リージョナル・ジェット最近の動向

―― その1 ―― 

 

 

「RJ革命」の進行

 リージョナル航空の世界は、ますます大きな変化を遂げつつある。小型ジェット旅客機――リージョナル・ジェットが急増しているためで、これを「RJ革命」と呼ぶ人もいる。

 しばらく前まで、小型のジェット旅客機などは使いものにならないと考える人が多かった。値段が高く、燃料消費が多い。小さな地方空港では騒音の影響が大きい。近距離区間では持ち前の速度性能を発揮することもできない。結局は、ターボプロップの経済性に負けるであろう、というのである。

 しかし、その登場から10年もたたないうちに、リージョナル・ジェットはいっそう洗練され、エンジン技術の進歩によって燃料効率が良くなり、騒音や排気も少なくなって、アビオニクス類は大型旅客機と同じものを装備、乗客の少ない路線ばかりでなく、旅客の多い長距離区間にも使われるようになった。

 リージョナル・エアラインからの発注も、大手エアラインとの提携を背景として、いっこうに減る気配はなく、次々と大量発注が報じられる。それらが定期路線へ就航し、米国では2000年末524機のリージョナル・ジェットが飛ぶに至った。これは1年前の349機に対して丁度50%増であり、98年末にくらべると66%増に当たる。

 利用者も、明確にターボプロップよりジェットへの選好性を示している。ジェットの方が静かで、速くて、安全で、快適という印象が強いからだ。したがって、30人乗りのターボプロップが飛んでいた路線に50人乗りジェットを投入しても、座席利用率は下がらない。その分だけ乗客が増えるためである。

 最近のFAAの予測を見ても、リージョナル・ジェットは年率平均11.9%ずつ増加し、リージョナル航空におけるジェットの割合は今の25%が2012年には60%に増えるという。

 このように急増するリージョナル・ジェットの需要に対して、メーカー側の競争もいっそう熾烈をきわめる。最近の大量発注と競争激化を象徴するできごとは、米エア・ウィスコンシンによる150機の発注であった。

 

売込み競争から訴訟合戦へ

 エア・ウィスコンシンはユナイテッド航空傘下の「ユナイテッド・エクスプレス」として、シカゴとデンバーの2か所のハブ空港から周辺およそ50か所の地方空港へ毎日300便以上の定期運航をしている。事業規模は全米リージョナル航空会社の中で第8位。現有機はBAe146が18機、CRJ200LRが9機、ドルニエ328ターボプロップ機が23機である。

 このうち旧くなったジェットやターボプロップ機に代わる将来機として、エア・ウィスコンシンは新しいリージョナル・ジェットを購入することにした。機種は手慣れたCRJ200が本命で、カナダのボンバーディア社との売買交渉に入った。ところがブラジルのエムブラエル社が強力な競争相手として名乗りを上げ、ERJ-145について魅力的な提案をしてきた。結論は、それでもエア・ウィスコンシンの考えを変えるには至らず、確定75機、仮75機のCRJ200が発注された。

 かつて1990年代初め、エア・ウィスコンシンがリージョナル・ジェットの導入を考えた当時、ERJ-145は標高1,600mの高地にあるデンバー空港から離陸する場合、気温の高いときにはエンジン出力が不足し、ペイロードを抑えなければならなかった。そのためCRJが選定されたわけだが、現在はERJもエンジンが強化され、デンバーでも楽に発着できる。

 しかし、導入からさほど年月がたっていないCRJを9機も運航しながら、新たにERJを入れるのは無駄が多い。したがって今回もCRJを選んだわけだが、もうひとつ契約金額15億ドルのうち11億ドルについてカナダ政府が低金利の融資をすることになっていた。

 これにはブラジル側が怒った。不公正な取引きだというので、世界貿易機関(WTO)に提訴したのである。もっとも、ボンバーディアとエムブラエルとの競争がWTOに提訴されたのは、これが初めてではない。昨年はボンバーディアの方が提訴し、ブラジル政府によるエムブラエル社の支援はWTOの貿易原則に違反し、不公正であると主張した。WTOはこれを認め、ブラジルに対して2億3,300万ドルの制裁金を課している。

 しかしブラジルはこれに応じず、発展途上国に対しては特別な配慮があってしかるべきと主張した。そのうえで今度はボンバーディア社に提訴の仕返しをしたのである。

 余談ながら、英『エコノミスト』誌は今年3月17日号で「競争はどちらも補助金なしでおこなうべきだ。そのためには先ず、きびしい競争に耐えられるような体質をつくっておかねばならない。さもなければ……」と皮肉をこめて書いている。「ブラジルの貧しい納税者が先進国の航空会社の株主という金持ちを助けていることになる」

 

「ベビージェット」の誕生

 こうしたリージョナル・ジェットの開発と製造に関して、今ビッグ・スリーと目されているのはボンバーディア、エムブラエル、フェアチャイルド・ドルニエの3社である。ほかにRJXを開発中の英BAEシステムズ、スターライナーを開発中の米アライアンス・エアクラフト、それにロシアのメーカーなどがある。またエアバスやボーイングも100席クラス、もしくはさらに小型の旅客機を構想しながら市場参入をねらっているが、ここでは紙面の都合上3社にしぼって、最近の動きを見て行くこととしたい。

 ボンバーディア社では、CRJ200(50席)の生産が順調に進み、4月27日には量産500号機が引渡された。1991年5月10日の初飛行から丁度10年目のことである。受注数も1,000機を超えたが、最近は上のエア・ウィスコンシンのほか、ルフトハンザ・シティラインから確定15機、仮30機の注文を受けている。

 派生型は長距離用のCRJ200ERとCRJ200LRがあり、標準型CRJ200の航続距離1,800kmに対して、ERは3,000km、XRは3,700kmまで飛べる。また最近は米スカイウェスト航空から確定35機、仮29機の注文を受けた「ベビージェット」と呼ばれるCRJ200(40〜44席)も生まれた。

 同機は標準型と同じ大きさで、機内の座席数を減らすだけ。スカイウェストは現在91機のターボプロップ機「ブラジリア」を運航しているが、空港や空域の混雑がひどくなるにつれて、サンフランシスコなどの大空港ではターボプロップの乗り入れを制限しようという動きも出てきた。CRJへの切り替えはその対策でもある。

 しかし、ここでもメーカー間の激しい競争があったもようで、スカイウェストは当初、ブラジリア(30席)の代わりはEMB-135(37席)か-140(44席)、もしくはドルニエ328JET(32席)を考えていた。そこへボンバーディア社が座席数を減らしただけのCRJを提案してきたもので、単に座席を減らすだけで機体価格が安くなったり、競争力が増すのかどうか疑問は残る。しかしスカイウェストとしては、おそらく現用50席のCRJ200との共通性を考えたのであろう。

 またロッキー山岳地などの飛行場で離着陸する場合、気温の高いときは乗客数を減らさなくてはならない。とすれば、初めから座席数を減らしておいた方が自重も軽く、乗客は座席間隔が広がって乗り心地が良くなる。さらにスカイウェストの提携先ユナイテッド航空は、乗員組合との協定があって、リージョナル・ジェットは44席以下でなければ大量に使えない。そこで当面は座席数を減らしておき、将来この制限がゆるめられるならば、ベビージェットはそのまま標準50席のCRJ200にすることができる。

 

CRJ700の引渡し開始

 ボンバーディアCRJ700(70席)は、いよいよ今年から実用段階に入った。量産1号機は1月末、仏ブリットエアに引渡されている。ブリットエアはこれまでCRJ200を4機運航してきたが、この夏までにはCRJ700を4機受領する。

 CRJ700はCRJ200の発達型である。1997年から開発がはじまり、99年5月27日に初飛行した。胴体は4.72m長く、主翼にはスラットがついた。エンジンはGE CF34-8C1ターボファンが2基で、推力はCRJ200より50%近く大きい。キャビン内部は床面を2.5cmほど低くして、窓の位置を11cm高くした。これで座席にすわった乗客は頭と肩の周りの空間に余裕ができ、窓からの視界も広がった。

 経済性は、ボンバーディア社によれば、900km区間を飛ぶ場合、CRJ200よりシートマイル・コストが2割ほど安くなるという。引渡し開始時点での受注数は491機(うち確定174機)であった。

 もうひとつ、ボンバーディア社では今年2月21日、CRJ900(86席)が初飛行した。かねて構想してきた新設計のBRJ-X(95〜108席)の計画を中断、昨年7月から開発がはじまったものである。この変更で開発費は5分の1になり、開発期間も2年ほど早めることができる。そのうえ90席クラスのリージョナル・ジェットとしては、エムブラエルやドルニエの計画より18か月も先行することになった。

 というのも、胴体はCRJ700と同じ直径で3.6mほど延ばし、コクピット、主翼、尾翼は変わらない。非常口を増やし、床下手荷物室を広げ、降着装置を強化する程度の手直しですむ。ただしGE CF34エンジンの出力は増強される。これで2002年秋までに型式証明を取る予定。価格は2,900万ドルと想定されている。

 ボンバーディア社では、以上のようなCRJシリーズについて、総数2,100機の注文を受けている。年間生産数は目下100機程度だが、2002年度は135機、2003年度は174機という引渡し計画を立てている。<つづく>

(西川渉、『WING』紙、2001年5月30日付け掲載)

 

  

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