日米のヘリポートをくらべると

 

 日本のヘリポートはどのくらいあるのだろうか。航空法第38条によって正式に設置された施設は、地域航空総合研究所の調べによると1997年9月現在、下表の通り、公共用ヘリポートが全国で22か所、非公共用ヘリポートが71か所である。もっとも、この中には大分県佐伯ヘリポートのように、せっかく素晴らしい施設ができたにもかかわらず、思いのほかに利用者が少なくて休止になっているところもあり、数をきめるのはなかなか難しい。

 

日本の正式ヘリポート 

公共用ヘリポート

――

足寄、占冠、ニセコ、乙部、増毛、豊富、砂川、米沢、高崎、東京、群馬、栃木、静岡、つくば、神戸、播磨、若狭、津市伊勢湾、湯村温泉、奈良、舞洲、佐伯

22か所

非公共用ヘリポート

行 政
(9)

宮城県庁、横浜海上防災基地、兵庫県庁、岡山県庁、土佐清水、檮原、高知東、沖ノ島、大分県庁

71か所

警 察
(16)

福島県警、群馬県警、神奈川県警、山梨県警、石川県警、愛知県警、三重県警、滋賀県警、京都府警、京都府久世、兵庫県警、山口県警、山口県警下関、徳島県警、熊本県警、沖縄県警

消 防
(4)

横浜消防、千葉消防、京都消防、神戸消防

病 院
(5)

済生会熊本病院、富山県立中央病院、岐阜県立多治見病院、三重県立総合医療センター、倉敷中央病院

報 道
(7)

東京朝日、テレビ朝日、SBS沼津、SBS静岡、NHK広島、西日本、NHK福岡

一 般
(30)

上士幌、朝日・石狩、山形、仙台、宮古、上越、小名浜、大陽やながわ、宍戸、プラス、前山下妻、みかも、芝浦、西武辰巳、浦安、松任、川越、朝日川越、日本航空学園双葉、AW安城、けいはんな、園部、大阪航空日野、家島、紀南、島精機、小倉CC、久留米大学、オートポリス阿蘇

   一方、アメリカのヘリポートはどのくらいあるのだろうか。国際ヘリコプター協会(HAI)の集計(1997年1月)では下表の通りである。

 

 アメリカのヘリポート

ヘリポートの種類

ヘリポートの数

Public Use Helipads & Helistops

88か所

Public Use Helipads at Airports

96

Total Public

184

Private Use Helipads & Helistops

4,567

Private Use Helipads at Airports

35

Total Private

4,602

Total Heliports

4,786か所

 

 上の2種類の表は、日米のヘリポートの設置基準が違う――特に米国には日本のように飛行場以外の場所に降りてはならないという法規がないので、同じように比較することはできない。そこを承知のうえで無理にくらべると、@米国には空港の中のヘリポートがあるが、日本にはそれが見られない。

 A公共用にくらべて非公共用が多いのは日米ともに同じようだが、日本の非公共用ヘリポートは公共用の3.2倍であるのに対し、米国では25倍も存在する。そしてB両国ともに公共用ヘリポートが非常に少ない。

 まずBの問題から取り上げると、公共用ヘリポートは誰でも自由に使える施設をいう。しかし、それが少ないのは、佐伯ヘリポートの実状が示すように利用者が少ないからであろう。その一方で大都会の都心部近くにあれば、利用度は高いはずだが、今度は騒音などの問題で付近住民の苦情が多く、結局は設置できない。つまりヘリコプターにとって必要なところにはヘリポートが出来にくいというのが実状なのである。

 とはいうものの、非公共用ヘリポートならば全国各地の県庁所在地に存在する。非公共用だから誰でも使えるわけではなく、警察とか消防のための専用ヘリポートで、そういう特殊な目的にしぼるならば離着陸の頻度も少ないだろうし、万一の災害に備える意味もあって住民の同意も得られやすい。米国でもロス警察のヘリポートなどはロサンジェルス市街地に近いところにある。

 それに一般企業のプライベート・ヘリポートも多いはず。ビジネス機の利用が日本よりもはるかに発達しているからである。

 余談ながら、ビジネス機は固定翼機の方が多いけれども、ヘリコプターも相当に使われている。米『ビジネス・アンド・コマーシャル・アビエーション』誌(97年7月号)の集計では、米国トップ企業500社のうちビジネス機を保有する企業は346社とほぼ7割で、保有機数は固定翼機が1,124機――うちビジネス・ジェットは972機(86.4%)――、ヘリコプターが307機となっている。

 飛行機とヘリコプターを合わせると、総数は1,431機。これを500社で割っても1社平均3機近くになるが、航空機保有企業346社で割ると平均4機余りになる。

 

 米国の非公共用ヘリポートが多いもうひとつの理由は、病院ヘリポートが多いからと思われる。日本では上の表のように正式の病院ヘリポートは5か所しかない。けれどもアメリカの方は1,500か所くらいではないかというのが私の推測である。というのは、数年前まではHAIが病院ヘリポートの集計をしていたが、これが1,200か所ほどであった。あれから何年か経って、病院ヘリポート数は増加したものと見られるからである。

 ちなみに米国では現在400機前後の救急専用ヘリコプターが飛んでいる。病院ヘリポートも有効に活用されている。日本は何故か、いまだに病院ヘリポートも救急ヘリコプターも殆ど存在しないといってよい状態である。

 

 最後に、日本になくて米国にあるのが空港の中のヘリポートである。たとえばロサンジェルス国際空港では、ご存知の人も多いだろうが、4本の平行滑走路にはさまれた馬蹄形の旅客ターミナルの真ん中にある4階建ての駐車場の上が大きなヘリポートになっている。着陸帯は2か所にあって、ここから飛び上がったヘリコプターは小さく旋回しながら高度を取り、一定の高さで滑走路を横切って空港を出て行く。このとき足もとの滑走路を巨大なジェンボ機が今まさに地面を離れようとしていたりして、まるでかつての『エアポート72』といった映画のシーンの中に自分がまぎれこんだような気がする。

 ニューヨークでもケネディ空港やニューアーク空港などは、きちんとヘリコプターの発着場所が決まっているし、マイアミ空港では旅客ターミナル屋上に立派なラウンジの付属するヘリポートができている。

 ヘリコプターは滑走路を使わないし、小回りがきくから、普通の飛行機とは全く異なった経路で大空港へ進入してくることができる。したがって、空港の中の発着場所――すなわちヘリポートや進入離脱の経路をしっかり決めておけば固定翼機の邪魔にはならないし、管制上の負担にもならない。そういう場所や空域や飛行経路を予め決めず、あいているところに適当に着陸させるという日本式のやり方だと、その都度考えたり判断したりしなければならないから、却って管制上の負担になる。融通がきくようで、実際は重荷になってしまい、とうとうヘリコプターの乗り入れは駄目というのが羽田、成田、伊丹などの現状なのである。

 これでは一般企業がヘリコプターをビジネス機として使おうにも、なかなか使えない。外国への出張に際して、成田空港でヘリコプターから旅客機へ乗り継ぐこともできないからである。

 航空の世界は日本もアメリカも同じように見えるけれども、それはうわべだけのこと。基本的、本質的なところでは、いちじるしい遅れを取っているのが日本なのである。

(西川渉、97.9.21)

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