<リージョナル・ジェット>
最近の話題 米『アビエーション・ニュース・インターナショナル』誌6月号が新しいリージョナル航空機について、まとまった記事を書いている。取り上げられているのはエアバスA318、アントノフAn-74TK-300、An-148、中国航空工業公司ARJ21、ボンバーディアCRJ900、エムブラエル170/175/190/195、ロシア・リージョナル・ジェットRRJ、スホーイS-80、ツポレフTu-334である。
また開発中断のプロジェクトとしてフェアチャイルド・ドルニエ728/928、インドネシアN-250、LZ L-610G,ツポレフTu-324が指摘されている。
それにしても、日本の計画が全く触れられていないのはどうしたことか。恐らく著者や編集者が知らないのであろう。知っていても余りに少ない情報量で書きようがなかったのかもしれない。私も、ほとんど知らないけれど、もっと情報を公開すべきではないのか。私企業が秘密裡に何をやるのもいいけれど、研究開発に公的資金が使われるのであれば、内容公開はむしろ義務と心得るべきであろう。
多くを知らせずに計画を運ぶのは、自信がないからか。失敗を見越して初めから隠しておくためか。逆のやり方がボーイング747Xやソニック・クルーザーで、宣伝ばかりという非難が出るほど宣伝してくれた。A380への牽制といった別の意図があったのかもしれぬし、それを嘲笑する記事も見られたが、途中で挫折しても、フェアな感じがする。
YS-11の後のYSXだかYXXだか、いくつかのプロジェクトは、どういう経過をたどってなぜ中断したのか。少なくとも未だに実現していないのは何故なのか。公的資金を投じた結果は、どんな成果があったのか。疑問ばかりが残っているが、この種の大プロジェクトはもっと堂々と進めて貰いたいと思う。
ここでは、しかし、そんな議論をするのが目的ではなかった。新しいリージョナル・ジェットの計画の中から、注目すべきものについて見てゆくことにしたい。
ボンバーディアCRJ900 CRJ700(70席)の胴体を3.86m引き延ばして86席としたリージョナル・ジェット。2001年2月21日に初飛行、2機で895時間の試験飛行をして、2002年9月12日にカナダ運輸省の型式証明を認められた。その5か月後に米FAAと欧州JAAの型式証明を得て、量産1号機は米フェニックスに拠点を置くメサ航空グループに引渡された。
運航するのはグループの中のアメリカ・ウェスト・エクスプレスで、機内の座席配置は2クラス合わせて80席。これを4月末からフェニックス〜ロサンゼルス間に就航させた。実はアメリカのリージョナル航空は、操縦士組合との労使協定によって、70席以上の大型機は飛ばすことができない。したがって、そうした縛りのないアメリカ・ウェストだけが例外で、他のリージョナル航空ではまだCRJ900のような機材は運航できず、これが同機の売れ行きにも暗い影を落としている。
エンジンはGE CF34-8C5ターボファンが2基。CRJ700のCF34-8C1より出力が5%ほど大きい。航続距離は2,774kmだが、これを3,207kmとするCRJ900ERもある。
エムブラエル170/175/190/195 標準型170(70席)は昨年2月に初飛行、1年余の間に原型6機と量産型1機で1,100時間以上を飛ばしてきた。この間、主翼両端にウィングレットを取りつけるという設計変更がおこなわれたが、その結果、航続距離は3〜5%伸び、巡航速度も300ノットになった。
170の開発は元来スイスのクロスエア――今のスイス国際航空の注文によってはじまったもので、その条件の一つがロンドン・シティ空港(LCY)で発着ができることとなっていた。LCYは騒音規制がきびしいために、着陸は5.5°の急角度でおこなわなければならないが、来年夏には承認が得られる見こみ。
170はクロスエアの注文を受けたのち、GEキャピタルからリース機として50機の注文を受けた。最近はUSエアウェイズから確定85機、仮50機の注文を受けた。アエリタリア航空とLOTポーランド航空からも各6機の注文を受けている。型式証明は本年11月の予定。
エムブラエル175は170の胴体を70インチ(1.78m)延ばしたもの。この6月14日に初飛行したばかりで、2004年秋に型式証明を取る予定。機内は客席が2列分増えて、78〜86席。
これら2機種をもっと大きくしたのが、同じファミリーに属する190(98席)と195(108席)である。190は2005年秋、195は2006年秋に型式証明を取る予定。エムブラエルは、こうした大型リージョナル・ジェットによって、エアバス社やボーイング社と直接競合する野心を秘めている。
エムブラエル170/190ファミリーは最近までに234機の確定注文と289機の仮注文を受けている。
エムブラエル社は、こうしたRJファミリーの開発のために、すでに12億ドル(約1,400億円)の資金を注ぎ込んだ。そのうち3分の1はリスク・シェアリング・パートナーが負担している。
ロシア・リージョナル・ジェットRRJ 昨年のドモデドボ航空産業展で公式に発表された米露共同の開発計画。参加メーカーはスホーイとボーイング。今年3月4,660万ドル(約50億円)の政府補助金が認められた。ただしボーイングの役割は財務や技術ではなく、市場調査とFAAの型式証明取得、それにアフターセールス・サポート。
計画ではロシア・エアライン向けの60〜95人乗り旅客機で、すでにアエロフロートが30機の購入意向を表明している。ほかにも、ロシアのエアライン2社が購入の意向を持っているが、その要件はシベリアのような遠隔地への飛行で、したがって少数の旅客をのせて長距離を飛ぶことにある。
そのため、60席、75席、95席という3種類の派生型が考えられており、マッハ0.78〜0.80の速度で、航続距離2,685〜4,800kmを飛ぶことができる。
エンジンは西側のRR RB710、GE CF34、PW800などが候補に挙がっている。
初飛行は2006年、就航は2007年の予定。
中国ARJ21 中国航空工業公司が計画中のリージョナル・ジェット。客席数は70〜90席。2001年の北京航空ショーで計画が公表された。開発費は9億ドル(1,000億円余)と見積もられている。
当初はエアバス社やダイムラーベンツ社との共同開発も考えられたが、合意には至ってなく、果たしてこの計画が実現できるかどうか危ぶむ見方もある。
計画の内容は中国西方の高温・高地での飛行性能が維持できることをめざし、GE CF34-10Aターボファン(推力8,400kg)2基を胴体尾部に取りつけ、客席は左右5列とし、マッハ0.80の巡航速度で2,200kmの航続性能を持つ。
2005年に初飛行し、2007年に型式証明を取る予定。需要予測では向こう20年間に1,900機が売れる見こみ。
ドルニエ728 計画中断のフェアチャイルド・ドルニエ728(78席)について、中国資本が資金を投じて復活させようという意向を見せている。すでに倒産企業の管財人との間で契約も結ばれている。
ただし、いつどのように復活させるのか、中国ばかりでなく世界各国へも計画参加を呼びかけており、交渉がつづいていて、確定的な段階にまでは至っていない。
さらに上記ARJ21計画と一緒にして新しい計画とする考え方もあるが、これもまだアイディアの段階である。
ところで、リージョナル・ジェットは、これまでカナダとブラジルが先鞭をつけ、ドイツがそれを追っていた。しかし昨年ドイツが転んでしまい、先行2社に追いつけぬまま敗退して行った。そこへロシアと中国が参入しようというわけだが、この両国には自国の広い市場が存在する。
無論その市場には先行2社も入ってくるが、国産の強みはあるだろう。したがって両国のプロジェクトは、後発とはいえ、大いに期待が持てるわけである。
そこで、もう一度日本の計画をふりかえると、いったい何をねらい、どこへ行こうとしているのか。そのための戦略や方策は奈辺にあるのか。唯ただ、ご健闘を祈るばかりである。
(西川 渉、2003.7.3/加筆2003.7.4)
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