<パリ航空ショー>

巴里の宴(うたげ)

 

 3日ほど前に郵送されてきた英フライト・インターナショナル誌(23-29 JUNE 2009)が全頁をパリ航空ショーのレポートにあてている。むろん目次やコラムなどの数頁は別だが、およそ40頁に及んでいて、これだけ徹底した特集も珍しく、私はすっかり気に入った。

 気に入りついでに、その全ての記事を表題だけでも、ここにご紹介しようと思ったが、手間ひまがかかりそうなので、他のメディアのニュースも参照しながら、主なものだけを抜粋しておくことにしよう。

表  紙

 表紙には "Party on at Paris"(パリのパーティ)という大きな文字。いちおう頭韻になっている。

 裏表紙の惹句は "Somebody's watching over us" というもので、ヘリコプターで上空からパリを警護するフランス空軍のヘリコプター中隊を紹介したもの。この句は "Someone to watch over me"(誰かが私をみつめてる)というよく知られた歌の本歌取りではないかと思われる。

 以下、主な表題と要約だが、これを見るだけで今年のパリ航空ショーの話題を一と通り見わたすことができるのではないだろうか。

カタール早期解決を要求

 ボーイング787の遅延に伴う賠償交渉について、カタール航空は「彼らが早急に解決策に応じないのであれば、大変深刻な事態を招くことになろう」と脅しをかけている。カタールは787を60機発注しており、引渡しの遅れに対する苛立ちが感じられる。とすれば24日、787の初飛行が再び三度び延期になったから、カタール航空の脅しもいよいよ脅しではなくなるかもしれない。


カタールの787想像図

三菱MRJの燃料効率を強調

 全日空から15機を受注しているだけのMRJだが、PW1000Gギヤード・ターボファン(GTF)エンジンの採用によって燃料効率が格段にすぐれており、その経済性と環境性を見れば、いずれ多数の注文がくるというのが三菱航空機の弁。MRJの初飛行は2011年、引渡し開始は2013年に予定されている。

エアバスA400Mの危機

 この新しい軍用輸送機は開発作業が大幅に遅れ、共同プロジェクトに参加している欧州諸国の中には発注を取り消す動きもあって、パリではショーを機会に関係各国の国防相が集まって対応策の協議をした。その結果、フランスとドイツは半年の遅延を認めると表明したが、他の国は合意に至らず、7月末まで1ヵ月間の余裕を置いて再度協議することになった。

 なお欧州各国の政府はA400M開発のために、合わせて57億ユーロをエアバス社に払っているが、エアバス社の方はすでに使い果たして、追加23億ユーロの融資を求めている。


A400M

エアバス受注内容

 エアバス社はショー会場で110機の受注を発表した。2年前のパリ航空ショーでは、確定425機、仮303機の注文を受けたから、それにくらべると全く少なく、やはり寂しい。

スーパージェット受注

 ロシアのスホーイ・スーパージェット100(98席)は初めて国外で飛び、ハンガリーのマレフ航空から30機を受注した。うち15機は仮注文。スホーイは今年中に受注数を100機とし、2012年には年間70機の量産態勢にもってゆく計画で、世界のリージョナル機市場の2割獲得を目標としている。


ロシアのスーパージェット100

ボーイング、A350を警戒

 エアバス社が開発中のA350は、さまざまな派生型があるところから、それに対抗するにはボーイング機の方も787や777などの派生型を繰り出す必要がある。目下、777の主翼の変更、787-10ストレッチ型の開発、777の全面設計変更などが検討されている。

ボーイング「サイレント・イーグル」の開発再確認

 ボーイング社はF-15SEサイレント・イーグル戦闘機の開発を再確認した。2010年第3四半期に飛ばす予定。同機は尾翼の形状を改めてステルス性を強化、操縦系統はフライ・バイ・ワイアになる。

ロッキードJSFの現状公表

 ロッキード・マーチン社が開発中のF-35JSF垂直戦闘機は、2006年12月の初飛行いらい順調に開発作業が進んでおり、原型3機の試験飛行も終了した。2010年には飛行試験機を10機に増やし、2013年までに第2段階の試験を終わる。


F-35ジョイント・ストライク・ファイター

ダッソー・ラファール戦闘機にロケット弾

 ダッソー社はラファール戦闘機にロケット弾をつけて展示した。アフガニスタンでの戦闘を想定したもの。フランス空軍は、これまでも2007年以来アフガニスタンにラファールを投入している。

ボーイング787の第2生産ライン設置へ

 ボーイング社は2012年までに787の生産態勢を月産10機とする計画。そのため近く、第2生産ラインの設置を決めるもよう。確かに巴里では、ボーイングのトップが787は今日にでも飛べるといい、こうした生産計画も発表していたが、それから何日もたたずして事態は暗転してしまった。

エアアジアA350を発注

 マレーシアのエアアジアXはエアバスA350-900(400席)を10機発注した。2016年から格安便に使用する。

エアバスA350の政府支援

 A350の開発資金について、ヨーロッパ関係諸国はパリで協議をおこない、それぞれの政府が支援をしてゆく方向で合意した。フランスは14億ユーロ、ドイツは11億ユーロの融資をする意向だが、イギリスは未定。スペインは出席しなかった。エアバス社は当面33億ユーロの資金が必要としており、6月末までに具体的な決定がなされる。これが決まれば、再びアメリカとの間で政府援助の是非に関する貿易論争が始まるであろう。


A350

インドC-17の導入を希望

 インド空軍はロッキードC-17輸送機10機の導入を希望している。現在はイリューシンIl-76を20機使用中。

 C-17は現在、アメリカのほかイギリス、カナダ、オーストラリアが採用しているが、まもなくハンガリーとアラブ首長国連邦も引渡しを受ける。フライト誌はさらに日本、オランダ、サウジアラビアなども導入の可能性があると書いている。

農業機が攻撃機に変身

 テキサスのエアトラクター社はAT-802U単発ターボプロップ攻撃機を展示した。同社は昔から農薬散布機を製造してきたが、それを基本として、先に空中消火機を開発、今度は攻撃機を完成させた。この攻撃機は最大離陸重量7,260kgで、225kgの誘導爆弾9発と機銃を搭載、小回りがきくのでアフガニスタンでの作戦に適するという。将来はヘルファイヤ空対地ミサイルの搭載も可能にするとか。

747-8の航続距離を伸ばす

 ボーイング社は目下開発中の747-8について、重量を軽減し、エンジンを改良して、航続距離を伸ばすことを検討中。747-8F貨物機は8,120km、747-8I旅客機は14,800kmになるという。なお原型初号機は半分以上でき上がり、今年中に初飛行する。747-8Iの就航は2011年後半の予定。

韓国独自のKAIヘリコプター

 韓国が独自に開発中の軍用ヘリコプターは、この7月にロールアウト、来年前半に初飛行する予定。量産機は2013年から引渡しがはじまる。同機はパイロット2人のほか兵員16人の搭載が可能で、現用ベルUH-1HやMD500に代わって使用される。


韓国ヘリコプターの完成予想図

ユーロコプターAS645を提案

 ユーロコプター社は米陸軍に対し、AS645軽双発ヘリコプターを提案している。同機は、陸軍が2006年からUH-72として調達中のEC145を基本とするもので、去る10月ベルARH-70がキャンセルになったことから、それに代わるのが目的。

S-76Dの開発進む

 シコルスキーS-76Dの開発は順調に進んでいる。原型1号機は今年2月7日に初飛行、所定の飛行試験中だが、まもなく2〜3号機も飛行する。今年中に型式証明を取って、量産機の引渡しに入る予定。


S-76Dの初飛行

ブレリオXI

 ブレリオXIは今から100年前、ルイ・ブレリオが製作し、1909年1月23日に初飛行、同年7月25日に初めて英仏海峡を飛び、大評判を得て9〜10月の3週間にわたる第1回パリ航空ショーに展示された。そのレプリカが今回のショーにも展示され、飛行して見せた。


デモ飛行を見せたブレリオ単葉機のレプリカ


ブレリオ機は地上展示でも大変な人気

新しい狭胴機

 エアバス社は近く、現用A320の後継となる新しいA30Xの開発に取りかかるのではないかと見られていたが、現用機の売れゆきが良いことから、新たな開発は先送りとした。具体化するのは早くとも2020年、もしくはそれ以降になるもよう。 

(西川 渉、2009.6.26)

 

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