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拡大する市場と新機種の開発

ビジネス・ジェットだけで5,300機

 アライドシグナル社は去る9月下旬、米国ビジネス航空協会(NBAA)の年次大会で、向こう10年間のビジネス機に関する需要予測を発表した。

 それによると、1998〜2008年の間に新製ビジネス・ジェットだけで5,300機の売れゆきが期待できるという。金額にして600億ドル(約7.2兆円)に相当する。

 このような大きな需要が見こめる理由は、ビジネス活動が国際的に活発になり、経済界の将来見通しが明るくなっていること。また今のメーカー各社が開発中の新しいビジネス機種が数年以内にいっせいに実用段階に入り、顧客の購買意欲を刺激するためという。結果としてビジネス機の需要は1998〜99年に大きく伸び、99年にピークに達したのちも需要は横這いで続き、2007〜2008年に再び次のピークがくるという。

 現実にも、1997年上半期のビジネス・ジェット引渡し数は前年同期の43%増、金額にして58%増であった。これにより97年中の引渡し数は約400機、98年は480機と予想される。さらに1997〜2001年の5年間に引渡されるビジネス・ジェットは2,300機になり、過去5年間に生産された新製ジェット1,421機に対して61%の増加と見られる。

 また、この5年間に製造されるビジネス・ジェットは、43%がいま開発中の新機種であり、75%は北米向けになる。当分はなお米国とカナダがビジネス市場の中心というのである。

  

ホライゾンとギャラクシー

 では、こうした拡大市場に向かって、今後どのような機材が出てくるのだろうか。

 最も顕著な動きは大手旅客機メーカーの参入だが、ボーイングとエアバス両社の開発計画については本紙7月2日付でご報告したばかりだから、ここでは触れない。ただしボーイング・ビジネス・ジェット(BBJ)はパリ航空ショー以来5機の追加注文を受け、総受注数は25機になった。同機は1998年後半から引渡しに入る予定で、98年は9機、99年は24機の生産を計画している。

 一方エアバスA319CJコーポレート・ジェットはパリで開発計画が明らかにされてから、3か月間に7機の注文を受けた。引渡しは1999年なかばからはじまる。

 これらの超大型ビジネス機に対して、長距離用ビジネス機として先行しているのはガルフストリームGVとグローバル・エクスプレス。これも本紙7月2日付でご紹介したが、GVは最近までの受注数が74機に伸び、引渡し数は20機を超えた。またグローバル・エクスプレスは現在4機がテスト飛行中で、98年5月に型式証明を取得する予定。受注数は68機になった。

 このGVとグローバル・エクスプレスに、ファルコン900、ガルフストリームW-SP、チャレンジャーなど総重量20トン以上の大型ビジネス機を加えたのが、別表に示す大型機グループである。先の超大型機と合わせて1998〜2008年の間に1,100機の需要が見こまれる。

 スーパー中型機は新しいホーカー・ホライゾンやギャラクシーを含む5機種。このうちホライゾンは1年前に開発がはじまったもので、NBAA大会の会場には実物大のモックアップが展示された。最近までの受注数は約1ダースとか。初飛行は1999年、型式証明の取得は2001年の予定。巡航速度マッハ0.78で6,300kmの航続性能をもつ。燃料満タンのときのペイロードは485kgまたは乗客5人である。

 ギャラクシーは9月4日、イスラエルでロールアウトしたばかり。今年末に初飛行し、98年中に型式証明を取る予定。年間18〜24機の量産を計画している。

 

リアジェット45に型式証明

 中型機グループには、新たにフェアチャイルド・ドルニエ社から328JETが参入してきた。乗客34人乗りのコミューター・ジェットとして開発中の機体をビジネス機に転用しようというもの。元来が旅客機だから社内連絡便をねらうもようで、乗客19人をのせて3,700kmの航続性能をもつ。エンジンはPW306Bターボファン(推力2,744kg)が2基。

 これらスーパー中型機と中型機は総重量が10トン代で、11年間に1,800機の需要が予測される。それに軽中型機が1,400機と予測されており、この3グループがビジネス・ジェットの中核をなす。

 軽中型機の中では、リアジェット45がNBAA大会の前日、9月22日に型式証明を取って注目された。4人が乗って3,700kmを飛べる双発のビジネス・ジェットで、最近までの受注数は135機。量産機の引渡しは11月からはじまり、来年1月末までに12機を引渡し、次年度は48機、3年度は60機の生産予定。

 このリアジェット45に真っ向から対抗するのがセスナ社のサイテーション・エクセル。サイテーション・ファミリーの最新型で、サイテーションXと同じ大きな胴体を持ちながらコストの安いのが特徴。航続距離も長い。今大会では、テスト飛行中の3機のうち1機が展示されたが、1日だけですぐにウィチタへ戻ってしまった。よほどテスト・スケジュールが忙しいのであろう。

 原型3機の飛行時間は最近までに合わせて1,500時間を越えた。来年1月には型式証明を取得、ただちに量産機の引渡しに入る予定。受注数は200機を越えた。セスナ社は、このエクセルが世界のビジネス航空界をリードするベストセラーになるものと期待している。

  

SJ30-2とプレミアワン

 小型グループではSJ30-2とプレミアワンが新しい。SJ30-2は9月4日に初飛行したばかり。わずか7時間の飛行をしただけでNBAA大会に参加した。米スウェリンジェン社と台湾の投資家グループが共同開発中のビジネス・ジェットで、機内はパイロットを含めて最大7人乗り。ウィリアムスFJ44-2Aエンジン(推力1,040kg)2基を装備して、最大速度はマッハ0.8以上を超える。

 ただし最近、航続性能を確保し、洋上長距離飛行のための緊急装備を搭載するため、胴体を延ばして重量を増やす必要が出てきた。この設計変更により開発日程が遅れ、型式証明の取得は早くても1999年秋、引渡し開始は2000年に入るもよう。これまでの受注数は74機だが、最終的に300機以上の販売をめざしている。

 レイセオン社のプレミアワンは、小型機ながら複合材製の胴体が中型機なみの大直径で、1,500mの滑走路から離陸し、マッハ0.7で航続2,700kmの飛行性能をもつ。ペイロードは燃料満タンとパイロット1人のほかに360kgの搭載が可能。売れ行きも順調で、NBAA大会の会期中に100機目の注文が出た。開発日程は多少の設計変更によってやや遅れ、初飛行は1998年夏。1999年なかばまでにFAAの型式証明を取って引渡しに入るという。

 

新しい単発ジェット計画

 以上のような双発ジェットに対し、最近は新しい単発ジェットの計画も出てきた。実機が見られたのは、ビジョンエア社が開発中のヴァンテージ。6人乗り、全複合材製のターボファン機で、エンジンはJT15D-51。750mの滑走路から離陸し、1,660kmを飛ぶことができる。1999年末までにFAAの型式証明を取り、10年間で1,000機以上の生産目標を掲げている。すでに、価格175万ドルで103機を受注した。

 もうひとつのセンチュリージェットは計画段階。6人乗りのモックアップが展示されたが、ウィリアムス FJ44エンジンを装備、ヴァンテージ同様、離陸距離750mで2,960kmという長航続性能をもつ。

 さらにニューパイパー社も単発ビジネス・ジェットの開発を検討中。おそらくは、これもウィリアムスFJX-2ターボファン・エンジンを装備、低コスト、高性能のパーソナル・ジェットを狙っている。

 なおヴィジョンエアは、こうした小型単発ジェットが向こう10年間に約2,000機売れると見ている。アライドシグナル社の小型双発機を合わせて1,000機という予測に対して、はるかに大きな予測で、将来が楽しみである。

 以上を合わせて、2008年までに5,300機のビジネス・ジェットが生産されるというのがアライドシグナル社の予測である。実は昨年の予測は、2007年までに4,400機というものだった。この大きな違いから見ても、今年は将来展望が開けてきたということができよう。

 

 

ビジネス・ジェットの需要予測(19982008年)

機種(最大離陸重量)

予測機数

超大型機

Jumbo

ボーイングBJ(77,560kg)

エアバスA319CJ(75,500kg)

1,100

大型機

Large

グローバル・エクスプレス(42,412kg)

ガルフストリームV(41,050kg)

ガルフストリームW-SP(33,200kg)

チャレンジャー60421,590kg)

ファルコン90020,640kg)

スーパー中型機

Super Medium

ファルコン500EX(17,600kg)

ホーカー・ホライゾン(16,330kg)

ファルコン200016,238kg)

サイテーションX(16,010kg)

ギャラクシー(15,172kg)

1,800

中型機

Medium

ドルニエ328JET14,990kg)

ホーカー800XP(12,700kg)

アストラSPX(10,659kg)

リアジェット6010,319kg)

サイテーションZ(10,183kg)

軽中型機

Light Medium

リアジェット459,163kg)

サイテーション・エクセル(8,482kg)

サイテーション・ウルトラ(7,394kg)

ビーチジェット400A(7,303kg)

サイテーション・ブラボ(6,486kg)

1,400

小型機

Entry

シノ・スウェリンジェンSJ30-25,700kg)

プレミアワン(5,125kg)

サイテーション・ジェット(4,717kg)

1,000

小型単発機

Single

ビジョンエア・ヴァンテージ(3,400kg)

センチュリージェット(2,720kg)

合       計

5,300

[注]この表はアライドシグナル社の報道資料にもとづいて、筆者が整理作成したもの。機種の入れ換えや追加など多少の手を加えたが、予測総数は変わっていない。

 

(西川渉、1997年10月29日付『WING』紙掲載)

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