リージョナル・ジェット

テロの影響から脱け出せるか

 

 9月11日の米国多発テロによって、世界中のあらゆる活動に急ブレーキがかかった。とりわけ航空界への影響がいちじるしく、余りに激しい急ブレーキのためにスピンや転倒が発生し、休業や倒産に追いこまれる企業も出てきた。結果としてけが人が生じ、解雇や失職も少なくない。

 英国が長年にわたって開発、生産してきた4発リージョナル・ジェットの計画中止もその一つであろう。BAEシステムズ社のアヴロRJXで、かつてBAe146とかRJ80などと呼ばれていた旅客機の後裔である。

 新しいRJXは2001年4月から試験飛行がはじまった。すでに2機が飛んでいたが、11月末の計画中止の発表とともに、飛行試験も中止された。量産1号機も完成に近い状態にあり、2002年4月から引渡しがはじまる予定であった。

 最近までの受注数は14機だが、これを発注しているブリティッシュ・ユーロピアン航空は、導入をやめるつもりはないという。そうなると注文分だけは製造せざるを得ないかもしれないというので、目下契約続行か中断かの話し合いがつづいている。それにしても、初飛行から半年で計画中止とは大変な事態といっていいだろう。


(初飛行するアヴロRJX――2001年4月28日)

 リージョナル・ジェットは、ここ数年来、急速に伸びてきた。小型ジェット旅客機を使うようになったのは欧州の方が早かったが、遅れたアメリカでも表1の通り、1995年に78機だったものが、5年後の2000年には569機になった。今後2002年中には850機を超え、2012年には2,190機に達するというのがFAAの集計と予測である。

 一方で現用ターボプロップ機は減ってゆく。その結果アメリカのリージョナル航空に使われている機材のうち、ジェットは現在3割前後だが、2012年には6割になるという。 

表1 米国リージョナル航空に関するFAAの予測

年  次

1995

1999

2000

2001

2002

2012

乗客数(万人)

5,580

7,430

7,960

8,410

8,950

15,410

リージョナル機

2,109

2,175

2,312

2,436

2,557

3,673

うちTP

2,031

1,789

1,743

1,726

1,701

1,483

   RJ

78

386

569

710

856

2,190

ジェット構成比(%)

3.7

17.7

24.6

29.1

33.5

59.6
[注]RJ:リージョナル・ジェット、TP:ターボプロップ機 [出所]FAA、2001年3月

 

 こうした急増が期待される時期にあって、アヴロがなくなれば、今後リージョナル・ジェット(RJ)は表2のようなメーカー3社にしぼられ、それぞれ30〜90席の各機種をつくっていくことになろう。RJ革命は今まさに進行中で、この1年間の主要な出来事を振り返っても、たとえば1月には米スカイウェスト航空が128機のCRJ200を発注した。2月にはCRJ700が型式証明を取って、仏ブリットエアに就航し、CRJ900も初飛行した。

 4月CRJが就航10周年を迎えると共に、量産500号機を引渡した。また米エアウィスコンシンから150機、独ルフトハンザ航空から45機のCRJ200を受注した。5月には米メサ航空もCRJ700とCRJ900を80機発注、7月米ノースウェスト航空も75機のCRJを発注した。

 同じく7月、エンブラエル社は大型リージョナル・ジェットERJ-190のモックアップを公開した。7月2日には新しいERJ145XRが初飛行した。8月アメリカン・イーグル向け100機目のERJ-145/140/135シリーズが引渡された。これで同シリーズの引渡し数は483機となった。

 10月にはCRJ900量産型が初飛行している。またエンブラエル社ではERJ170がロールアウトした。2004年7月に就航の予定。

 そして日本でも2001年4月ジェイエアが2機のCRJ200を導入した。2000年8月に運航を開始したフェアリンクも1機を追加して2機になった。この両社は、2002年にはそれぞれ2機ずつを追加する計画である。

表2 リージョナル・ジェットの就航数と確定受注数

   

ボンバーディア

エンブラエル

ドルニエ

機種

就航数

受注数

機種

就航数

受注数

機種

就航数

受注数

90席級

CRJ900

20

ERJ190

30

928JET

70席級

CRJ700

10

160

ERJ170

40

728JET

70

50席級

CRJ200

524

403

ERJ145

365

183

528JET

計画中止

――

――

――

ERJ140

171

428JET

計画中止

30席級

――

――

――

ERJ135

81

94

328JET

65

79

合  計

534

583

――

452

518

――

65

149
[出所]英『フライト・インターナショナル』誌(2001年10月16〜22日号)から作表

 

 1年間でこれだけの話題を生んだリージョナル・ジェットは、最近までの就航機数がメーカー3社を合わせて1,051機、確定受注数は1.250機となった。ほかに約2,000機の仮注文があって、今から10年ほど後には世界中で総数4,000機のリージョナル・ジェットが飛ぶかもしれないという。

 だが好事魔多し。多発テロ以降の実態は、これらの予測をくつがえし、期待を裏切るかの如くである。10年前の湾岸戦争のときもエアラインの業績は急速に落ち込んだが、ほぼ1年で回復した。しかし今回のテロは回復までにもっと時間がかかるといわれる。空港の保安強化にはじまって、全てがテロを前提とした対策を講じなければならないからである。

 しかしリージョナル・ジェットにとっては悲観的な要素ばかりではない。空港の保安検査が面倒になって航空機の利用をやめる人が出てきても、それは近距離の旅客であろう。したがって小型ターボプロップの引退ははやまるかもしれないが、ジェットを減らすことはないと見られるからだ。

 また大手エアラインが旅客減少のゆえに退いた路線へ肩代わりするかたちで参入する機会が出てくる。現に多発テロ以降、リージョナル・ジェットは就航路線や飛行便数が却って増加したという集計も出ている。ただし座席利用率は10ポイントほど低下したようだから、今後景気が回復してビジネス客の利用が増えれば、座席利用率も回復するであろう。

 折から日本では三菱重工が小型ジェット旅客機の開発を計画中という新聞記事があった。大きさは100人乗りか、もっと小さな50〜70人乗りになるのかはっきりしないが、新年を迎えて楽しみなことである。多発テロによって、航空界には急ブレーキがかかったけれど、リージョナル・ジェットがいち早く不調の渦の中から抜け出すことを期待したい。

(西川渉、『日本航空新聞』2002年1月1日付け掲載)


(夕日を浴びるRJ85――本頁の写真は全て、生産終了へ向かうアヴロ機とした)

 

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