<ストレートアップ>

暫定税率、残すならドクターヘリへ

 

 暫定税率の是非をめぐって、最近その一部を救急医療やドクターヘリの充実に回してはどうかという意見が新聞やテレビで見られるようになった。ここに掲載する卑見も同じような主旨だが、それを書いたのはひと月以上前の1月下旬で、英訳はJapan Aviation Weekly 2月4日号、本文は『日本航空新聞』2月14日付に掲載された。

 車のガソリン代がリッター153円を超えた。このうち63円余りが税金である。比率にすれば41%に相当する。諸外国でもガソリンにかかる税金の割合はこんなに高いのかどうか。ガソリンに限らず、よほど特殊なものを除いては、これほど高い税率は聞いたことがない。

 こうしたガソリン税は、主として道路建設のための目的税だが、そのうち半分近い25円余は1974年の石油ショック当時、ガソリンの消費量を抑えるために2年間の期限つきで暫定的に上乗せされたものである。同時にまた、この暫定税率による増収分も道路建設に当てたわけで、なんだか奇妙な矛盾が感じられる。

 燃料節約のための税金ならば、たとえば燃料効率のすぐれたエンジンの開発や石油以外のエネルギー開発に充てるべきだった。もっとも、燃料節約が目的ならば、税金を上げるのではなく、トラックやタクシーなどを除いて、個人用の乗用車などは登録番号によって走ってよい日を決めるなど、いくらでも方法があるはず。そもそも日本は、こんな狭い国で車が多すぎるのである。

 さて、本来は2年間で終わるはずだった暫定税率が、何故か次々と延長され、30年余りを経過した今日なお存続している。そして何度目かの延長期限がこの3月末にやってくる。一方で、現今の石油価格の高騰でガソリン価格が上がっていることから、今度こそ、これを廃止すべきだという議論が高まった。しかし政府は、日本の道路整備はまだ充分ではないとして、4月以降も暫定期間を延ばすよう主張している。それに対して国民の間では、政治家と官僚と建設業界の癒着だという見方も多い。ましてや、この税金で道路ばかりでなく、役人の住宅をつくっていたばかりか、「みちぶしん」なるミュージカルをつくってタダで全国巡業をしたり、1,060万円のCDをつくったり、マッサージチェアや野球のユニフォームを買ったりといった実態を見れば、疑惑が深まるのは当然であろう。

 

 ところで近年、日本の医療制度にほころびが出てきた。とりわけ救急医療体制のほころびは顕著で、救急車が患者を搬送して行っても、医師の手が足りないとかベッドの空きがないなどの理由で断られるケースが多い。何ヵ所もの病院に断られて、とうとう救急車の中で死亡したというニュースも珍しくない。そもそもが急を要する病気だから、わが身に置き換えて考えるならば、まことに恐ろしい話である。

 そうした状況を補完して患者の死亡を減らすためにも、ヘリコプター救急システムの整備が急がれる。しかし、この1月現在、救急ヘリコプターは全国14ヵ所でしか飛んでいない。本来ならば50ヵ所、ドイツなみに考えるならば80ヵ所ほど必要だが、普及が遅れている最大の理由はコスト負担の問題である。ドクターヘリは国と自治体が半分ずつ負担することになっていて、財政難の自治体が出費をしぶっているからだ。

 そこで冒頭のガソリン税が生きてくる。この税金による国の歳入は、道路整備に充てる特定財源だけでも年間5.4兆円に達する。ここで暫定税率をなくさないとすれば、その一部をドクターヘリの費用に充てるべきで、そうすれば矛盾はなくなり、救急体制は一挙に改善されるであろう。

 金額としては年間100億円、すなわち道路整備の0.2%を充てるだけで50機のドクターヘリが飛ぶようになり、0.3%ならばドイツなみの80機が飛ぶことになる。あるいは自治体の負担分だけに充てるとすれば、半分の0.1〜0.15%ですむ。

 そもそも救急ヘリコプターは、交通事故の救急や救命を目的として始まったものである。ガソリン税でカラオケ器具、アロマセット、ピンポン台を買うくらいなら、ヘリコプターによる救命費用に充てても、いっこうにおかしくないであろう。

(西川 渉、「日本航空新聞」2008年2月14日付掲載)

【関連頁】

 Using the Gasoline Tax for the Doctor-Helicopter(2008.2.13)

(西川 渉、2008.3.3)

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