自動車クラブと救急ヘリコプター

 

 去る8月19日の『日刊自動車新聞』は、1面トップで日本自動車連盟(JAF)がドクターヘリの配備を検討していると報じた。早ければ2010年にも配備開始の見通しという。

 その記事によると「JAFは、医師や看護師を乗せて救急患者を搬送するドクターヘリの導入を検討する。救急医療体制や法制化の動向を踏まえ、ヘリの運航機関としての可能性を調査。導入方針が決まれば、2010年度にも機体の配備を始める見通しだ。ドクターヘリは救命率が高く欧米で普及しているが、日本では運航経費が重荷になって、専用機は10機にとどまる。全国規模の受付指令システムや基地などのインフラを持つJAFの参入表明は、ドクターヘリの普及に追い風となりそうだ」

 具体的には、これから医療機関や自治体との役割分担、採算性、運航規模などを検討してゆく予定。これでJAFの公益性が増し、公益的な事業に育つ可能性もあると考えている。田中節夫会長も、ロード・サービス事業は民間との競合が激化しており、「今後いっそう公益的な付加価値をつけてゆきたい」と意欲を見せている。ということは、この新聞記事だけではよく分からないが、JAFみずからヘリコプターを保有し、運航するという極めて積極的な構想にちがいない。


ADACの救急ヘリコプターEC135

 このように、JAFに相当する自動車クラブが救急ヘリコプターの運航をしたり支援している例は、世界的にも珍しくない。ドイツでは、救急ヘリコプターの導入を発案したのがドイツ自動車クラブADACであった。1960年代末、アウトバーンの事故死を減らすためにヘリコプターの活用を着想、ヘリコプターをチャーターして救急実験を繰り返し、航空医療の有効性を実証した。その結果1970年ミュンヘンで、ハラヒン病院を拠点とする本格的なヘリコプター救急が発足し、さらに内務省、国境警備隊、NPO法人、民間ヘリコプター会社などが参入した。2005年現在では、ドイツ全土に64機の救急ヘリコプターが配備され、うち30機をADACが運航している。

 またオーストリアでも1983年7月1日、オーストリア自動車クラブとオーストリア赤十字が、政府や民間団体の支援も得て、先ず5機の救急ヘリコプターの運航を始めた。今では自動車クラブOAMTCが主体となって拠点数15ヵ所を運営しているが、冬季はアルプス山中でスキーなどのけが人が多いことから、7ヵ所増となる。2003年の出動実積は15,157件、うち5,100件が山の中の救急救助作業であった。現有機はEC135が18機。

 イギリスでは自動車連盟(AA)が1990年代末、3年間の期間を限って、合計1,400万ポンド(約30億円)の資金援助をした。AA自体がヘリコプターを保有したり運航したりするわけではないが、その支援によって救急ヘリコプター7機が追加購入され、運航費の一部も補填されるなどして、現在では約20機が飛んでいる。


7月なかばロンドン救急本部(LAS)で貰った写真。
トラファルガー広場には年に何回か着陸するらしい。
大きな詳しい写真を見たい人はここをクリックしてください。

(西川 渉、2006.9.1)

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