<編集後記>

さらに進む先進諸国

 昨年は日本のドクターヘリもいささか進歩しました。拠点数が10ヵ所に増え、高速道路への着陸も少しばかり目処(めど)がつきました。これは2005年8月、政府の関係機関による「高速道路におけるヘリコプターの活用に関する検討」の結果が暫定案として発表されたことによるものです。もっとも、そこには「着陸地帯の広さや交通規制の実施等一定の条件を設定し、着陸可能な箇所から試験的に運用していくことを前提」とする条件が付されたせいか、年末までには実施例を聞いていません。あるいは事故が少ないせいかもしれず、それならば幸いといわなければなりませんが。

 それにしても、日本がぐずぐずしているうちに、諸外国のヘリコプター救急はいっそうの進展を見せております。ドイツは日本とほぼ同じ国土面積ですが、2000年には51ヵ所のヘリコプター救急拠点がありました。それが2003年78ヵ所に増えて驚かされました。ところが Airmed 2005 での発表によると、これが2004年現在91ヵ所に増えたそうです。

 またアメリカではAAMS(米航空医療学会)の集計によると、2004年10月現在546ヵ所だった拠点数が1年後には614ヵ所に増えました。04年の数字は集計もれもあったようですから、必ずしも68ヵ所の純増というわけではありませんが、決して現状に甘んじていないことがよく分かります。

 さらにスイスは、ご存知のとおり、全国13ヵ所に拠点を置いて、山岳地のどこでも15分以内に医師が駆けつける体勢ができています。わずかに間に合わないところもあるようですが、昼夜を問わずに飛行しますから医療過疎の問題もほとんど解消されています。


救急ヘリコプターの濃密な配備を誇るスイス。
日本の面積に当てはめると120機の配備に相当する。

 

 ところが、これで充分かと思いきや、最近のREGAは気象条件が悪くても計器飛行で飛べるようにしようという計画を進めております。現在は有視界飛行だけですから、霧や雨のために視界が充分でなければ飛行は中止せざるを得ません。そのために助かるべき患者さんが助からないことも出てくるでしょう。こうした不幸な事態を多少とも軽減するために、REGAはスイス航空当局を初め、ヘリコプター・メーカー、電子機器メーカー、そしてスイス空軍の協力を得ながら計器飛行プロジェクトを進めているわけです。

 すでに1年余り前から試験飛行が始まっており、2006年1月から実際に患者さんをのせて病院間の計器飛行を始めると聞きました。

 救急飛行体制は、これで充分という限度はありません。われわれも決して取り残されることのないようにしなければならないと思います。

(西川 渉、『日本航空医療学会ニュース』No.2所載、2006.2.3)


現場救急に当たるドイツADACの救急ヘリコプター

(表紙へ戻る)