変化するリージョナル航空

将来は大型機に代わって4倍増

 

 地域航空の世界に大きな変化が起こりはじめている。発端はいうまでもなく昨年の9.11同時多発テロである。この事件によって航空旅客需要が落ちこみ、世界中のエアラインが影響を受けることとなった。とりわけアメリカのエアラインは打撃が大きく、大手航空会社が軒並み赤字を計上し、運航便数を減らしたり、機材を手放したり、従業員を減らすなど対策に大わらわである。

 加えて、路線の一部を傘下のリージョナル航空へ引き渡すという対策も取られている。大型機では維持できなくなった路線も、小型機を使えば合理的な運営が可能になる。特に傘下のリージョナル航空を使えば、人件費を初めとする経費も安くなる。

 というので、アメリカでは何百という路線がリージョナル航空に移行した。その結果、現在リージョナル機が飛んでいる路線の4割は、この半年間に大きな変化があったものという。たとえば、これまで大型ジェット旅客機が飛んでいたが、それがリージョナル機に変わった区間は108路線に上る。またリージョナル機が部分的に肩代わりした路線は90路線に近い。さらにリージョナル機によって、全く新しく開設された路線も100区間に上るというのである。

今年から70席ジェットも登場

 折から、従来の50人乗りリージョナル・ジェットに加えて、70人乗りの機体が具体化してきた。カナダのボンバーディアCRJ700は今年1月31日から就航した。ダラス・フォトワースを中心とするアメリカン・イーグルの路線だが、その後ホライゾンエアやアトランティック航空も同機の運航を開始した。

 同様に欧州でもエールフランス、ルフトハンザ、英国航空の傘下にあるリージョナル航空がCRJ700を飛ばしはじめた。同機の確定受注数は現在エアライン10社から195機に上る。

 他方、ブラジルのエムブラエル170も今年2月19日に原型1号機が初飛行した。この6月までに総数6機を飛ばして試験飛行をすすめ、年末までに型式証明を取る予定。同じ70席のドイツ・ドルニエ728も間もなく試験飛行に入り、来年末までに就航の見こみである。

 続いて、90〜110人乗りの開発も進んでいる。ボンバーディアCRJ900は原型機(86席)が2001年2月21日に初飛行、10月20日には前量産型(90席)も飛んで、来年初めに就航の予定。同じくエムブラエル195(最大110席)も2004年末の就航を目標に設計作業が進んでいる。

FAAの将来予測

 こうした動向を整理して、将来どうなるかを予測したのがFAAの『将来予測2002−2013』と題する報告書である。3月下旬に発表されたもので、その中から地域航空の部分を見てゆくと、大手エアラインが9.11テロの影響を大きく受けているにもかかわらず、地域航空分野はテロ以前の便数や供給座席数を堅持しており、中には増加したところもあった。これは大手エアラインの需要の減少に伴い、大型機による運航を小型リージョナル機が肩代わりしているためと分析していて、先に述べた通りである。

   

実  績

予  測

1995年

2001年

2002年

2013年

乗客数(万人)

5,580

7,970

8,260

15,160

輸送距離(億人マイル)

119

240

261

548

ターボプロップ機数

2,031

1,731

1,708

1,563

ジェット機数

76

696

822

2,894

飛行時間(千時間)

3,817

3,806

3,984

6,519

平均座席数(席/機)

30.3

39.9

41.7

48.4

平均搭乗距離(マイル/人)

213.6

301.3

316.0

361.6

平均座席利用率(%)

49.3

58.6

57.9

63.0
[出典]FAA Forecasts 2002 - 2013
[参考]1マイル=1.609km      

 

 そこで将来に向かっては上表のとおり、リージョナル航空の供給量を2002年が前年比9.9%増、2003年は8.0増になると予測し、向こう12年間の供給量は、毎年平均6.5%の成長率を予想している。

 この供給量に対し、実際の旅客輸送距離はさらに大きく伸びて、2002年は前年比8.7%増、2003年は9.7%増となり、向こう12年間の平均成長率は7.1%になると見る。

 ただし乗客数は旅客輸送距離ほど伸びず、2002年は3.7%増、2003年は8.7%増になる。そして12年間の平均は年率5.5%の伸びで、2001年の乗客数7,970万人は2013年には1億5,150万人となる。その結果、2001年の地域航空の乗客は米国内の定期便全体の12.7%であったが、2013年には全体の16.6%を占めることになる。

 こうした大きな需要増に対して、機材はターボプロップもジェットも合わせて2001年が2,427機だったが、2013年には4,457機と、ほぼ倍増する。ただしターボプロップ機は1,731機から1,563機へ減少し、ジェットは696機から2,894機へ約4倍増となる。1機あたりの大きさは、ジェット機もターボプロップ機も合わせて、2001年の平均が39.9席だったが、2013年には48.4席になるもよう。

 飛行時間は全機合わせて、2001年が3,864,000時間であった。1機平均1,592時間だが、2013年には総計7,237,000時間で平均1,623時間となる。

日本の前途を探るヒント

 以上をまとめると、9.11テロはアメリカの航空界に大きな打撃を与えた。けれども地域航空にとっては一種の好機ともなった。大型機の肩代わりとして、リージョナル・ジェットの活用傾向が強まり、機数は向こう12年ほどで4倍増と予測されている。

 無論これは米国内線のことで、日本が同じように動くとは限らない。しかし日本でも、従来アメリカ以上に大型機に集中していた路線に、少しずつ小型ジェットも参入する動きが見えてきた。同時に路線形態も変化し、地方と地方を直接結ぶ少人数・長距離の旅客輸送が成立しはじめた。

 東京への集中傾向はまだおさまる気配はないし、首都圏第3空港の必要性もますます高まってはいるが、一方で新しい萌芽も出てきたのではないか。その芽が将来に向かって育とうとするとき、欧米リージョナル航空の動向はひとつのヒントになるであろう。

(西川 渉、『日本航空新聞』2002年5月23日付掲載)

 

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