関川栄一郎さんを偲ぶ

 この追悼文は、日本航空新聞の求めにより、関川さんの逝去が報じられた10月25日に書いて、翌26日の「日刊航空通信」に掲載された。

 25日付けの新聞によれば、関川さんの亡くなられたのは1週間前の18日だったらしい。通夜と葬儀は近親者だけですませた由。享年79歳。がんであった。そういえば、いつぞや極く静かな口調で「私はもう長くありませんから……」と言っておられたが、あれからまだ1年も経っていない。

 今朝(25日)の新聞で関川さんの訃報を知って驚いております。関川さんには「航空情報」の編集長だった40年ほど前からご厚誼をいただき、時どき拙文も採用してもらいました。

 関川さんは英語も堪能で、長年にわたってアメリカの週刊航空雑誌「アビエーション・ウィーク」のコレスポンデントとして英文記事を書いてこられました。日本のことが詳しく書いてあるので、おやと思って読んでゆくと必ず関川さんの署名がありました。

 ご存知のとおりお話も上手で、航空事故が起こるとテレビの画面に登場し、ゆっくりと無駄なことはいわず、事故直後のわずかな情報から原因と思われる事象を的確に推定して、視聴者を納得させました。

 晩年のお仕事は『日本の航空事故』の執筆でした。およそ2千件の事故をこまかく調べ上げ、720頁余の大きな本にまとめたものです。文章は単に事務的な調査報告ではなく、巧みな読み物になっていて、しかも「後世の研究者の資料」になるよう正確を期した内容です。その上この本は80部だけの私家版で、事故という特異な問題だけに関係者に迷惑が及ばぬよう、部数と配布先を限定したという関川さんらしい気配りがこめられた函入りの稀覯本でした。

 謹んで、関川栄一郎さんのご冥福をお祈りいたします。

(西川 渉、「日刊航空通信」2005年10月26日付掲載)


関川栄一郎著『日本の航空事故』(平成15年10月10日)

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