<北京の旅>

高速八達

 おとといの夜遅く北京から戻ってきました。昨日は4日間の空白を埋めるための雑事に追われ、本頁に手を着けることができませんでした。

 この旅行中に北京から200キロ、往復およそ6時間ほど、むろん必要あってのことですが、高速道路を走りました。国土が広いだけに日本よりも車線が多く、道幅も広くて、アメリカなみと云っていいほどです。この立派な道路が最近10年ほどの間に四通八達してきたようで、北京郊外でありながら、道路名は張家口からチベットのラサまで通じていることを示す「張拉高速」となっていました。とすれば、おそらく4,000キロに達する距離で、すでに完成しているならば今や大変な道路網が実現したことになります。

 30年ほど前、渤海湾の石油開発にヘリコプターを飛ばす仕事をしたときは、北京〜天津間およそ200キロを何度も車で往き来しましたが、砂利と泥のでこぼこ道でした。そこを人民服の自転車が行き交い、夜は街灯のない真っ暗な道をときどき古い車が走ってくる程度だったので、文字通り隔世の感にうたれます。

 調べてみると、高速自動車道の建設は1988年に始まり、2020年までに35,000キロの道路網をつくる計画でした。ところが、早くも2007年には計画を超えて53,600キロに達してしまったとか。それも米国のハイウェイにならっているもようで、標識の描き方もアメリカ式。周囲の広大な景色とともに、まるでテキサスかカリフォルニアを走っているような気がしました。

 かくて中国の高速道路網は、今や65,000キロを超え、2020年には85,000キロになるらしい。こうしたプロジェクトに日本の道路建設業界が関係しているかどうか知りませんが、日本の9,000キロ程度にくらべてよだれの出るような話ではないでしょうか。

 中国の高速道路網がここまで発達すると、自動車が増えるのは当然のことで、世界中の自動車メーカーが競って車を売りこんでくる。中国人自身の所得も少しずつ増え、車を持てる人も増えて、北京市内の道路も大変な混みよう。どの車もバッパーとかビビビビビィーと大音響のクラクションを鳴らしながら、前後にひしめく車の列に横合いから割りこんでくる。

 そのうえ歩行者も車を無視して、広い道路を赤ん坊を抱きながら子供の手を引っ張って横断しようとする母親がいたり、リアカーを引いてゆっくりと横切る老人がいたりするので、見ていて危なくてしょうがない。いつ衝突事故が起こっても不思議ではない感じでした。事実、路上で死ぬ人の3分の2は歩行者だそうです。

 しかし、道路の延長や車の増加にもかかわらず、交通事故は不思議なことに減りつづけているらしい。私は前から中国の交通事故死は年間およそ10万人と思いこんでいたのですが、それが近年は減ってきた。そのもようは下図に示すとおりです。

 もっとも、このような公式の統計は信用できないという見方もあって、世界保健機構(WHO)までが、実際の交通事故死は毎年25万人以上と見る。そしてけが人は1,600万人を超えるとか。

 こうした状態を改善するには、車や道路の安全性を高めるのはもちろん、なによりも運転マナーを良くし、歩行者と運転者が交通信号をよく守る必要があります。さらに車に乗る方は安全ベルトの着用、速度制限の遵守、酒酔い運転をしないといったことも含まれるでしょう。

 そして救急医療体制の充実が必要で、その中に救急ヘリコプターの配備が重要であることはいうまでもありません。そのあたりの予備的な話が今回の旅の目的でした。


北京市内の幹線道路で見た救命救急センターへの出口を示す標識。
その横に見える999は北京の救急電話番号。中国共通の番号は120とか。


救命センター
日本の「救急」は急を救う。中国の「急救」は急いで救う。
救急車は救急指令本部と救命センターの両方にあって
医師が同乗すると聞いたが……。

(西川 渉、2010.6.1)

表紙へ戻る