<パリ航空ショー>

三菱リージョナルジェット

 欧州ヘリコプター救急医療体制について、何度目かの調査のため2週間近く留守をしました。したがい本頁の更改もできないままとなりましたが、今日からまた鋭意、更新を続けてゆきますのでご愛顧いただきたく、お願い致します。ちなみに本頁の読者数は6月の1ヵ月間で約81,950人。更新が少なかったにもかかわらず、1日平均2,730人でした。次回の国外出張からは出先でもホームページの更新ができるよう、何らかの工夫をしなければなるまいと考えています。

 なにしろ、わずかな間の留守中にも念願の「ドクターヘリ緊急措置法」が成立したり、宮沢元首相がなくなったり、元公安調査庁長官が逮捕されたり、ひき肉の中味が出鱈目の混ぜものだったり、世の中はどんどん動いています。そういえば橋本元首相の死去も私が国外に出ていたときで、むろん何の関係もありませんが、それ故にこそ帰国後もしばらく気づかぬまま、何かのときに「故橋本……」と聞いてびっくりした憶えがあります。

 この調査行の間、パリ航空ショーを見ました。旅程の都合上、会場に行ったのは4日目で、メーカーの記者会見なども終ったあとでした。記者発表はほとんどが初日に集中し、2〜3日目で補足的におこなわれるのが普通ですから、4日目はプレスセンターも人が少なく寂しい感じでした。その代わり、備えつけのコンピューターを使うのも楽にできます。

 会期は大きく2つに分かれ、6月18日(月)の初日から5日目までがビジネスデ−、5日目から最終日の7日目(6月25日)までがパブリックデーです。その5日目ホール4に一塊(ひとかたまり)になって展示されている日本のメーカーを訪ねました。下の写真は川崎重工が自衛隊向けに開発中の次世代大型ジェット2機種の模型で、両機とも間もなく初飛行が予定されています。

 

 上の写真左側はC-X貨物輸送機。高翼の双発機で、エンジンはCF6−80C2が2基です。最大離陸重量は14.1トン。貨物37.6トンを搭載してマッハ0.8で飛行できます。機内の大きさは4m×4m×16m。この飛行機を航空自衛隊は2011年から現用C-1輸送機に代わって約40機調達する予定ですが、C-1はすでに1974年以来、30年以上にわたって飛んできたそうです。

 手前の4発ジェットP-Xは海上自衛隊向けの哨戒機で、現用P-3Cに代わるもの。石川島播磨重工が開発中のXF-7ターボファン・エンジン4基を装備して、やはり2011年から約70機を調達の予定とか。

 こんな大きな輸送機や哨戒機を40機や70機つくって採算が合うはずがない。かといって日本には武器輸出3原則があり、国外へ売りわたすことができない。自衛隊としてはよっぽど高額な機体を買うことになるはずで、不合理このうえないと思います。

 川崎重工の向こう側では三菱重工が計画中のリージョナル・ジェットMRJのキャビン・モックアップを展示していました。実物大のコクピットと胴体部分を模したもので、非常に立派です。ところが、内部を見せてほしいというと、断られたのです。今日からパブリックデーなので、機内に人をいれるとキリがないからという理由です。

 しかし今日はビジネスデーでもあるし、第一そんなに人が詰めかけているわけでもない。周囲には誰もいないじゃないかというと、特別な人以外は見せられないという。なんだか「馬の骨」呼ばわりされたみたいで、確かにそうには違いないが、やっぱりカチンときた。無論こちらは最初から名刺を出して名乗っているわけです。

 こんなに立派なモックアップをわざわざつくって、はるばると日本から持ってきて、おそらくは高い料金を払って会場に展示しているのでしょう。にもかかわらず、内部を見せるわけにはゆかぬとはどういうことか。展示の意味がないではないかと押し問答をしていると、三菱の若い社員に代わって年配の女性が出てきました。そして、こちらの話を聞くと、しばらくお待ちくださいと言って引っ込み、やがてデザイナーを名乗る人物が登場しました。いずれも日本人です。

 デザイナーとは、航空機の設計者かと思ったのですが、どうやら内装のデザインをする人らしい。結局、内部を見せて貰うことになりましたが、先刻の詰まらぬ議論で気持が昂ぶっていたため、どんな説明を聞いたかほとんど憶えていません。座席にすわろうとすると頭上の手荷物入れにゴツンと頭をぶつけてしまい、ますますグラグラしました。これが実用になったとして、乗客の多くが、ゴツンゴツンとやるにちがいありません。ちなみに、私の身長は170センチ。ごく普通の日本人なみです。

 もうひとつ、わずかな記憶に残ったのは、車椅子も入る広々したトイレと、そこに窓があること。高い空から天下を睥睨(へいげい)しながら用が足せるわけです。このアイディアはボーイング787にもあったはずですが、787と違うところはウォッシュレットがつくとのことで、外人はきっと驚くでしょう。

 そして今になって気がついたことですが、せっかく見せて貰った三菱自慢のキャビン内部を、写真に撮ってくるのを忘れてしまいました。もっとも、カメラを構えた途端に撮影は禁止ですなどといわれたかもしれず、そうなると再び喧嘩にならざるを得ない。忘れていてよかったのかもかもしれません。

 こうした規制というのは警察や国家のやりたがることで、何かの秩序を保つには必要なことですが、人に見せるための展示をしながら見せないというのは、どう考えてもおかしい。どこかに秘密があるのなら最初から展示しなければいいわけで、三菱重工の妙にこわばった権威主義を感じさせられました。

 そんな官僚体質に憤慨しながら、フランスのエンジン製造企業ターボメカ社のシャレーに行き、同行の山野さんが咄嗟の機転で「ターボメカ・ジャパンの井上雅臣社長から是非訪ねるようにいわれてきた」と案内を乞うたところ、「聞いておりました。どうぞこちらへ」と奥のテラスへ導かれました。先方も機転をきかしたはずで、まことに気持の良いスマートな応対でした。先ほどの詰まらぬ論議で喉が渇き、頭がぐらぐらしているところだったので、砂漠の中のオアシスにたどりついたような気がしました。

 われわれは、滑走路に面したテラスで機嫌よくビールやエスプレッソを飲みながら、ターボメカ・エンジンを装備するヘリコプターから超巨人旅客機A380まで、みごとなデモンストレーション飛行を楽しんだことでした。


多数の兵員を吊下げて飛ぶスーパーピューマ


頭の上に覆いかぶさるように飛ぶA380超巨人旅客機

 なお、三菱リージョナルジェットにはMRJ70(70〜80席)とMRJ90(86〜96席)の2種類が計画され、それぞれに2種類の長距離型もできるようです。各標準型の設計仕様は下表のように予定されています。

仕 様 項 目

MRJ90STD

MRJ70STD

乗客数

86-96

70〜80

エンジン推力

7700kg×2

6,500kg×2

最大離陸重量(kg)

39,400

36,500

運用自重(kg)

24,900

23,900

航続距離(km)

1,610

1,690

巡航マッハ数

0.78〜0.82

0.78〜0.82

離陸滑走路長(m)

1,520

1,400

着陸滑走路長(m)

1,510

1,470

 このようなMRJが実際に開発されるかどうかは、来年3月に決まる予定です。70〜100席クラスのリージョナルジェットは、今のところカナダのボンバルディアとブラジルのエムブラエルが市場を分け合っており、そこへロシアや中国が参入しようとしています。折からショー会場で、ロシアのスホーイ・スーパージェット100がイタリアのイタリ航空(ItAli Airlines)から10機の注文を受け、さらに10機の仮注文を受けたと発表されました。同時にイタリア・アレニア社が開発と販売の協力をすることになったもようです。

 西側からの注文はこれが初めてとのことすが、MRJには強敵でしょう。しかし三菱重工の伝統と技術と「権威」を示すためにも後には引けません。開発が決まれば、費用の3割は国が出資することになっています。これまでの計画設計や市場調査の費用にも税金が投じられてきたのではないでしょうか。それらを無駄にしないでほしいと思います。

 

 

 


スーパージェット100(60〜95席)の完成予想図

(西川 渉、2007.7.2)

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