<野次馬之介>

「韓国に謝罪せよ」

 馬之介だって本を読む。とりわけ、この『大放言』(百田尚樹、新潮新書、2015年8月20日刊)、今や乗りに乗った著者の最新の書き下ろしで、期待にたがわぬ面白い本だった。

 冒頭「第1章 現代の若きバカものたちへ」の中の「自分を探すバカ」の節にはこんな会話が出てくる。

「なんで会社を辞めるんや? したいことがあるんか?」
「自分探しの旅に出ます」
「お前はここにおるやないか」
「そんなんじゃなくて……本当の自分を探すためにインドに行くんです」
「お前のルーツはインド人か?」
「違いますけど」
「長いこと行くんか?」
「取りあえず半年くらい」
「半年で、自分が見つかるんか?」
「さあ」
「自分が見つかったら、何するんや?」
「まだ決めてません」

 しばらく前に「自分探し」という独りよがりが、若者だかバカものたちの間で流行ったらしい。

 もうひとつ、これが本書の中で最も面白いところだが、「日本は韓国に謝罪せよ」という主張。当時の朝鮮に対し、日本はひどいことをした。謝罪は当然だと著者はいう。

 その一つは「教育の破壊」で、1910年、朝鮮を併合した日本が最初にやったのが小学校をつくったこと。当時は小学校が40校しかなくて文盲率9割以上だった。日本政府が「こんなアホばかりの国民では使い物にならん」と思ったかどうか。見るに見かねて「多額の税金を投入して朝鮮全土に5,200を超える小学校を建てた」。教科書も、朝鮮にはハングル文字の印刷所がなかったので、東京でつくった。

「考えてもみてほしい」と著者はいう。「学校なんかほとんどなかった国に勝手に学校を作り、こどもたちを無理矢理に勉強させる――こんなことをやれば、朝鮮人に恨まれてもしかたがないではないか」

「驚くのは帝国大学まで作ったことだ。戦前、目本国内には七つの帝国大学があったが、京城帝国大学は六番目に作られた。……しかも京城帝国大学の図書館予算は東京帝国大学の十倍もあった。朝鮮人にしてみれば、『人をバカだと思っているのか』と怒りたくもなるだろう」


堂々たる京城帝国大学

「さらに許されないことは、日本は朝鮮の自然にまで手をつけていること……当時は朝鮮の山々はほとんど禿山であったが、日本はそこに六億本の木を植えて、勝手に朝鮮の景色を日本風に作り替えてしまった。また農業用のため池を大量に作った。現在もため池の半分は日本が作ったものだ。そう、傷跡は今も各地に残っている」

「国土の蹂躙はそれだけではない。併合前はわずか100キロしかなかった鉄道を6,000キロにまで増やした。美しかった朝鮮の土地に醜い鉄道網を敷きまくった」

「道路や河川も勝手に整備して、多くの橋を作り、ダムまで作った。海岸には港や防波堤を作り、ここでも美しい朝鮮の風景を破壊した」

「ちなみに賢明なるヨーロッパ諸国は植民地に学校などは作らなかったし、植林もせず、河川の整備もせず、ダムも作らなかった。……だから今も多くの国が恨まれていない」


朝鮮のみにくい禿げ山

 さらに「第4章 我が炎上史」は、これまで物議を醸してきた著者の数々の放言について、それらを非難した新聞やテレビや国会議員に向かって具体的な反論がなされている。

 著者の放言は[人間のクズ]「束京大空襲は大虐殺」「南京大虐殺はなかった」「ナウル・バヌアツはクソ貧乏長屋」「日教組は日本のガン」「九条信者を前線に送り出せ」「土井たか子は売国奴」「きれいなオネエチャンを食べたい」「軍隊創設」「沖縄の二紙はつぶさなあかん」などなど。

 これらの発言と、それに対する非難と反論の応酬は、面白いことこの上ない。

 とりわけ面白い応酬が、東京都知事選で応援演説に立ったとき「田母神俊雄候補以外の候補者は、どいつもこいつも人間のクズみたいなやつです」という言葉が著者の口から飛び出した。

 早速、民主党の有田芳生議員が国会の予算審議の場で、安倍総理に「候補者に向かって人間のクズなどという発言をしていいのか」と質問した。安倍総理は「私は聞いていないから答えようがない」と答弁したが、有田議員は同じ質問を何度も繰り返し、ついに安倍総理から「予算審議の場で延々とその質問を繰り返すつもりか」とたしなめられる始末。

 その後も民主党は安倍総理に相手にされず、頭にきて「百田尚樹を国会に呼ぶ」といい出した。著者も望むところで「喜んで国会に行きます」と言っていたが、話は途中で消えてしまう。もし呼ばれたら、以前、有田議員がツイッターで、ある政治家のことを「かんなクズ」と揶揄していたことを取り上げ、「クズがダメで、かんなクズはいいのか。クズとかんなクズの違いを教えてくれ」と反撃する準備をしていた。

 さらにバカな民主党がびっくりするようなことを、いっぱいしゃべってやるつもりだったらしい。著者の国会召致が実現しなかったのは残念だが、もし実現していれば民主党は危うくかんなクズと化して炎上するところだった。


都知事選で街頭演説をする著者(左端)と田母神候補

 ……と、このような本書の内容を長々書き写すと、せっかくの本の売れ行きを邪魔することになるかもしれない。野次馬は、ここらで引っ込むとしよう。

(野次馬之介、2015.8.15)

   

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