<未来型垂直多用途機>

第3世代のティルトローター

ベルV-280ヴェイラー

 米陸軍は、JMR/FVL(Joint Multi-Role/Future Vertical Lift:未来型統合垂直多用途機)と呼ぶ次世代の新しいロータークラフトの開発を計画中。その基本構想は、現用UH-60ブラックホーク多用途機やAH-64アパッチ攻撃機に代わるロータークラフト中型機で、巡航速度510q/h(280kt)、作戦半径900〜1,500km、戦略的展開距離3,800kmの飛行性能をもち、乗員4人が乗組むと共に、兵員11人の搭乗が可能。2030年代の実用化をめざしている。

 これに対し、いくつかのメーカーから提案が出ていたが、このほどベル・ヘリコプター社のV-280ヴェイラーが「実用化の可能性が高い」として選定され、試作されることになった。

 同機最大の特徴はティルトローターであること。ベル社によればXV-3やXV-15といった実験機から、V-22オスプレイ実用機など55年の経験を経て、第3世代機となる。構造は固定翼の両端にエンジンを固定し、そこに取りつけたローターマストのみが水平位置から垂直位置まで変向する。したがってオスプレイにくらべて機構は簡単で、部品数も少なく、経済性も信頼性も高まる。

 また機体重量に対してローターの回転面が比較的大きいので、ディスク・ローディングがオスプレイよりも小さい。そのためダウンウォッシュも弱く、胴体側面の大きなドアからホイスト作業をするのも楽になる。

 もうひとつ、V-280は主として陸軍だけが使用するので空母内部に格納するためのローターの折りたたみが不要。その分だけ部品数が少なく、機内スペースが廣くなる。

 乗降ドアは胴体左右に幅1.8m――換算すれば間口1間のサイド・ドアがつき、兵員11人が迅速に乗降できる。ほかに乗員はパイロットや射手など4人。操縦系統は3重のフライ・バイ・ワイアである。こうしたV-280について、ベル社は2017年から試験飛行に入る計画。

 なお、V-280ヴェイラーなる呼称の由来について、Vは垂直、280は巡航速度(ノット)をあらわし、ヴェイラー(Valor)は勇気または勇敢の意である。

 それにしても最近のベル社は、アメリカ人にとっては日常語かもしれぬが、われわれ外国人には意味がよく分からず発音のしにくいニックネーム「ヴェイラー」などという言葉を使うのはどうしたことか。ベル525リレントレス(Relentless)もそうだし、429WLGに至っては何のことか分からない。まさか強い動物が好いというので、狼、ライオン、ゴジラの頭文字を並べたわけじゃあるまい。そしてリレントレスの意味も無情とか残忍とか、暗いイメージが強い。

 商品の名前は、それが売れるか売れないかの重要な要素になる。開発にあたっては当然マーケット・リサーチをしたはずだが、そのリサーチの対象に品名は入れなかったのか。さらに国外マーケットを調査したのだろうか。自分しか分からぬような独りよがりの命名では、国防省には売れても民間市場や国外市場では伸び悩む恐れが出てこよう。上の3機種の愛称も考え直してもらいたい。

 話を戻して、米陸軍のJMR計画に対しては、シコルスキー社もボーイング社と組んでS-97レイダー(Raider:急襲者)の研究開発を続けている。かねて飛行実験を重ねてきた二重反転式ローターのX2コンパウンド・ヘリコプターを基本とし、尾部に推進用プロペラを持つ。2014年には試験飛行開始の見こみ。

(西川 渉、『航空情報』2013年9月号掲載に加筆)

 

 


ベルVー280――エンジンは水平のまま翼端に固定され、
ローターマストだけが水平から垂直へ変向する。

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