欧米コミューター航空の実績

 

 アメリカ地域航空協会(RAA)は去る5月なかばフェニックスで3日間にわたる年次大会を開いた。ここで公表された米のコミューター航空界の業績は、下表の通りである。

 

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1978年

1996年

1997年

1998年

成長倍率(98/78)

企業数

228

109

104

97

0.4

乗客数(万人)

1,130

6,190

6,630

7,110

6.3

旅客輸送距離
(億人km)

21.8

228.8

246.2

280.3

12.8

乗り入れ空港数

681

782

766

773

1.1

使用機材数

1,047

2,127

2,104

2,150

2.1

平均座席数

11.9

25.1

25.9

27.7

2.3

平均稼働時間

1,080

2,148

2,231

2,154

2.0

 この表によると、1998年の乗客数は7,110万人、前年比7.2%増となった。過去4年間を取ると25%の伸びで、これはコミューター航空に対する旅客の信頼性が高まり、理解度が増したことを示すというのが、RAAコールマン理事長の見解である。

 また旅客輸送距離は280億人キロで、規制緩和がはじまった1978年の22億人キロに比べて20年間で13倍近く拡大した。これは取りも直さず業界の規模を示すもので、5年後の2003年には466億人キロまで今後なお1.6倍に伸びる見こみという。

 使用機材数は総数2,150機。うち280機がジェット機で、これも今後急速に伸びるものと見られている。飛行便数は総計433万便、座席利用率は57%で前年の55%を上回った。

 FAAの集計と予測も似たような数字である。米地域航空の乗客数は、1998年が6,610万人だったが、1999年には7,100万人となり、12年後の2010年には1億2,380万人へほぼ倍増する。機材数も1998年は2,039機だったが、ジェット化によって高速化と大型化が進むと同時に、機数も2010年には2,886機に増える。このうちジェット機は1998年の206機から2010年には1,195機になるという見方である。

 だが、このように好調の米コミューター航空界にも、いくつかの課題がある。空港の受入れ容量が限界にきていること、空域がせまくて航空管制が窮屈であること、地方空港では騒音問題がやかましく、また計器進入施設が不充分であること。そして競争の激化に伴い航空運賃が下がる傾向にあること、にもかかわらず人件費が上がり、燃料費も上がりはじめたことなどである。

 アメリカではインターネットによる航空券の販売も普及しはじめた。この販売方式には、航空会社にとって明るい面と暗い面がある。旅行代理店への手数料は節約されるけれども、インターネットの場合は割安の航空券を探している人が多く、販売単価はどうしても安くならざるを得ない。

 最近はビジネスマンも、インターネットで安い切符を探す人が増えた。かつては企業の出張者は、特に急に出かけるような場合は高い切符を買うのが当然だった。しかし近頃は出張旅費を節約するため、安い切符があれば贔屓の航空会社に乗るとは限らなくなった。こうしたインターネット販売の売上高は5年ほどのうちに、売上高の2割以上になると考えられている。

 米国と同様、欧州でも地域航空は劇的な伸びを見せている。2年前にEU圏内の自由化がはじまったためで、欧州地域航空協会(ERA)に加盟するエアライン73社の実績は、1998年の乗客数が6,260万人で、前年比12%の伸びとなった。

 米国との違いは大型機の多いことで、平均座席数は米コミューター航空の28席足らずに対して、欧州機は平均62席と大きい。ジェット機の割合も米国より多い。

 業績も伸びているが、やはり、いくつかの制約がある。ひとつは大空港と空域の混雑が甚だしいことで、たとえばバルセロナからミュンヘンへ飛ぶのにパリやロンドンを経由するといった航空路線が多い。

 しかし、これからは余裕のある地方空港に地域航空専用のハブを置き、無用の大都市空港を経由しないでもいいようにしようというシステムの組み変えがはじまっている。こうすれば地域航空は新たな活力を手に入れ、いっそうの伸びが期待できることとなろう。そのためには地上施設ばかりでなく、航空路、空域、管制方式などの設定も組み変えなければならない。

 このあたりの考え方は、羽田や伊丹など、少数の空港に集中する日本の航空システムについても、何らかのヒントになるかもしれない。欧米の実例に見られるように、地域航空の発展は制約を取り除くことからはじまる。

(西川渉、『日本航空新聞』99年6月17日付掲載)

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