<ライト兄弟初飛行100年>

書評:世界航空機文化図鑑

 

 『世界航空機文化図鑑』(R.G.グラント著、翻訳監修&訳=天野完一/訳=乾正文、東洋書林、2003年11月15日発行)はライト兄弟100周年にふさわしい立派な本である。開巻劈頭、高い塀のこちら側に自転車を立てかけ、サドルの上に立ち上って中を覗きこんでいる人びとのユーモラスな写真がある。塀の向こうでは飛行機の離着陸がおこなわれているのだ。こうした好奇心にかき立てられた夢が、この100年間の航空の進歩をもたらしたのであろう。

 旧臘12月17日を境にして、航空界は新世紀に入った。これからどのような発展をするのか心躍るような期待がふくらむが、その前にこれまでの100年間を振り返り、先人たちの努力と苦労の跡を知るのも大切である。

 航空機は、滑空機による命がけの試みを踏み台として動力飛行が始まり、実用化と同時に戦場に駆り出されたのち、一般客も飛行機に乗るようになった。その後、飛行船と飛行艇による長距離航路が開拓され、第2次大戦の死闘を経て、タービン・エンジンが実用になる。

 ジェット化した飛行機はやがて音速の壁を超え、旅客機も超音速が登場する。また超巨人機が実現して航空旅行が大衆化する一方、ヘリコプターが登場し、垂直飛行の特性を生かした分野で重宝され、ティルトローターへ発展する。宇宙旅行についても、本書はスプートニクに始まって、月着陸からスペースシャトルはもとより、国際宇宙ステーションの将来構想にも詳しく触れている。

 本書のもうひとつ大きな特色は、こうした100年間の航空物語が全頁カラーの写真や図版で、美しく、見やすく、分かりやすく飾られていることである。その中には歴史的にも貴重な写真が豊富に含まれる。

 さらに各章、各節ごとに先人たちの数々の言葉が掲げられ、これだけでも航空の100年間をたどることができる。その発端となったライト兄弟の言葉を引くと次の通りである。

「空を飛ぶということは、鳥が無限のハイウェイともいうべき空中を自由に舞うのを羨望の目で眺めた我々の先祖から引き継いでいる欲望だ」(兄ウィルバー・ライト)

「わずか12秒間の飛行であった。Lかも不安定で、波状運動に悩まされ、空中を這うような飛行だった。だがこれは、紛れもなく動力飛行であり、滑空ではなかった」(弟オーヴィル・ライト)

 そしてライト兄弟よりも、はるかに古い人物、レオナルド・ダ・ヴィンチはこう言っている。「ひとたび飛行に挑んだものは、永遠にその虜となる」

 航空と宇宙の世界には、まだまだ挑むべき課題が多い。本書を手にした若者が、いったん航空の世界に関心をもてば、必ずや虜となって、そこからまた新たな世界が広がるであろう。

(西川 渉、『日本航空新聞』2004年2月26日付掲載)

 

 

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