<パリ航空ショー>

アメリカをしのぐ欧州ヘリコプター勢

 欧州の二大ヘリコプター・メーカー、ユーロコプター社とアグスタウェストランド社は、ますますダイナミックな事業展開を進めている。それぞれフランスとドイツ、イタリアとイギリスのヘリコプター・メーカーが合併したもので、背景にはEADS、フィンメカニカという航空宇宙関連の大企業が存在する。

 最近の話題を拾ってみても、アグスタウェストランドはアメリカ大統領機の注文を取り、EH-101を基本とするVH-71が去る7月3日に初飛行したばかり。同機は総数23機が製造され、2009年秋から実際に大統領を乗せて飛ぶことになっている。

 ユーロコプター社もアメリカ陸軍のLUH多用途機の契約を獲得、EC145を基本としてUH-72Aを開発し、今年春から総数322機の引渡しに入った。つい先日もアメリカ税関当局と国土安全保障省からAS350B3について8機を受注した。税関は現在すでにAS350を43機とEC120を11機使っている。このクラスの小型機はアメリカにもあるし、ドルとユーロの為替レートを考えても、なぜ国産機を買わないのか、不思議なほどである。


ユーロコプターEC-145

 このような欧州勢の活力は、今年のパリ航空ショーにおける両社の力のこもった展示にも見ることができる。

 ユーロコプター社は広い区画を取って、小型双発機AS355NP、売れゆき好調のEC135, そしてEC145, EC155, EC225, EC725などの地上展示と、タイガー攻撃機やスーパーピューマ大型機のデモ飛行を見せた。またアグスタウェストランド社はA119コアラ、A109パワー、グランド、AW139、スーパーリンクス300、AW101対潜機、スウェーデン向け軍用機AW109などを展示した。

 両社ともに小型機から大型機まで、豊富な品ぞろえによって、あらゆる需要に応える意気込みが感じられる。また、この両社が共同で開発したNH90大型輸送用ヘリコプターは、いつの間にか受注数が495機に達した。ショー会場でもドイツから42機、ベルギーから8機の注文が発表され、スウェーデン向け1号機の引渡しも行なわれた。


軍用型AW139

 両メーカーの将来に関しては、たとえばユーロコプター社はロシアとの間で兵員30人乗りのユーロミルMi-38の開発に協力、中国とはEC-175の共同開発、韓国とは兵員11人を輸送するKHP軍用ヘリコプターの開発を進めている。EC-175はドーファンとスーパーピューマの中間の大きさで、2009年に初飛行、2011年に型式証明を取得する。またインド陸軍が197機の調達を計画している小型多用途機には、AS350を基本とするAS550C3が採用される可能性も高い。

 さらにフランスとドイツの軍当局はショー会場で、2020年頃までに大型輸送用ヘリコプターを導入したいという考えを明らかにした。これは両国共通の仕様で、ドイツの現用シコルスキーCH-53Gよりも大きなものになるはず。それに対し、シコルスキー社は米海兵隊向けに開発中のCH-53Kを提案するもようで、その開発と製造についてユーロコプター社の協力を申し入れた。

 またアグスタウェストランド社は民間型ティルトローター機BA609(6〜9席)の開発に積極的な意欲を見せた。BA609はベル・ヘリコプター社との共同開発だが、アグスタ社が試験飛行を担当する原型2号機をショー会場へ送りこみ、初めての公開飛行を行なった。さらに一刻も早く型式証明を取って、2011年にはこの画期的な航空機に一般の人びとが乗れるようにすると言明している。


アメリカの発案だが、イタリアの方が意欲を見せるBA609ティルトローター機

 こうした欧州勢の活力の前に、アメリカ製ヘリコプターは影が薄く、実機の展示はどこにも見られなかった。もとより地の利の問題もあるが、わざわざ大西洋を越えてもってくるほどの新しい機材がないためで、アメリカ側の開発実績が落ちていることの証左であろう。

 アメリカは2001年の911事件以来テロ戦争に明け暮れ、目の前の敵を追うのに忙しい。そのため将来を考える余裕をなくし、当面の仕事をこなしていれば、それだけで戦費が入ってくる。企業としての財務内容は却って良くなるし、技術水準もこれまでの蓄積があって決して劣ることはない。慌てることはないというわけだが、麻薬のような軍需は目先が安楽になって、怠惰な気分におちいる。

 それに対して欧州側はアメリカに追いつき追い越せというので、懸命の努力を続けてきた。それが今回のショーにあらわれたアメリカとヨーロッパの展示の違いではないだろうか。

 その点は日本も同様で、欧米のどこよりも長く何十年にわたって自衛隊という軍需に頼ってきた。これはヘリコプターばかりではないが、航空工業の軍需依存度は驚くなかれ日本が世界で最も高い。たとえば2004年度は日本が62%、アメリカ59%、フランス32%、ドイツ19%という実態である。日本のヘリコプターがパリ航空ショーに展示されるのはいつのことであろうか。


救急装備をしたアグスタ・グランド
(ホイストもつけていて、せまい街路では医師を吊り降ろす)

(西川 渉、「日本航空新聞」2007年7月26日付け掲載、2007.8.6)

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