速報――パリ航空ショー

 

 欧州でヘリコプター救急を展開する3機関――REGA(スイス)、ADAC(独)、SAMU(仏)を訪ね、折からのパリ航空ショーを見学するため、半月のあいだ日本を留守にしました。そのため本頁の更新も中断しておりましたが、今日からまた再開します。改めて、今後ともご愛顧のほどお願い申し上げます。

 取り敢えず、ここにパリ航空ショーでの見聞と体験を、速報として掲載いたします。

 

 今年のパリ航空ショーは数えて44回目。6月16日(土)から24日(日)まで、報道陣向けのプレス・デーを含めて9日間にわたって開催中。19日にはシラク仏大統領も公式に会場を訪れたようだが、日本の天覧相撲同様、航空と宇宙はフランスの国技と考えているのだろう。この場合の技はむろん技術(エンジニアリング)の技である。

 展示企業または団体は参加43か国から1,800以上。航空機は前回1999年の204機を2割ほど上回って250機近く展示され、入場者は前回の267,000人を1割ほど上回る見こみという。

 展示飛行をした航空機は、戦闘機がミラージュ2000D、スホーイSu-30Mk、ロッキードF16ファイティング・ファルコン、F/A-18Fスーパーホーネット、サーブ・グリペン、ダッソー・ラファール、ユーロファイター、アエルマッキMB339-CD。

 またミグAT練習機、A340-600旅客機、CASA C-295M輸送機、C-17AグローブマスターV輸送機、C-17J輸送機、新ツエッペリンLZ NO7飛行船、スピットファイアなど。

 そしてヘリコプターがNH90、ユーロコプター・タイガー攻撃機、クーガーなどであった。ほかに軽飛行機を含めて、飛行展示に使われた航空機は66機に上る。

 

 ボーイング社が構想する「ソニック・クルーザー」は、期待に反して余り具体的な話題はなかった。記者会見でも、報道陣からは技術的、経済的、時間的な課題について、いずれも疑問をかかえた質問が多く、実現までには道が遠いことを感じさせられた。それに対するボーイング社の答えは、無論のこと技術的に可能であり、今年末までに設計仕様を固め、2006〜2008年には就航できるというものだったが、果たして如何。

 たしかに構想は面白い。エアライン各社が興味を示すのも当然であろう。最果ての極東に住む身としては、アメリカや欧州への旅行時間が1割でも2割でも短くなれば、とりわけ歳をとったものには有難い。エコノミークラス症候群の死亡者も減るであろう。

 余談ながら、この深部静脈血栓症が世界的な問題になってきたためか、飛行機の中では予防体操をすすめるビデオが頻繁に上映され、ペットボトルの水がどんどん配られるようになった。血流を良くする特効薬もあると聞いた。なお、発症する人は若者よりも老人、男性よりも女性、そして何故かアジア人よりも欧州人に多いそうである。

 

 いっぽう欧州エアバス社が開発中の超巨人旅客機A380(555席)はますます具体化し、勢いづいてきた。今回のショー会場でも、まずエールフランスが確定10機、仮4機の発注を確認した。つづいて国際リース・ファイナンス社(ILFC)も10機のA380を発注した。

 エールフランスのA380はGEとプラット・アンド・ホイットニー社が共同開発するGP7000エンジンを装備、2006年11月からパリを起点に東京、ロサンゼルス、ニューヨーク、モントリオールなどへ飛ばすという。

 ILFCのA380は、10機のうち5機が旅客機、あとの5機はA380F貨物機である。これらはILFCからエアラインへリースされるが、そのリース先がどこであるかは明らかにされていない。

 これでA380の確定受注数は67機となった。今年末までには100機の受注目標がかかげられている。ほかに50機以上の仮注文もある。

 A380のエンジンはGE/P&Wアライアンスとロールスロイスが競争開発を進めている。エールフランスが選定したGP7000は、当初のGP7270が出力31トンだが、最終的には36トンになる予定。

 一方のRRトレント900は、かねてA380を発注しているシンガポール航空、ヴァージン・アトランティック、カンタス航空、ILFCが採用する予定で、推力37トン。これを装備する最初のA380はシンガポール航空が2006年3月から運航開始の予定。

 

 A380超巨人機に先駆けて、エアバス社からは世界最長といわれる新しいA340-600旅客機(380席)が登場、連日その巨体を会場上空に浮かばせて見せた。同機は去る4月16日に初飛行したもので、この会期中に2号機も飛んだ。2002年4月に型式証明を取り、6月から先ずヴァージン・アトランティックの定期路線に就航の予定。

 巨人機という点では、もっと大きなアントノフAn-225貨物機が展示された。エンジンは6発。機首が大きく上方に開いて大きな貨物でも鯨のように呑みこむ。この怪物のような貨物機は総重量450トンを超え、ペイロードは250トンに達する。降着装置は片側7組の車輪がついている。

 同機は1988年12月に初飛行したが、7年前から飛行を停止、今年初めに再開したばかり。エンジンを改良型のD-18Tに改め、騒音も静かになった。今年末までに型式証明を取る予定だそうである。

 

 ビジネスジェットの話題も豊富だった。ダッソー・アビアシオン社はパリ航空ショーの初日、6月16日に新しいファルコンFNXの開発計画を発表した。FNXは尾部に3基のエンジンをそなえ、高速、長航続の飛行性能が特徴。

 主翼は後退角が深く、飛行速度はマッハ0.88、航続距離は10,500kmで、操縦系統はフライ・バイ・ワイヤになる。初飛行は2004年の予定。

 ユナイテッド航空はファルコン・ビジネスジェットを100機発注し、さらに35機のガルフストリームを発注した。いわゆるフラクショナル・オーナーシップ事業に使う予定で、定期航空によるビジネス航空分野への本格的な進出である。2002年末から運航開始の予定で、事業規模としては機材200機、パイロット1,000人、地上支援者250人をめざしている。

 ファルコンの受注機種はファルコン900EX、2000、2000EXが含まれる。またガルフストリーム機の内訳はW-SPが確定7機、仮9機、GVが確定5機、仮14機で、12億5,000万ドル(約1,500億円)に相当する。引渡しは2002年5月からはじまる予定。

 米ジェネラル・ダイナミック社は6月初め、イスラエルのギャラクシー・エアロスペース社を傘下に入れた。これに伴い、イスラエルで生産中のビジネスジェット――ギャラクシーとアストラSPXがガルフストリーム200およびガルフストリーム100と名称を変更して、売り出されることになった。

 G200は最大高度12,500mをマッハ0.82の速度で飛び、6,700kmの航続性能を持つ。また、それよりもやや小さいG100は航続距離が5,450km。この両機は今後なおテルアビブのイスラエル・エアクラフト・インダストリー社(IAI)で製造され、米テキサス州のアライアンス空港へ飛んで最終仕上げを受ける。

 

 ユーロコプター社は新しいEC225/EC725ヘリコプターを展示した。同機はスーパーピューマの発達型で、主ローター。ブレードが5枚になり、キャビン後部に油圧作動のランプ・ドアがついた。エンジン出力も強化され、パイロット2人のほかに兵員29名の搭載が可能。機外吊り下げ能力は最大5トンという。

 225は民間向けの呼称、725は軍用呼称。ショー会場では飛行展示のため遠く離れたヘリポート部分に機体が置いてあったらしく、私自身はこれを見ることができなかった。

 MDエクスプローラー双発ヘリコプターは3機の注文を獲得した。うち2機はインドネシアで海洋石油開発を進めるエアファスト・インドネシア社から、もう1機はアメリカのヘリコプター救急を展開しているエアメソッド社からの注文。

 なおMDエクスプローラーは、ショー会場ではスイスHELI-LIMTH社向けの機体が展示されていた。同機は、キャビンが救急とVIP輸送の両用にクイック・チェンジできるのが特徴。MDヘリコプター社では今年末までのMDエクスプローラーの生産数が112〜113機に達する計画である。

 ポーランドのPZLスウィドニク社は5人乗りのSW-4ヘリコプターを展示した。同機は2002年初めまでに型式証明が取れる見こみ。

 ロシアのカモフ・ヘリコプター社は新しい民間向け大型ヘリコプター、Ka-32-10(旅客24席)の開発計画を発表した。従来の対潜ヘリコプター、Ka-27およびKa-32を改造するもので、向こう3年以内に型式証明を取り、量産に入るという。

 

 中国航空工業公司(CAIC)は今年4月Z-11ヘリコプター(6席)について型式証明を取得したが、そのエンジンをアリソン250に換装するため、ロールスロイス社との間で覚書を交わした。Z-11はAS350によく似た小型単発機で、総重量は約2トン。今のエンジンは中国製のWZ-8Dである。これをモデル250に換装すれば、エンジンの信頼性が上がり、飛行性能も向上することとなろう。将来は双発にすることも考えられる。

 中国の一般航空(GA)界ではヘリコプターが80機に満たない状況にあり、人口100万人あたり0.06機に過ぎない。世界の平均は3.9機であり、日本は7.3機程度と見られる。このため中国では2013年までに1,800機の民間ヘリコプター需要があるという予測が出ている。

 

 ショー会場の上空には午前中、デモ飛行がはじまるまで、大きな飛行船がゆっくりと浮かんでいた。しかし一見してゆったりと見えるけれども、実はすばやい動きも可能で、地上員がロープを抑えたり、引っぱたりせずとも、ねらった場所にきちんと垂直に着陸することもできる。

 この飛行船は独ツェッペリン社のもので、 1997年に初飛行し、今では旅客輸送の型式証明も持っている。乗客は最大19人。巨大な気嚢の横腹に水平から垂直までの変向可能なプロペラがついている。

 

 最後に、ショー会場のデモ飛行が終わったのち、ダッソー・ファルコン50EXに試乗する機会を与えられた。ルブールジェ空港から南東150km余りのオクセール上空まで、快適な飛行を楽しむことができた。

 このビジネスジェットはゆったりした座席と大きなソファを合わせて7〜8人乗り。巡航速度はおよそ650km/h、最大高度12,500mだが、このときの飛行は離陸後9分で高度8,500mに達し、往復300km以上の区間を50分近く、シャンペンとキャビアをご馳走になり、遠くエッフェル塔をながめながら、ゆっくり飛んだ。わずか4人の乗客にパイロット2人とスチュワーデス1人が乗り組む。

 この調子で国外出張ができれば、せまいエコノミー席に何時間も縛りつけられるのと違って血栓症の心配をする必要もなく、目的地での仕事の能率も上がるだろう。どうも、こんなことばかり書くのは半月間の長旅ですっかりくたびれて帰ってきたからである。お察し願いたい。

(西川渉、2001.6.23)

  

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