<ストレートアップ>
最も危険な職業 アメリカで最も危険な職業は何か。大統領である。そうでなければ、あんなに大勢のシークレット・サービスが厳重警護しているはずがない、というのは半分冗談で半分は本当だが、最近の米「フォーブス」誌は危険な職業について次のように書いている。
危険な職業の典型として、普通はよく鉱山労働者が上げられる。しかし最近は法律がととのい、安全設備も充実してきたので、10位以内にもランクされなくなった。
では1位は何か。漁業である。2006年の統計では、これもアメリカの話だが、10万人あたりの死者は142人であった。ただし絶対数は51人である。死亡の原因は、アラスカの海などで難破したり、船から転落したり、漁労器具が故障したり、漁網がもつれて巻き込まれたりするためだ。それに沖合い遠くの事故が多いから、怪我をしてもすぐには治療を受けられない。したがって命を落す結果になりやすいというのである。
第2位は、矢張りパイロットである。これには航空機関士などの搭乗勤務者も含まれるが、地上勤務者は含まれない。10万人当りの死者は88人に上り、絶対数では101人であった。特にヘリコプターのパイロットは危険な仕事が多い。重量物の吊下げ輸送や農薬散布、種まきなどで、こういう作業は飛行場以外の場所で離着陸しなければならず、それだけ危険性も増す。
第3位は山の木こりである。10万人あたりの死者は年間82人であった。彼らは山の中でチェーンソーをもって大きな樹木を伐り倒し、枝をはらって、木材として切りそろえ、トラクターで運び出す。それをトラックへ積みこむときはクレーンの操作もしなければならない。こうした作業をする山林労働者たちを襲うのは強風、足もとの隠れた根こぶ、上から落ちてくる枝、あるいは重たいチェーンソーの故障などである。この場合も大けがをすると、山の中だから救護に時間がかかり、命を落すことにもなる。
以下10位まで、下表のような危険な職業が列挙されている。
順 位 職 業 10万人当り死亡者 死者の絶対数 1 漁船乗組員
142 51 2 飛行従事者
88 101 3 山林労働者
82 64 4 鉄鋼労働者
61 36 5 廃品回収業者
42 38 6 牧畜業者
38 291 7 電気工事人
35 38 8 屋根職人
34 82 9 運転者(トラック等)
27 940 10 農作業者
22 158 ところで、これは別のところで読んだ報告だが、アメリカの救急ヘリコプターの事故が増えたことから、今や救急飛行は最も危険な職業になってしまったというのである。それによると、アメリカの救急ヘリコプターは1998年から2005年までの8年間に89件の事故を起こした。これは毎月およそ1件に相当し、うち31件が死亡事故で、死者は75人であった。
したがって救急機に乗る人びと――パイロットはもとよりドクター、フライトナース、パラメディックなどの危険度は、普通の職業についている人の6倍も高く、鉱山で働く人の2倍で、戦場を飛ぶ戦闘機パイロットと同程度という。
アメリカの救急飛行は夜間飛行が3分の1を占め、法的な基準も異なる。したがって日本とは条件が違うが、新しいドクターヘリ特別法が実現した今日、その普及が期待される折から、ドクターヘリが決して危険な職業にランクされることのないよう、いっそう気を引締めてゆかねばなるまい。
(西川 渉、『日本航空新聞』2007年9月20日付け掲載)
最も危険な人物が最も危険な魚獲りをハリケン・カトリーナの後の
洪水の中でやっている。世にこれほど危険なことがあろうか。(表紙へ戻る)