<野次馬之介>

軽タンデム・ヘリコプター

 

 アラブ首長国連邦(UAE)のクェスト(Quest)ヘリコプター社なる企業が去る11月のドバイ航空ショーで軽双発ヘリコプターAVQの開発構想を明らかにし、実物大のモックアップを公開したとのニュースを知った。

 同機はウクライナとの共同開発で、背景には旧ソ連技術陣の協力があるらしい。機体形状は4枚ブレードのローターが前後についたタンデム・ローター形式。モックアップは4座席だが、ローターが前後についているので、胴体の延長は比較的容易という。

 エンジンはウクライナ製のターボシャフトが2基。操縦系統はフライ・バイ・ワイアを採用する。

 最大の特徴はキャビンが射出できること。エンジンやローターに不具合が生じた場合、パイロットが射出ハンドルを引くと、コクピットとキャビンの部分だけが、ローターやエンジンのついた機体構造部から外れて前方へ飛び出す。そして2つのパラシュートが開いて、ゆっくりと降下することができる。高度100mからでも安全に降りられるという。

 この射出のために4基のロケットがついているが、その射出による荷重倍数は4Gが0.5秒間、そして2Gが1.5秒間なので、乗っている人が感じる衝撃はさほど激しくないとか。

 設計仕様は最大速度295q/h、航続距離700km、滞空3時間半、総重量2,250kg、エンジン出力450shp×2基。

 初飛行は2013年初めの予定。2014年に実用化し、初年度は20機を生産、3年目には40機を生産する計画。用途はビジネス乗用機、警察、救急などを想定している。


飛行中のAVQ想像図

 

 さて、このAVQヘリコプターは、1機当たりの価格が295万ドルという安さ。安いのは結構だが、ローターが2つにエンジン2基、ロケット4基を装備して、そんなに安くできるものだろうか。クェスト・ヘリコプター社はウクライナの人件費は安いから大丈夫というが、いよいよ実現する頃には値上げをするのではないか。それとも、人件費の問題ではなくて、アラブのオイル・マネーを採算を度外視して投入するというのなら分かるような気もするが。

 もうひとつ、航空機に不具合が生じた場合、乗っている人がパラシュートをつけて跳び出すのは、戦闘機では当たり前の仕組みである。しかし、これを普通の飛行機やヘリコプターに利用するといっても、素人の乗客に跳び下りられるはずもない。

 そこで機体ごとパラシュートで降下させるというアイデアが生まれるわけで、そういう話をときどき聞く。だがモノになった例は、これまで皆無というか、ひとつだけ軽飛行機の例があったような気もするが、よく憶えていない。今もそれが飛んでいるのか、それで助かった実例があるのかどうか、聞いたことがない。

 ヘリコプターは頭上にローターが回っているので、戦闘機のように上の方へ跳び出したり、パラシュートを開いたりすることはできない。そこで、以前に実際に見たのは、ダラスにあるベル・ヘリコプター社の工場で、XV-15ティルトローター実験機の床面に穴があいていて、試験飛行の最中に不具合が生じたときは、その穴からパラシュートをかかえて跳び降りるという話だった。むろん実際にそんなことはなかったが、上のAVQヘリコプターはキャビン全体を前方へ射出し、その上でパラシュートを開くというのだから、一つのアイデアではある。

 うまくゆくかどうか心配だが、その前にそんなことにならぬような、パラシュートなんぞは要らないヘリコプターを開発して貰いたいものである。

 それにしても、モックアップは美しく立派である。

(野次馬之介、2012.1.9)

 

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