所得税を一律1割にすると

 

『所得税一律革命』(光文社、1999年7月30日刊)は、かねて渡部昇一氏がとなえてきた持論を加藤寛氏と語り合った本である。その持論とは、所得の多少にかかわらず、誰でも一律に1割の所得税を納めるようにすれば、すべてがうまくゆくというもので、私も賛成である。

 とりわけ、所得税を1割にすれば、景気が回復して国民総生産高が増えるから、政府の税収は減ることなく、国民には余裕ができてヘリコプターに乗る人が増え、ヘリコプターが普及するという結論が気に入った。

 税金に苦しめられたり、恨みを抱いている人は少なくないだろうが、日本の所得税や相続税は世界的に見ても類例のない酷税である。われわれはそれに気がつかないだけで、いかに高い税金を絞り取られ、しかもろくな使い方をされていないか、さまざまな具体例が本書で語られている。

 そのいちいちをここに書くわけにはいかないので、目次の言葉を抜粋してゆくと次のようになる。

 

「なぜ日本経済が回復しないのか。なぜならケインズの本質が理解されないまま、ケインズが否定していることをケインズ理論でやりつづけ、ついに日本は社会主義にゆきついたからである。その結果、この国は私有財産を否定し、国民の財産を半分に減らし、官僚が値段を統制し、国民を無気力症におとしいれてしまった」

「なぜ官僚システムが国民を貧しくするのか。なぜなら官僚には締め切りもなく、潰れっこないからである。大蔵省は天皇在位60年記念に10万円のニセ金をつくり、篤志家の30億円寄付に税金をかけるといった横暴ぶりで、建設省は高速道路サービスエリアのカレーの味まで規制し、在外大使の情報源は誰でも見ているCNNニュースにすぎない」

「役人に裁量権がある限り日本は腐りつづける。大蔵省の自己保身が長銀を破綻させた。これ以上血税を国際援助に使うな」

「重税感はひとえに税の使われ方がひどすぎるからで、税金は役人保護のために使われ、彼らは税金を元手に利益を山分けしている」

「所得税を1割にするとなぜ日本がよみがえるのか。なぜなら累進税は逆差別だからである。一律課税なら領収書を集めなくてすむし、サラリーマンの給料は大幅アップになる」

「相続税はすべて合わせても消費税の1パーセントしかない。相続税をゼロにして大富豪が増えれば国が栄えるのは歴史の鉄則。小国スイスも相続税をなくして富の蓄積が進んだ結果、何の資源もない山国が1人あたりの国民総生産高でアメリカを超え、ドイツを超え、日本を超えて、フランスの2倍に達している。親の遺産が相続税によって官僚の手にわたれば、たちまち無駄に使われ、雲散霧消してしまう」

「この税制改革で、日本は世界が仰ぎみる国になる。国際間では税金を下げる競争がはじまっており、その競争に勝てば世界の金持ちが日本に集まり、世界の財産が日本に集まり、いざというときの安全保障が手に入る」

 逆に税制改革をしなければ、日本は景気回復どころか、寄生虫のような官僚たちに蚕食され、没落の一途をたどるであろう。

 日本の経営者は、昔から如何に法人税を安く抑えるかが重要な課題であった。下手に利益を出して、多めの税金を納めようものなら、株主に怒られるのが関の山。それでいて如何に多くの税金による仕事を取ってくるかが重大使命だが、誰もそのあたりを矛盾とは思わず、欲の皮をつっぱらかすだけが経営者の任務とされている。

 そこで本書によれば、個人所得税や法人税を一律1割――すなわち利益の1割にすれば、企業は利益が上がってヘリコプターで出張できるようになる。また富豪個人もわざわざ混雑した東京に住まいをしなくても、田舎に広大な邸宅を構え、必要があれば庭先からヘリコプターに乗って都会へ出てくればよい。

 ヘリコプター人としては、いやでも賛成せざるを得ないのが、本書の主張する「所得税一律革命」である。もとよりヘリコプター人でなくとも。 

(西川渉、99.8.31)

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