<欧州の旅>

プラハとベルリン

 一昨5月30日までの10日あまり、山野豊さんと一緒に欧州に出かけておりました。最初の4日間はチェコのプラハで開催された国際航空医療学会AIRMED2008への参加、最後の2日間はベルリン航空ショーの見学でした。途中3日間のあきは1日が移動、次の1日がベルリンのベンジャミン・フランクリン病院再訪、もう1日がベルリン動物園でパンダ、虎、黒豹などを見る旅となりました。

 ベルリンでは連日、山野さんご推奨のホワイト・アスパラガスを食べました。長さ20センチくらいの大きなアスパラガス5〜6本に生ハムとポテトをふんだんに添えた今の季節の典型的なドイツ料理です。またシュニッツェルという薄く切った豚肉のカツレツ料理も、日本のトンカツに似て美味しかったです。

 なおAIRMED2008では15分ほど口演の機会を与えられ、"HEMS in Japan - Weak Today and Strong Future"と題して日本の航空医療の現状と将来への期待を報告しました。

 以下、何枚かの写真をみていただきます。

 AIRMED2008では2日目の夜、開催国チェコの上院議長と厚生大臣主催の立食パーティが開かれました。少数の人が招かれ、上院議事堂の広い中庭に面したテラスでお酒と料理をご馳走になりました。その会場で歓談するヨーロッパ航空医療界の重鎮――左からロイヤル・ロンドン・ホスピタルのヘリコプター救急を始めたリチャード・アーラム博士、ドイツADACのヘリコプター救急創始者ゲルハルト・クグラー氏(現欧州航空医療連盟の名誉会長)、そしてミュンヘン・ハラヒン病院のヘリコプター救急に活躍したエルウィン・シュトルペ博士(現ADAC顧問)。いずれも、この40年間、世界の航空医療をひっぱってきた実力者です。

 AIRMEDの会場に展示されたベル429。救急仕様の機体で、後部にはストレッチャー搭載のために大きく開閉するクラムシェル・ドアがある。今年中の型式証明取得をめざして、ベル社では目下その開発試験に最後の拍車がかかっている。ここに展示されているのも、これから試験飛行に使われる実機だそうです。

 AIRMEDの4日目はプラハ郊外の空軍基地で実際に活動中の救急救助機を並べてデモ飛行がおこなわれました。救助隊員2人が患者をのせたストレッチャーと共にEC135で吊上げ、救助に当たるシーンです。

  下は、ベルリン市内のベンジャミン・フランクリン病院を飛び立つ救急機EC135。もちろんデモではありません。

 ここを訪ねたのは月曜日の午前10時頃でしたが、朝の7時に待機が始まってからの出動はまだ1回だけ……などと話をしているうちにドクターの腰につけた出動ベルが鳴り「すぐ戻ってくるから」と云って飛んでゆきました。

 ところがなかなか戻ってこない。ヘリポートで2時間近く待って、やっと12時過ぎに帰投。聞けば、この間、基地に戻らぬまま出先から出先へ4件の患者を治療してきたという。患者はすべてよその病院へ預けたらしく、戻ってきたときの機内は出動時の3人――ドクター、パラメディック、パイロットだけでした。

 患者4人のうち1人は自転車に乗っていて車とぶつかった交通事故、2人は心臓病、もう1人は泥酔者。大声ではいえぬが、出動の3割くらいはヘリコプターが必要だったかどうか疑問が残るとか。

 そんな話を聞いているうちに、またも呼び出しベルが鳴って、この日3度目の離陸。このときも患者は乗せないで戻ってきましたが、脳疾患だったらしい。結局われわれは1人も患者さんを目にしなかったわけですが、今朝の最初の1人は交通事故の受傷者で、ここに搬送してきたそうです。

 なお、このベルリン救急機は、昨年は1年間で3,000回の出動、昨日は1日で12件だった。費用は1件あたり1,200ユーロ(約20万円)――すべて健康保険で支払われるので、患者の負担はありません。ヘリコプターとしては年間6億円近い収入を上げたことになります。

 話はとびますが、ベルリン動物園は市内の真ん中にありながら広大な敷地を有し、動物の種類が世界で最も多く、きわめて自然に近い状態でほとんどの動物が屋外飼育されています。それでいて日曜日というのにさほど混んでいるわけではなく、見る方の人間もゆったりした気持で動物たちと対面できます。

 パンダも、ちゃんといました。中国から貰ったのか、借りたのか、お金を払ったのかどうか知りませんが、上野動物園のパンダがいなくなったからといって中国に高額を払ってまで借りることはないでしょう。パンダがいなければ動物園ではないみたいな考え方もおかしいが、どうせ高い金を出すのなら、日本国内のどこかの動物園から借りるべきです。 

 さて、ベルリン航空ショーは、旧東ベルリン郊外のシェーネフェルト空港で開催されました。今年はA380、ユーロファイター戦闘機、ユーロコプター各機、そしてスイス空軍のパトロワイユ曲技飛行チームなどが飛びました。


ノースロップF−5Eを使ったパトロワイユ・スイスの曲技飛行


ドイツ陸軍ヘリコプターの大編隊飛行


胴体に環境への適合をうたったA380巨人機の静かで、しかも堂々たる離陸


インドがドイツの旧MBBの協力を得て開発した軽ヘリコプターALH。
インド陸軍所属の飛行中隊がクジャクの塗装をして華麗な演技を見せた。

 最後に、AIRMED2008で私の話に使ったスライドの1枚。1970年に始まったドイツのヘリコプター救急は11年後には31ヵ所で飛ぶようになりました。日本でも昨年「ドクターヘリ特別法」の成立によって地方自治体の多くが導入を計画するようになり、結果として向こう3年間で今の2倍、すなわち発足10年間で30ヵ所まで増え、ドイツ同様の普及軌道に乗るのではないかという期待を示したものです。

 この口演にあたっては、山野さんに口上の英訳をお願いするなど、いろいろ助けていただきました。ここにお礼を申し上げます。

(西川 渉、2008.6.1)

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