風雲急の地域航空界

 

 

 リージョナル・ジェットをめぐる世界の動きは、今や風雲急を告げてきた。日本は何故か無風状態にあるけれども、先進的な国々では飛ばす方もつくる方も、この新しい機材と市場をものにするため競ってジェット化に向かいはじめた。

 リージョナル航空、もしくはコミューター航空といえば、従来30〜50人乗りのターボプロップ機が主流であった。ところが近年、新しい動きに転じたのは、これまでジェット・エンジンが高価にすぎて小型機には不適とされていたのに、最近は技術の進歩によって経済的な小型ジェットが実現した。

 またリージョナル・ジェットは大型機に代わって、旅客が少なく、採算が合わないような長距離路線に適する。旅客の方もプロペラ機よりはジェット機の方に信頼感をもち、ジェット選好性が強い。そして実際に使ってみると、コミューター航空会社としては一挙に生産性が上がり、業績の上がった実例が出てきたことなどが考えられる。

 たとえば米コミューター航空界で最も早くジェット導入に踏み切ったコムエア社は、ターボプロップ機だけを飛ばしていた1993年度の売上高2.5億ドルに対し、CRJが60機になった97年度は6.5億ドルへ伸び、利益は5倍以上になった。今年3月末までの98年度実績はさらに伸びて、売上高が7.6億ドル、利益は前年比30%増の1.3億ドルを超えたもよう。

 こうした実績を見れば、ほかのコミューター会社も腕をこまぬいているわけにはいかない。各社いっせいにリージョナル・ジェットの発注に乗り出した。たとえば『コミューター・リージョナル・エアライン・ニュース』によれば、メーカー各社の1997年コミューター機受注数は、ターボプロップが112〜114機しかなかったのに対し、ターボジェットは439機にもなったという。その反動で98年のジェットは155機にとどまったが、最近までのリージョナル・ジェット受注総数は、仮注文も入れると2,000機を超えるに至った。そのうち確定注文は1,200機、うち400機がすでに就航しているというのがおよその現状である。

 この就航機は、まだ2機種にすぎない。ボンバーディアCRJ-200(旅客50席)とエムブラエルEMB-145(50席)である。しかしエアラインの注文ラッシュを受けて、各メーカー合わせて10指に余る新機種開発を進めつつある。

 たとえばボンバーディア社は目下CRJ-700(70席)を開発中で、原型1号機はこの5月に初飛行する。ほかにBRJ-X(90席)の開発も準備中。

 エムブラエル社はEMB-135(37席)が試験飛行中で、今年7月に就航する。また同社は今年2月、ERJ-170(70席)とERJ-190(90席)の構想を発表した。この夏には開発着手を決め、前者は2002年5月、後者は2004年からの就航をめざしている。

 この両社を追って、フェアチャイルド・ドルニエ社もジェット旅客機の開発を進めている。旧来のターボプロップ機を改造した328JET(32席)は今年春から就航するが、注目されるのは全く新たな設計になる728JET(70席)と、そのストレッチ型928JET(90席)および短縮型528JET(50席)である。

 728JETは去る4月29日、ルフトハンザ航空から60機を受注し、さらに60機の仮注文を受けたというニュースが伝えられた。2002年から引渡し開始の予定というが、実はまだ試験飛行もはじまっていない。同機についてはスイスのクロスエアも60機の注文を検討中という。

 メーカーの動きとしては、ほかにもAIR70(70席)、アヴロRJX(85席)の開発構想があり、エアバス・インダストリー社も4月27日、A318(100席)の開発着手を決めて、この市場に乗りこんできた。しかし、これだけの新機種を開発して、メーカー各社は採算に合うのだろうか。エアライン業界の方にも、多数の機材を吸収できるような需要があるのだろうか。

 そうした疑問に対しては、メーカーや調査会社からさまざまな需要予測が公表されている。その中から今後10年間のリージョナル・ジェットの需要予測を見ると、最も少ない見方で845機、最も多いのは3,525機となっている。ピンからキリまであって、本当のところはよく分からぬが、アメリカの調査会社、ティール・グループはそうした予測を並べて、評価を下している。

 たとえば3,525機という見方はさすがに多すぎるのではないか。また2,167機という予測は強気だが、根拠が薄い。そして1,665機はまあ妥当であろうとし、1,902機という数字が自分たちの見方に最も近いと結論づけている。

 リージョナル・ジェットは今、一種の開発ラッシュを迎えた。しかし、それだけに競争は今後ますます激化するだろうし、相互の叩き合いになる可能性もあって楽観はできない。風雲急の嵐を抜け出して伸びてくるのは、どの機材であろうか。

(西川渉、『WING』紙、99年5月12日付け掲載)

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