GPS計器進入システム

 

 ヘリコプターの計器飛行は、日本ではまだ簡単な実験がおこなわれているにすぎない。むろん固定翼機のルールに従うならば、ヘリコプターも計器飛行ができる。しかし羽田空港へ入るのに先ず大島上空へ行き、そこから木更津VORをヒットして、羽田ILSに乗って進入するなどという遠回りは、ヘリコプターにとっては非現実的であろう。第一、速度の違うジェット機の邪魔になって、却って危ない。

 その非現実を放置したまま、ヘリコプターは天候が悪いときは飛べないじゃないかといい、安全性に疑問を呈する人も少なくない。しかし今や米国では、150か所を超えるヘリポートで天候の悪いときも計器進入による飛行が実用化されているのである。

 そのうち130か所余りのヘリポートについて、計器進入方式を設定し、FAAの承認を取ったのがサテライト・テクノロジー社(STI)である。その手法はGPSを使うもので、ヘリポート周辺の地形や建物などの障害物をこまかく調査し、コンピューターに記憶させ、一定の計器飛行ルートを設定して、正確な高度を保ちながら、ヘリコプターを着陸帯まで誘導してくるもの。

 非精密進入だが、ディファレンシャルGPSなどの地上施設は要らず、経済性が高いというのが、その技術開発にあたったステフェン・ヒコック社長の説明。利用者は主に病院で、これがあれば天候の悪いときでも救急患者の搬送が可能になる。

 たとえばペンシルバニア周辺のいくつかの病院では、この計器進入方式が導入される前、年間4,000回の飛行要請のうち1,300回が天候が悪くて飛べなかった。就航率は7割以下である。ところが現在、これらの病院では年間1万回以上の要請に対して、飛べなかったのが1,100回程度。したがって就航率は9割に近い。飛べなかった理由の大半は氷結気象状態によるもので、これは航法の問題ではない。

 ほかに大企業でも、自社ヘリポートにSTI方式を導入しているところがある。おかげで、これらの企業トップは多少の悪天候でもヘリコプターで飛ぶことができるのである。

 1月のHAIヘリエキスポ2000では、このSTIが出展していたが、そこで聞いた詳しい話は、いずれ本頁でご報告したい。下の展示ブースの写真は、背景にどしゃぶりの雨が描かれ、アメリカの地図にこの会社が設定した計器進入ヘリポートの位置が赤丸で示してあった。すなわち、赤丸で示したヘリポートはどしゃぶりでも着陸できますよという意味であろう。


(ヘリエキスポ2000に出展したSTIのブース)

 

 写真の中に「129」という数字が赤く見えるのは、同社が計器進入を設定したヘリポートの数。実際は、しかし、今日現在131か所になったというのが、ヒコック社長(下の写真)の説明。また上の写真の人物の陰になっているが、足もとのところに日本地図が描かれ赤丸が記入してあった。場所を訊いたところ顧客の名前はいえないと断られたが、かつて事故のあった場所というから神戸〜但馬線ではないかと思われる。

 まだ相談を受けただけで机上の調査にとどまっているようだが、日本へも市場拡大の野心があるらしい。野心でも何でもいいから、是非とも日本で計器進入の可能なヘリポートをつくってもらいたいものである。

 もっとも、このくらいのことはアメリカに頼まなくても出来そうな気がする。しかし一つはSTIの独創を尊重し、もうひとつは日本の航空局を納得させるためにも、やっぱり彼らに頼むのが早道かもしれない。

(西川渉、2000.2.1)

 


(GPS計器進入方式を説明するヒコック社長)

 

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