000よりも燃料搭載量が増え、航続距離は7,000kmと25%増になる。

 型式証明は2002年後半に取得、2003年初めから引渡しがはじまる予定。

(西川渉、2001.12.19)

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