<同時墜落事故>

ロシアの911

 ロシアの旅客機2機がほぼ同時に墜落した。この事故は、機体の残がいが広範囲にわたって散乱していたことなどから、いずれも空中爆発という見方が強い。そこまではいいけれども、火薬による爆発なのか、空中分解なのか、そのあたりがはっきりしない。

 ほとんどの報道はチェチェン問題を背景とするテロの疑いを伝えている。これはロシア政府の言い分でもあり、墜落直前に両機からハイジャック信号が発信されたというから、それならばテロだろうということになる。最近はブッシュ政権にならって、何でもかんでも、テロのせいにする風潮が出てきた。

 しかし新聞に出た機体の残骸を見ると、無論ごく一部分の写真しかないが、余り焼け焦げたような跡が見られない。とすれば、火薬による爆発ではなくて、機体そのものが空中分解したのではないかという見方もあり得る。

 「ワシントン・ポスト」紙は、これら2機の旅客機は老朽化していて、ろくな整備もしてなく、偶然ではあるが、ほぼ同時に分解したのではないかという見方を伝えている。もっとも、あまり信じられないけれど、という但し書きをつけてはいる。それに当然のことながら、エアライン自体は整備のミスはなかったとしている。

 いずれにせよ、2機の飛行機にほぼ同時に機材上の不具合が発生したり、人間的なミスが起こるなどというのは、数学的な確率論から見てもほとんどあり得ない。やはり、これはテロリストによる「ロシアの911」だろうというわけである。

 とすれば事件の影響はロシア政府にはね返ってくる。最近のロシア国内での世論調査によれば、プーチン大統領を支持する人は68%に達したが、ロシア政府の政策ややり方については60%の人が反対を表明している。つまり「大統領はいいが、政府は悪い」というわけである。

 このあたりは、しばらく前の日本も同様で、「小泉はいいが、自民党は悪い」といった感があった。最近は「小泉は悪いし、自民党も悪い」もしくは「小泉は悪いし、橋本も悪い」ということになってきた。そして郵政民営化反対論者からすれば「小泉は悪いが、自民党は良い」というように逆転しつつある。

 政府に対する信頼感は、日本もロシアも薄い。2000年にロシア最新鋭の原子力潜水艦「クルスク」が沈んで乗組員全員が死んだとき、ロシア政府は最初、外国の潜水艦がぶつかってきたと説明していた。むろん物的証拠も何もないままで、最後は魚雷の燃料が洩れて爆発を起こしたのが原因ということになった。初めにいい加減な嘘を言うと、必ず後でばれて信頼を失う。

 2機の事故調査にあたっている専門家は、当然のことながら、機材上の不具合や人間のミスも視野に入れて調査をつづけている。

 エアライン側も別の立場から、これがテロであるということは強調したくないらしい。ロシア政府は最初から、テロだテロだと言っているが、そうなると今後も同じようなことが繰り返し起こる可能性があって、乗客の減少につながるからである。

 もっとも機材や整備の不具合ということになれば、今度はエアラインの安全性が問われる。このような事故は、やはり、原因の如何を問わず、航空界にとって打撃となることは間違いない。エアライン側は乗客の予約キャンセルはないというが、実際に飛行機の切符を汽車の切符に買い換える人も出てきた。

(西川 渉、2004.8.27)

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