最近の米週刊誌2誌が、昨年5月のバリュージェットの事故に関連する本の紹介をしている。『TIME』誌(3月31日号)と『ビジネス・ウィーク』誌(4月14日号)で、本の表題は『FLYING BLIND, FLYING SAFE』(盲目飛行と安全飛行)。著者のメアリー・スキアヴォはFAAの航空機検査責任者を6年間勤めた。

 この人は、フロリダの沼地に墜落事故を起こした低運賃の航空会社バリュージェットについて、かねてから安全性に問題ありとして、FAA内部で飛行停止を進言していた。それがなかなか実行されないでいたところへ事故が発生した。乗っていた110人は全員が死亡するという惨事となり、その翌日にはテレビの討論番組でヒンソンFAA長官と対決、長官が「バリュージェットは安全だ。私も乗りますよ」と言った途端、同航空が普通のエアラインの14倍も危険であることを統計的な記録によって指摘し、ついに運輸長官ともども辞任に追い込んだ女傑である。

 たとえばバリュージェットの旅客機は1994年、15回の緊急着陸をした。95年は57回、96年は5月に事故が起こるまで、ほぼ2日に1度ずつ不時着していたという。全く信じられないようなひどさだが、さらに詳しい調査の結果、3年間で5,000件もの不具合が発生し、FAAにも報告されていなかったらしい。その主なものは、何度にもわたる滑走路のオーバーラン、降着装置の折損、悪天候での無理な飛行、火災の発生、エンジンの爆発など。あるときはエンジンの破片が機内に飛び込み、7人が負傷したというすさまじさである。

 そこで装備品や部品の来歴を追っていくと、途中で記録がなくなってしまう。ボーガス・パーツを使っているために、来歴すら不明なのである。こうした状態を放置していたとすれば、事故は起こるべくして起こったといえよう。なおボーガス・パーツ(bogus parts:偽造部品)は最近の航空界の大きな問題で、米大統領専用機ですら、ときどき見つかるらしい。

 こうした詳細は、実際にスキアヴォさんの著書を読むのが最良だが、2つの週刊誌もきわめて詳しく書いている。特にTIME誌は特集を組み、何頁にもわたって本の抜粋を掲載している。内容の詳細については後日、実際の本を読んだあとでご報告することとし、ここではTAME誌の特集に付随している安全な航空旅行のためのエアライン選定の基準を要約しておきたい。これは、つまりFAAの航空機検査の責任者だったスキアヴォ女史の目から見た10項目である。

1 古い旅客機には乗らぬ方がよい。20年前の古い機体でも、ペンキを塗り直したり内装を張り替えたりして、新品同様に見せることができる。航空会社を選ぶならば、古くなった機材は使わず、定期的に機材の更新をはかるような企業が好ましい。

2.事故の前科がある機種には乗らぬ方がよい。ロシア機も避けた方がいい。

3.FAAが飛行停止にしたり、罰則を与えたような航空会社は、乗らぬ方がよい。どのエアラインが問題をかかえているか、注意して新聞を見ていれば分かることである。

4.発足まもない会社はやめた方がいい。長年の実績を重ねるまでは、どこが安全で、どこが不安全か、よく分からない。

5.飛行機に乗ったら、安全な座席にすわるのがよい。もっとも統計的には安全な座席など存在しない。事故機の中で死ぬ人はほとんど煙にまかれ、有毒ガスを吸って命を奪われている。したがって、事故になればどこだって同じようなものだが、少しでも生き残りのチャンスを増やすには出口に近い通路側の座席を選ぶべきだ。そうすれば、いざというときに最も早く脱出することができる。

6.煙フード(頭巾)を買って、携行すべきである。フードをかぶれば頭の保護になるし、有毒ガスのフィルターにもなる。値段はせいぜい100ドルである。

7.航空会社でも飛行機でも、何かあやしいところを見つけたら、遠慮なく申し立てるのがよい。場合によってはFAAや国会議員にも伝えるべきだ。もっといいのはマスコミに伝えること。逆に、安全問題が報道されるようなエアラインには乗らぬことである。

8.声を出すこと。最近の事故例を見ても、事故の前に乗客が何かあやしい前兆を目撃していることが多い。われわれは安全に運んでもらう権利がある。運賃は、そのために払っているのだ。たとえば離陸直前の飛行機の翼に氷がついていたり、雪が積もっているのを見つけた時はすぐに客室乗務員に言うべきだ。乗務員が反論しても、決してひっこんではならない。

9.ハリケーンやスノーストームのときに飛行機に乗ってはならない。

10.何か問題があったときは、その場で航空会社の職員の名前をメモしておくとよい。あなたの意見や要望を受けてくれたか拒否したか、どんな場合でもメモしておくべきである。次に同じような問題があったとき、空港や航空会社の職員は必ず「誰がそんなことを言いましたか」と訊き返してくるであろう。それに対して具体的な日時、場所、人名などを上げれば、相手はグウのねも出ない。

 以上の10項目のすべてに賛同するわけではないが、航空人としては銘記すべき点が多い。また旅客としては「われわれは安全に運んでもらう権利がある。そのために運賃を払っているのだ」というところが気に入った。たしかに交通機関は無事目的地へ着いてくれなければ困る。死ぬために高い切符を買うわけではないのである。





 ご参考までに、この『FLYING BLIND, FLYING SAFE』(Avon Books出版)は米アマゾン・インターネット書店(http://www.amazon.com)で簡単に買うことができる。定価は25ドルだが、アマゾン書店では1割引き。それに送料5.95ドルが加わって、普通は船便で1か月余りで送ってくるはずだ。筆者も昨日注文したばかりで、実物はまだ読んでいない。1か月後が楽しみである。(西川渉、97.4.7)

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