<パリ航空ショー>

百年目の寂寥

 

 パリ航空ショーが行われている。今年は丁度100年目にあたるとのこと。第1回は1909年パリ市内のグランパレで開催された。ここは1900年のパリ万博の会場にもなった展示館で、今も健在である。

 1909年といえば、ライト兄弟1903年の初飛行から6年もたっていないときだが、それにもかかわらずさまざまな飛行機や気球が並び、展示は380社、参会者は10万人以上というから、当時の人びとが如何に強い関心を航空というものに抱いていたかが想像できる。

 それから100年たった今年のショーは、それにしてはいささか寂しい。いつもと違って、新しい航空機の計画発表や新たな発注はほとんどない。おまけに初日は雨が降って、いま一つ盛り上がりに欠けた開会となったらしい。

 「らしい」というのは、こちらは東京にいて、パリから送られてくるニュースを見ているだけだからだが、ニュースを書く記者連中の筆先にも元気が感じられない。百年目という言葉には「ここで逢うたが百年目」というように、貴様の寿命もこれで「終わり」という意味が含まれる。

 といって、無論のこと、この伝統あるショーが終わりになるはずはない。けれども航空機プロジェクトの中には、ここにきて中止になったり、注文がキャンセルになったり、世界の大不況がいくつかの終わりをもたらしているのも事実である。


傘をさして飛行機を見てまわる。
何年か前のパリで、筆者も同じような経験をしたが、
あのときは展示してあるヘリコプターのキャビンに雨宿りをして、
その中でメーカーの人と議論した覚えがある。

 アメリカの空軍向け次期捜索救難ヘリコプター(CSAR-X)の計画中止、大統領専用機VH-71Aの開発中止などに始まり、エアバスA400M輸送機のゆき詰まりとイギリスからの発注キャンセル、そしてA380超大型旅客機がいずれコンコルドのような運命に終わるのではないかといった話も出るようになった。採算点に達しないまま売れゆきが止まるのではないかという憶測である。

 ボーイング社もそのあたりを見越してか、2028年までの今後20年間の民間輸送機に関する需要予測の中で、747やA380といった超大型機の需要は740機しかないと見ている。1年前の予測では980機だったから、25%減である。

 なお、リージョナルジェットを含む旅客機の需要は20年間で29,000機と予測している。これは昨年の29,400機という予測より400機すくない。

 そんな不景気な話ばかりの中、ショー会場ではカタール航空のA320発注だけが唯一の話題となった。発注数は24機だが、このうち4機は昨年のファーンボロ航空ショーで仮注文が出ていたもの。

 またドバイのエミレーツ航空からも、何か華々しい発注があるのではないかと期待されたが、同社の利益はこの1年間に72%減となっており、何の注文も出なかった。中東諸国は昨年のファーンボロ航空ショーで、初日から合わせて約150機、250億ドル相当の旅客機を発注してショーを盛り上げた。

 今年それがなかったのは、早くも砂上の楼閣にかげりが見えてきたからか。メーカーが中東にばかり期待をかけるのも情けない話だが、売る方にすれば、買い手が誰であろうとお金さえ払ってくれればいいのであろう。そのあと楼閣が崩れようと何しようと知ったことではないのである。

 ロシアからは初めてスホーイ・スーパージェット100が登場した。これも大量発注が発表されるかと思われたが、ハンガリーのマレフ航空が30機の発注意向を表明しただけ。ロシアの圧力による無理矢理の意思表示ではないかともいわれる。

 ロシアの旅客機製造は1990年代以降、ソビエト連邦の崩壊と共に消えてしまい、プーチン政府はその回復に躍起となっている。スーパージェットはその端緒となるリージョナル機で、78席と98席の2種類の開発が進行中。最近までの受注数はアエロフロートを初め、イタリアのイトアリ航空とアルメニアのアルマビア航空などから、マレフを除いて98機。

 だが、このロシア機には新鮮味が感じられないという見方もある。リージョナルジェットの現状はカナダのボンバーディア社とブラジルのエムブラエル社が2大勢力となって市場を抑さえている。そこへ切り込んでゆく力強さが見られないというのだが、どうだろうか。

 スーパージェットは今年中に受注数を150機まで伸ばし、年内に量産機の引渡し開始の目標である。将来はリージョナルジェット市場の2割を取りたいという。


初めてロシア国外で飛ぶスーパージェット100

 こうしてショーの初日は余り景気の好い話がない上に、雨が降っていただけに、飛行機ではなくて傘だけがよく売れたらしい。会場の中の売店ではたちまち売り切れになってしまったとか。展示飛行も意気上がらず、観客は予定の25%減だったという。

 主催者は前回同様、1週間の会期中に30万人の入場者を見こんでいる。出展者は2,000社以上。2日目以降は多少の取引も成立したようだが、少なくとも初日は天候までがわざわいし、ショー会場の飾りつけばかりが華々しいだけにむなしく、関係者の意気は揚らぬまま暮れていった。

(西川 渉、2009.6.19)

 

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