リージョナル・ジェット最近の動向

―― そ の 2 ―― 

 

 

37席から108席までのERJ

 エムブラエル社は現在ERJ-145(50席)とERJ-135(37席)の生産に追われながら、ERJ-170(70席)の開発を急いでいる。

 かえりみて、わずか5年前の1996年当時、同社は工場閉鎖の瀬戸際に追いつめられていた。その少し前まで国営企業として軍用機のほかにターボプロップ旅客機を生産してきたが、オランダで同じような航空機を生産していたフォッカー社が倒産し、ジェット旅客機の開発着手に踏み切ることができないでいた。ところが民営化と同時に積極経営に転換し、今や最高潮の時期を迎えている。すでに300機以上が生産され、引渡された。

 昨年7月のファーンボロ航空ショーでは、長距離型のERJ-145XRの開発も具体化した。同機は主翼先端にウィングレットがついて航続性能が改善され、胴体が強化されて、出力増強型のエンジン、RR AE3007A1Eターボファン(推力8,910ポンド)2基を装備、最大離陸重量は24,000kgに増加する。コンチネンタル・エクスプレスから75機の注文を受けており、2002年7月からに引渡しがはじまる。

 このERJ-145XRのウィングレットを、エムブラエル社は通常型のERJ-145にも取りつけることを検討している。ウィングレットをつけると、主翼スパンは今の20mが21mになり、燃費は3%良くなって、航続距離は3,700kmまで伸びる。さらに将来はヘッドアップ・ディスプレイの採用も検討中。

 今年3月末現在、ERJ-145は総数866機の注文を受けている。うち確定受注550機で、そのうち316機が引渡しずみ。

 胴体短縮型のERJ-135(37席)は1997年に開発着手、98年7月に初飛行した。部品の96%が-145と共通である。量産1号機がコンチネンタル・エクスプレスに引渡されたのは99年8月。今年3月末までに75機が生産された。受注数は総計207機。うち146機が確定受注である。

 その胴体を、2mほど延ばしたのがERJ-140(44席)。1999年11月アメリカン・イーグルから130機の注文を受けて開発がはじまり、2000年6月27日に初飛行した。この6月には型式証明を取って引渡しに入る予定。3月末までの受注数は164機、うち139機が確定受注である。

 ERJ-170(70席)とERJ-190はスイス・クロスエアの注文を受けて、1999年6月に開発がはじまった。ERJ-170は2002年12月に引渡しがはじまる。ERJ-190は190-100(98席)と190-200(108席)の2種類があり、まず190-200が2004年7月から就航する。受注数は-170と-190を合わせて325機。うち120機が確定注文である。

 かくてエムブラエル社はブラジルのハイテク技術を代表する企業となった。国外向け輸出高も2000年は売上高の6割を占め、27億ドルに達した。しかも、その内容は先進諸国の航空機メーカーと肩を並べるまでになり、リージョナル・ジェットに関しては37席から108席まで、最も幅広い製品を手がけるようになったのである。

 

 

ドルニエ機の挑戦

この両社を追うのがドイツにはじまり、米国資本を受け入れたフェアチャイルド・ドルニエ社である。

 フェアチャイルド・ドルニエ社は目下、328JET(32席)の生産と、528JET(55席)、728JET(70席)、928JET(90席)の開発を進めている。ほかに428JET(45席)の開発計画もあったが、これは昨2000年8月中止になった。

 いま同社が最も力を入れているのは728JETの開発である。1999年4月ルフトハンザ・シティラインから確定60機、仮60機の注文を受けて開発がはじまったもので、その後もGEキャピタル・アビエーションから50機の注文を受けた。現在原型3機の試作が進んでおり、1号機は2002年3月に初飛行する予定。2003年なかばまでに型式証明を取り、量産機の引渡しに入る計画である。

 928JET(90〜105席)は独ババリア・インターナショナル・リースから4機を受注して開発に着手した。すでに風洞試験も終ったが、同機は728JETの単なるストレッチ型ではない。主翼スパンが1.7mほど大きくなり、28.8mまで拡大した。経済性もシートマイル・コストが下がって、100席の状態で最も良くなる計算になっている。2003年末までに初飛行し、2005年初めに型式証明を取る予定。これらの2機種を合わせた受注数は、最近までに282機となった。

 528JETについては、まだ1機の注文もなく、正式開発に踏み切れない状況にある。場合によっては428JET同様、計画中止になるかもしれないという見方も出てきた。もっとも中国との間に50〜60席機の共同開発という話し合いも進んでいるので、これが実現すれば競争力のある安価な50席機が広大な中国市場を背景として登場してくるであろう。

 ちなみに428JETの計画中止は、リージョナル航空市場の変化によって、大型化への指向が強まってきたこと。またエアライン3社から30機以上の注文を受けていながら、2003年の引渡し開始という予定ではタイミングが遅すぎて、受注数がなかなか延びなかったなどの理由による。

 さらに、後発メーカーという条件から、機体価格が安くならざるを得ず、機体価格が下がれば外注部品も安くなる。そうすると下請けメーカーにとっても利益は少なくなり、開発体制をととのえることができないという悪循環におちいるきらいもあった。これらの、いくつかの条件が重なりあって、428JETの開発はなくなったのだった。

 

 

スコープ・クローズ

 もうひとつ、フェアチャイルド・ドルニエ社の米国市場への進出をはばんでいる問題は「スコープ・クローズ」である。これは、アメリカの大手エアラインとパイロット組合との間の労使協定で、大型リージョナル・ジェットは無闇に増やせない取り決めができている。つまり人為的に市場の大きさを限定したもので、無論ボンバーディアCRJ700やエムブラエルERJ-170などにも適用されるが、ドルニエ機は後発の悲しさ、大きな影響を受けている。

 ドルニエ社は、このスコープ・クローズがそのうちになくなるだろうと見ていた。しかし最近は逆に強化されてきたのである。おまけにヨーロッパの方では、こうした労使協定はほとんど見られないけれども、その代わり空域混雑の問題が大きくなってきた。そのため欧州航空交通管制当局は航行援助料を値上げすると言い出した。

 これで欧州メーカーのドルニエ社としては、腹背に敵を受けたような恰好になり、むろん先発2社にも影響はあるものの、苦しい立場に置かれている。将来に向かっては3社の競争がいっそう激化し、お互いにつぶし合いをして、どのメーカーも充分な注文を取れなくなる恐れもある。

 ちなみに、スコープ・クローズとは、リージョナル航空のほとんどが大手エアラインの傘下にあるため、大手のパイロット組合が自分たちの待遇悪化を防ごうとして、たとえば傘下のリージョナル航空会社が70席を超える航空機を使わないとか、自分たちの給与をリージョナル航空会社の水準に合わせて引き下げたりしないといった縛りをかけたものである。

 具体的に、コンチネンタル航空の場合は、傘下のリージョナル航空の機材を60席未満に限るという協定を結んでおり、デルタ航空は70席未満の機材に限定している。またノースウェスト航空は45〜55席の機材を現状のまま凍結し、あとは45席未満の機材導入しか認めない。アメリカン航空も50〜70席の機材は67機までで、あとは45席未満の機材のみとしている。

 前回ご紹介した「ベビージェット」――CRJ200(標準50席)の座席数を40〜44席に減らしただけで新しい派生型とみなすことにしたのも、こうした労使協定に対応するためであった。このベビージェットを発注したスカイウェストの提携先、ユナイテッド航空はワイドボディ1機の増機ごとにリージョナル・ジェット5機、狭胴型1機を増やすごとに3機の導入を認める。また現用ターボプロップ150機の代替は可といった協定を結んでいる。

 

 

苦難の先の新世界

 かくてリージョナル航空の世界は、労使協定や空域混雑といったきびしい環境のもとにある。しかも、ここに見てきた3大メーカーばかりでなく、4月28日に初飛行した新しいBAEシステムズのアヴロRJ85や、新規参入をめざすアライアンス・エアクラフト社のスターライナー200/300(70〜90席)、さらには中国のニュー・リージョナル・ジェット(NRJ:50〜70席)やロシア、東欧の計画も動きはじめ、いっそうの競争激化に向かいつつある。

 それでも機材開発と路線開設の両面でリージョナル・ジェットの動きが止まらないのは、苦難の先に広がる新しい世界がほの見えているからであろう。その新世界に向かって、いまリージョナル航空はいっそう大きな飛躍を遂げようとしている。

 (西川渉、『WING』紙、2001年6月13日付け掲載)

 

  

「本頁篇」へ)   (表紙へ戻る