NBAA98レポートA

旅客機からビジネス機へ

 

 旅客機をビジネス機として使う例は昔からあった。特にかつての自家用機は小型プロペラ機が多かったから、窮屈で乗り心地が良くない。そのうえ速度が遅く、航続距離が短かくて、移動効率が上がらない。そこで旅客機を自家用機やビジネス機として使うことが考えられた。

 有名なのは『プレイボーイ』誌を創刊したヒュー・ヘフナーのDC-9であろう。この飛行機は「ビッグバニー」と呼ばれ、全身を真っ黒に塗って、垂直尾翼に特有のウサギの頭を白く描き出し、1970年代前半ヘフナーの住まいがあったシカゴやロサンゼルスから世界中を飛びまわった。機内は居間やギャレーやバーのほかにディスコまであり、映画やビデオの上映室、16人分のベッドなどが設けられていたという。さぞかし豪華で賑やかな自家用機であっただろう。

 同じような例はほかにもあるが、そうした夢を特殊な例外としてではなく、ごく普通のビジネスのうえで実現してゆこうというのが、いま売り出し中のボーイング・ビジネス・ジェットBBJやエアバスA319CJコーポレート・ジェットライナーである。いずれも旅客機の内装を改め、乗客数や貨物搭載量が少なくなる分だけ燃料タンクを増設して航続距離を伸ばす。これで近距離用旅客機でも大陸間の長距離飛行が可能になるというのが大きな特徴である。

ボーイングBBJ対エアバスA319CJ

 BBJは去る8月17日に初飛行した。この原型1号機は今回のビジネス航空ショーにも飛来したが、試験飛行中のせいか機内の公開はされず、空港の地上展示会場からやや離れたところに置いてあり、遠くから外観を見るだけであった。新しい737-700の胴体に737-800の主翼を組み合わせ、主翼両端にウィングレットがついている。

 このウィングレットは高さ2.5m。去る6月737-800に取りつけてテスト飛行がおこなわれたもので、BBJにはこのラスベガス空港で初めて装着され、公開された。ウィングレットによってBBJは主翼の抵抗が減少して燃費が減り、航続距離が5.5〜7%伸びる。その結果、乗客8人をのせマッハ0.82の巡航速度で11,480kmを飛べるという。実用化は来年夏の予定である。

 なおボーイング社は、こうした長距離用の大型ビジネス機について、将来600機の需要があると見ている。BBJとしては、そのうちの4割、240機の販売を目標とし、すでに46機の注文を受けた。うち17機は今回のNBAA会場で3日間のうちに発表されたもので、年末までに早くも8機が引渡され、1999年は28機を生産する予定。基本価格は3,375万ドル(約40億円)。型式証明はNBAA大会の時点で11月2日に取得するとのことであった。

 対するエアバスA319CJも負けてはいない。こちらはBBJのように胴体と主翼の組み合わせを変えたり、ウィングレットを取りつけるわけではない。A319そのものの内装を改め、増加タンクを取りつけるだけである。飛行性能は乗客8人乗りで11,660km。

 1号機は来年5月に初飛行し、70時間ほどの試験飛行をしたのち、11月から顧客への引渡しがはじまる。2000年末までの引渡し数は4機だが、その後は毎月1機の生産を予定している。試験飛行が少なくてすむのは、現用A319とほとんど変わらず、大きな試験項目が3点しかないため。すなわちエンジン出力の強化、12,500mの高々度巡航、燃料タンクの増設である。エンジンはCFM56-5BかV2500のどちらでも選択装備ができる。巡航速度はマッハ0.78

 こうしたA319CJの最近までの受注数は12機になった。この中には一般企業のほかに、イタリア政府からの注文が含まれる。基本価格は3,500万ドル(約40億円)だが、内装工事など顧客の好みに応じて4001,000万ドルの費用がかかる。

 なおエアバス社は、ボーイングBBJとの違いについて、キャビン容積は1割増し、キャビン幅は20cmほど広い。またA319CJは2機種の異なった胴体と主翼を組み合わせたわけではないから、普通の航空会社が使っている定期路線用の機体とほとんど変わらず、旅客機としても容易に転売することができる。また主降着装置を4ボギーにすれば滑走距離が短くてすみ、発着可能な空港がBBJよりもはるかに多くなるとしている。

 またガルフストリームVやボンバーディア・グローバル・エクスプレスに対しては、ほとんど同じ航続性能でありながら、機内は3倍のスペースがあり、基本価格も余り変わらないとしている。

あとに続くアヴロBJとエンボイ・セブン

 さて、このようなBBJやA319CJの好調ぶりを見て、英BAe社も黙って見過ごせなくなったか、現用アヴロ旅客機をビジネス機に改装する「アヴロ・ビジネス・ジェット」計画を発表した。

 これは4発ジェットのビジネス機ということになり、エンジンを現在のアライドシグナルLF507ターボファン(推力3,175kg)に代えて、アライドシグナルAS907かPW308になる予定。これで燃料効率は15%向上し、整備コストは20%減になる見こみである。

 キャビン内装はVIP乗用機と社内連絡機の2種類が考えられている。社内連絡便に使う場合は乗客数を60人乗りとし、燃料タンクを増設して、航続5,700kmとすることができる。またアヴロBJは離着陸距離が短く、高温・高地性能が良いのも特徴。

 価格は内装を含めて連絡便用が約2,750万ドル、VIP用が3,000万ドル(約35億円)である。

 さらにフェアチャイルド・エアロスペース社からも新しいエンボイ7の開発計画が発表された。目下開発中のドルニエ728JET双発ジェット・コミューター機(旅客70席)をビジネス機に改めるもの。乗客1619人を想定して、高度12,500mをマッハ0.80の巡航速度で飛び、7,700kmの航続性能をもつ。

 基本価格は2,850万ドルだが、実質的な内容は4,000万ドル級の豪華ビジネス・ジェットに匹敵するというのがメーカーの主張。つまり大きくて豪華なキャビンと高性能を持ちながら、機体価格も運航費も安いというすぐれた経済性が大きな特徴で、たとえばキャビンはガルフストリームWの2倍の広さがあるが、価格はほぼ同じである。

 今後の開発日程は、コミューター機としての728JETが来年初めから本格的な開発に入ることから、その一部として作業がおこなわれる。ビジネス機としてのエンボイ7は2001年末までに型式証明を取り、2002年春から量産機の引渡しに入る計画。エンボイ7の需要見こみは70100機。

 一方、328JETコミューター機(32席)を基本とするエンボイ3も開発作業が進んでいる。同機はPW306ターボファン・エンジン2基を装備するビジネス・ジェットで、乗客8〜12人をのせて航続3,700km。来年5月から引渡しがはじまる。基本価格は1,300万ドル(約15億円)で、最近までの受注数は12機。将来に向かっては総数およそ60機の需要を見こんでいる。なおNBAAショーには、328JETの原型3号機が大西洋を渡って飛来した。

旅客機改修型ビジネス機の諸元比較

ボーイング

    BBJ

エアバス

 A319CJ

エンボイ7

アヴロBJ

最大離陸重量

77,560kg

75,500kg

34,860kg

42,185kg

キャビン長

24.13

23.78

16.9

17.81

キャビン幅

3.53

3.70

3.25

3.42

キャビン高

2.16

2.16

2.11

2.07

キャビン床面積

75u

78.75u

不詳

不詳

エンジン

CFM56-7

IAE V2500またはCFM56

GECF34-8D3

LF507-1F

エンジン推力

10,890kg×2

12,000kg×2

6,030kg×2

3,175kg×4

最大巡航速度

マッハ0.82

マッハ0.82

マッハ0.81

マッハ0.73

航続距離

11,480km

11,500km

7,700km

5,100km

 かくて既存の旅客機をビジネス機に仕立て直すという開発手法は、比較的容易でしかも有効という見方が一般化してきた。ビッグバニーの夢を追った大型ビジネス機の普及である。

(西川渉、『WING』紙98年11月18日付掲載)

 

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