膨張する米リージョナル航空

 ――めざましいジェット導入効果――

 

 アメリカのコミューター航空、もしくはリージョナル航空が驚異的な膨張をつづけている。

 去る三月末にはデルタ航空がボンバーディアCRJに対し一挙五百機の注文を出した。これまで一つのエアラインがいっぺんに五百機もの注文を出すなどということがあっただろうか。うち確定発注はCRJ200(五十席)および700(七十席)に対する九十四機で、残り四百六機は仮注文というが、それでもでは呆れるばかりの数である。

 デルタ航空は先に、リージョナル・ジェットの運航で先鞭をつけたコムエアを完全子会社にした。ほかにもいくつかの関係会社があって、これらがリージョナル・ジェットを運航する。五百機の全機引渡しが終わるのは二〇一〇年で、購入金額は総計二十億ドルを超えるもよう。

 これでボンバーディアCRJの受注数は千五百機に達した。うち確定受注は八百三十一機で、そのうち四百機近く引渡されている。

 このCRJに対抗するブラジル・エムブラエル社も、負けじとばかりに四月初め三十機の追加受注を発表した。米ソリットエアによるERJ-145(五十席)の注文で、同航空の総発注数は九十機になる。これでERJ機の受注数はERJ-145と-135(三十三席)を合わせて千機を超えた。うち確定受注数は六百十二機。うち約二百三十機が引渡されている。

 上の二社に対抗する、もう一つのリージョナル航空機メーカー、フェアチャイルド・ドルニエ社も五月初め、328JET(三十席)と428JET(四十席)について二十機の受注を発表した。同社の一九九九年中の受注数は百七十八機で、リージョナル・ジェットに対する注文数の三分の一を獲得したという。

 フェアチャイルド社で目下量産中のリージョナル・ジェットは328JETだけである。その生産に追われながら、新たな428JETや728JET(七十席)の開発を進めているため、一時は資金問題が取り沙汰された。しかし最近アメリカとドイツの二つの投資会社に買収され、新しい資本系列下に入り、開発作業も進展の見こみが立った。428JETは二〇〇二年九月、728JETは同年十二月に型式証明を取る予定である。

 そのための陣容は、ドイツのオーベルプファーヘンホーヘン工場の従業員数が今の二千五百人から向こう七年間で二倍に増加する。それでも足りなくて、428JETはイスラエル・エアクラフト・インダストリー社が開発と製造に当たる。さらに量産中の328JETの主翼はアメリカで生産するという。

 これらリージョナル・ジェット三社に加えて、最近新しい計画が出てきた。ひとつはアメリカに誕生したアライアンス・エアクラフト社で、七十席と九十席の旅客機開発に乗り出したのである。両翼下面にエンジンを取りつけ、千五百メートル程度の短い滑走路で離陸し、マッハ〇・八の高速で三千七百キロの航続性能をもつ。二〇〇三年春までに型式証明を取る計画とか。

 もう一つの新しい計画はボーイング717「ライト」。なんだかタバコみたいな名前だが、現用717の胴体を短縮して、七十席にするというもの。この五月下旬から風洞試験がはじまっており、開発着手が決まれば三年後に型式証明を取るという。 

 メーカー側をここまで活気づけているている背景は、アメリカ地域航空界のいちじるしい伸びである。去る四月なかば米地域航空協会(RAA)が発表したところによると、一九九九年の業界実績は別表の通り、乗客数が前年比十%増の七千八百万人余り、旅客輸送距離は十九%増となった。つまり業界全体の事業規模が一年間で二割近く拡大したことになる。

 使用機数は二千二百機に近くなり、前年比一・七%増。このうちリージョナル・ジェットは三百五十機あまりで、まだ十六%程度だが、供給座席数では三十一%になった。それでも足りないというので、前述のような大量発注が続くのであろう。全機種を合わせた飛行時間は五百六万時間。一機あたり二千三百時間余りである。

 つまり機数が増え、一機当たりの座席数が増え、飛行時間も増えた。これで総輸送力は十七%以上の増加となったが、旅客輸送距離は十九%余の増加だから、まだ需要の伸びが供給を上回り、したがって座席利用率も前年より一ポイント上がって五十八%となっている。

 なお乗客数から見た事業規模では、アメリカン・イーグル(乗客数千百十万人)、コムエア(七百三万人)、コンチネンタル・エクスプレス(六百五十万人)が三大リージョナル航空になる。企業の総数はおよそ百社である。

 

米地域航空の旅客輸送実績

1978年

1996年

1997年

1998年

1999年

前年比(%)

乗客数(万人)

1,130

6,190

6,630

7,110

7,805

9.8

旅客輸送距離

(億人km)

21.8

228.8

246.2

280.3

334.8

19.4

使用機材数

1,047

2,127

2,104

2,150

2,187

1.7

平均座席数

11.9

25.1

25.9

27.7

29.8

7.6

平均稼働時間

1,080

2,148

2,231

2,154

2,312

7.3

[出所]米地域航空協会(RAA)

 

 こうした現状から、リージョナル航空の将来はどう変わってゆくのか。FAAは二〇一一年の乗客数が一億三千七百五十万人で、九九年の七千二百四十万人に対し十二年間で一・九倍に伸び、旅客輸送距離は三百二億人キロから七百十八億人キロまで二・三倍以上に伸びると予測している。RAAの数字とやや異なるのは、六十席以下の航空機に限定しているためである。

 このように旅客輸送距離の伸びが大きいのは、乗客一人当たりの飛行距離が伸びるためだが、その背景にあるのはジェットが増加して、路線区間が長くなるためである。FAAはリージョナル・ジェットが今の三百四十機程度から二〇一一年には千五百機を超えるだろうと予測している。

 そうなると地域航空の性格も変わり、千キロ前後の路線区間が増え、これまで大手エアラインが飛んでいた領域にも入ってゆき、双方の区別がつかなくなる。機材の大小にかかわりなく、いずれも定期運航であり、需要に応じた適材適所の運航がおこなわれるということであろう。

 ちなみに、米地域航空会社の九九年経営実績は、業界全体の営業利益が六億九千六百万ドル(約七百五十億円)であった。前年比十五%以上の増益だそうである。規制緩和のはじまった日本で、こうしたリージョナル・ジェットの効果があらわれるのはいつのことであろうか。

(西川渉、『日本航空新聞』2000年6月22日掲載)

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