ことしの国際ビジネス航空ショーは、NBAA(米ビジネス航空協会)の主催によって、去る10月19、20、21日の3日間、ラスベガスで開催された。
ネオンの洪水に彩られたカジノの町を見る限り、アメリカの不況はどこにも感じられない。事実ここでは豪華ホテルの建築が相次ぎ、つい1週間前にも3,000室の巨大ホテルが開業したばかり。そのすぐ向こうでも、来年春に完成予定の建築が進行中といった具合である。
そうした好況ぶりを反映するかのように、一般企業の間ではますますビジネス機の利用が増え、NBAA年次大会の参会者は31,665人で前年比22%増、出展者は968社で前年比11%増となった。そしてショーの会場となったコンベンション・ホールでは、ビジネス機のさまざまな開発計画が発表され、高額の発注契約が交わされた。
ビジネス航空界は今、最盛期を迎えたといっていいであろう。開発計画も目白押しで、ビジネス・ジェットだけでも次表の通り、世界中の航空機メーカーによって15種類以上の計画が進んでいる。
|
|
|
|
ビジョンエア・バンテージ |
3,175kg |
1996.11.14 |
1999年末 |
センチュリージェットCA-100 |
3,175kg |
2000年10月 |
2001年末 |
セスナCJ1 |
4,808kg |
|
2000年春 |
〃 CJ2 |
5,579kg |
1999年夏 |
2000年末 |
〃 ウルトラ・アンコール |
7,543kg |
1998.7.9 |
1999年末 |
〃 ソヴェリン |
16,193kg |
|
2002年夏 |
レイセオン・プレミアI |
5,125kg |
1998年秋 |
1999年秋 |
〃 ・ホーカーホライゾン |
16,329kg |
1999年末 |
2001年春 |
シノ・スウェリンジェンSJ30-2 |
5,580kg |
1996.11.8 |
2000年 |
IAIギャラクシー |
12,474kg |
1996.12.25 |
1998年末 |
ボンバーディア・コンチネンタル |
17,000kg |
2001年春 |
2002年夏 |
フェアチャイルド・エンボイ3 |
15,200kg |
1998.1.20 |
1999年3月 |
〃 ・エンボイ7 |
34,860kg |
|
2001年末 |
BAeアヴロ・ビジネス・ジェット |
42,185kg |
|
|
エアバスA319CJ |
75,500kg |
1999年5月 |
1999年夏 |
ボーイングBBJ |
77,560kg |
1998.9.4 |
1998年末 |
ダッソーSST |
| ||
ガルフストリーム・ロッキードSSBJ |
|
多数の開発計画の中で、今年のNBAA年次大会で初めて明らかにされたのはセスナの4機種とボンバーディア・コンチネンタル、そして単発計画から双発へ変身するセンチュリージェットCA-100である。ほかにフェアチャイルド・ドルニエ・エンボイ7とBAeアヴロ・ビジネス・ジェットなど旅客機からの派生型も新たな開発構想が出てきた。その他の計画も向こう2〜3年以内の完成をめざして、激しい開発競争と販売競争にしのぎを削っている。
その中で、セスナ・エアクラフト社は盛況のビジネス航空に呼応して、新しいビジネス・ジェット「ソヴリン」の開発計画を発表し、さらにサイテーション・ウルトラの発達型「ウルトラ・アンコール」、サイテーション・ジェットの改良型CJ1、そのストレッチ型CJ2の計画を明らかにした。合わせて4機種の開発作業を同時並行的に進めようという意気ごみである。
ソヴリンとは業界の覇権をめざす君主とか主権者の意味であろうか。サイテーション・ファミリーの一つとして、サイテーションXよりはやや小さい中型機で、乗客8人をのせて4,600kmの航続性能をもつ。エンジンはPW306C(推力2,580kg)が2基。この強力エンジンによって1,200mの滑走路で離陸、東向きならば20分で高度12,500m、西向きならば26分で13,100mに達し、巡航速度820km/hで飛行する。2002年夏までに型式証明を取って、秋から引渡しに入る計画。基本価格は1,195万ドル。
ウルトラ・アンコールは現用サイテーション・ウルトラの発達型。エンジンは従来のP&W JT15D-5Dに換えて新しいPW535A(推力1,520kg)2基を搭載、出力を10%増としながら、燃費は16%改善される。そのため上昇性能が良くなり、航続距離が伸びる。離陸滑走路長は1,085m。また主翼の防氷装置や車輪ブレーキも改善される。
試作1号機はすでに今年7月9日に試験飛行を開始、これまでに110時間を飛んだ。今後は1999年末までに型式証明を取り、2000年春から量産機の引渡しに入る予定。基本価格は688万ドル(約8.5億円)。
CJ1はサイテーション・ファミリーの中では最も小さい。従来のサイテーション・ジェットは価格が安いせいもあって、1993年の就航以来、好調の売れ行きを示してきた。その最大離陸重量を90kgほど増やし、燃料満タンでもパイロット1人に乗客3人と手荷物34kgをのせることができる。離陸滑走路長は1,000m。コクピットには最新のアビオニクスを装備して、パイロットの操作性と信頼性を高める。
姉妹機CJ2は主翼スパンを広げ、キャビンを1mほど延ばして、乗客6人がゆったりすわれる。最大離陸重量も増え、尾部の貨物室が大きくなって、小型ビジネス・ジェットとしては最大級の2立方米以上の容積。燃料搭載量もCJ1の1,460kgから1,810kgへ増加する。エンジンはウィリアムス・ロールスロイスFJ44-2C(推力1,043kg)が2基。13,000m以上の高々度をCJ1よりも速い740km/hの巡航速度で飛び、航続距離は3,100kmになる。パイロットは1人乗務で操縦可能。1999年夏までに初飛行し、1年間の試験飛行で型式証明を取ったのち、2001年初めから引渡しに入る計画。基本価格は420万ドル(約5億円)である。
ボンバーディア社もショーの開幕前夜、新しいスーパーミッドサイズのビジネス・ジェット「コンチネンタル」の開発計画を明らかにした。この命名には大陸横断の長航続性能の意味がこめられている。乗客は8人乗り。左右幅2.18m、天井の高さ1.85mという大きなキャビンをもち、その後方には洗面所と手荷物室がある。
エンジンはアライドシグナルAS907ターボファン(推力3,445kg)2基を採用。飛行性能は高度12,500mを巡航マッハ0.80で飛び、航続距離は5,740kmとなる。
ボンバーディア社としては、航続4,260kmの現用リアジェットと7,400kmの大陸間横断が可能なチャレンジャーの中間を埋めるものという位置づけ。基本価格は1999年1月末までの受注分が1,350万ドル(約16億円)、その後が1,425万ドル(約17億円)に上がる。また運航費は、1時間あたりの変動費が燃料費、整備費を合わせて811ドル(約10万円)しかかからないという。これから顧客の予約を取り、1999年なかばから正式の開発作業に着手する。
センチュリー・エアロスペース社は、単発機として計画してきたセンチュリージェットを双発化することにした。センチュリージェットCA-100と呼ばれ、ウィリアムス・ロールスロイスFJ44-1を1基搭載する代わりに、FJ33-1エンジン(推力540kg)2基を搭載するもの。したがって、超小型の双発ビジネス・ジェットということになる。基本価格は238万ドル(約2.8億円)で、競争相手のサイテーションジェットCJ1より100万ドルほど安いらしい。直接運航費は1時間当たり350ドル(約41,000円)以下という。販売目標は向こう10年間に300機。
ガルフストリーム社からは今回さほど大きな新計画は出なかったが、現用GW-SPの改良計画を発表した。翼端にG-V同様のウィングレットをつけ、航続距離を350kmほど伸ばすというもの。電子装備も最新のものに改められる。
こうした改良計画はダッソー社にも見られる。ファルコン900C三発ジェットがそれで、現用900Bを基本に最新の電子装備を搭載するもの。また乗客5人で、7,400kmの航続性能をもつ。1999年春までに型式証明を取り、2000年から引渡しに入る。
|
センチュリージェットCA-100 |
セスナCJ1 |
セスナCJ2 |
キャビン高 |
1.42m |
1.46m |
1.46m |
〃 幅 |
1.45m |
1.49m |
1.49m |
〃 長 |
4.50m |
4.84m |
5.76m |
最大離陸重量 |
3,175kg |
4,808kg |
5,579kg |
有効搭載量 |
1,256kg |
1,769kg |
2,222kg |
エンジン |
FJ33-1 |
FJ44-1A |
FJ44-2C |
離陸推力 |
544kg×2 |
860kg×2 |
1,043kg×2 |
離陸滑走路長 |
868m |
847m |
967m |
最大巡航速度 |
685km/h |
704km/h |
741km/h |
航続距離 |
2,960km |
2,732km |
3,111km |
ほかに旧来からの計画の進捗ぶりを見てゆくと、イスラエルのギャラクシー3号機が9月24日に初飛行し、初めてアメリカに飛来、ショー会場に展示された。この3号機は量産型の1号機でもあり、イスラエルからパリ経由で大西洋を越えてきた。エンジンはPW306A(推力2,740kg)が2基。滑走距離1,800mで離陸し、6,850kmの航続性能をもつ。上のボンバーディア・コンチネンタルにも匹敵するスーパーミッドサイズ機として、今年12月に型式証明を取る予定。基本価格は1,690万ドル(約20億円)。
またフェアチャイルド・ドルニエ社が開発中の328JETコミューター機をビジネス機として改装するエンボイ3も実機が展示された。エンボイ3は328JETコミューター機に燃料タンクを増設し、乗客10人で3,700kmの航続性能をもつ。ちなみに328JETは乗客32人乗りで航続1,800kmである。
レイセオン社が開発中のプレミアIは、原型1号機が去る8月19日にロールアウトした。間もなく初飛行して4機で1,400時間以上の飛行試験をおこない、1999年秋までに型式証明を取る予定。8人乗りで850km/hの巡航速度と2,700kmの航続性能をもち、基本価格は430万ドル(約5億円)。最近までの受注数は130機以上という。
シノ・スウェリンジェンSJ30-2は乗客6〜7人乗りで、高度15,000mをマッハ0.8の巡航速度で飛ぶ。航続距離は4,630km。エンジンはウィリアムス・ロールスロイスFJ44-2Aが2基。試験飛行には3機が当たる予定。基本価格420万ドルで、最近までに135機が売約ずみという。
ビジョンエア・バンテージは小型の単発ビジネス・ジェットである。全複合材製の6人乗りで、巡航速度650km/h、航続距離1,850km、離陸滑走路長762mという飛行性能を持つ。エンジンはプラット・アンド・ホイットニーJT-15D。目下、原型2機と量産型1機が試験飛行中で、近く4号機も試験飛行に加わり、1999年末までに型式証明を取って、2000年初めから量産機の引渡しに入る計画。基本価格は180万ドル(約2.1億円)で、少なくとも150機の注文を受けているという。生産計画は2000年に60機、翌年は120機の予定。
ほかにも旅客機からビジネス機へ改造されるエンボイ7やアヴロBJがあり、将来に向かっては超音速ビジネス・ジェットの開発が研究されているが、そのもようは後日ご報告したい。
(西川渉、『WING』紙98年11月11日付掲載)
(「ビジネス航空篇」目次へ戻る) (表紙へ戻る)