1999年ヘリコプター界の展望

 新しい年を迎えて欧米の航空専門誌の中に今年1年間の見通しを特集しているところがある。その中で『ローター・アンド・ウィング』誌(99年1月号)は、米国内のヘリコプター運航会社50社についてアンケート調査をおこない、運航面から見た占いを立てている。

 それによると、アメリカの景気高潮の現状を受けて、回答者の75%が99年は98年よりも良くなると答えている。特に遊覧飛行をしている企業は66%が良くなると答え、救急ヘリコプターの運航会社も62%が良くなるという。

 しかし石油開発向けのヘリコプター運航会社は、飛行時間が増えると答えたところが42%で、50%が前年と変わらないとしている。 

 面白いのは、ヘリコプター運航事業を進めていく上で何が問題かという調査である。アンケートの答えを要約すると次表の通りとなる。

事 業 分 野

当 面 の 問 題 点

農薬散布

政府の規制、環境問題

チャーター飛行

将来の保証がないこと

救急飛行

費用の回収(医療制度)

ビジネス飛行

直接運航費、ヘリポート不足

警察活動

政府予算

石油開発

原油価格、競争

遊覧飛行

政府規制、景気の揺れ

訓練事業

学生にとって訓練費の高いこと

その他

政府との競合、費用

 上表の中で「政府との競合」が問題になっているのは、民間会社でもできることを政府機関がおこなうのは民業圧迫という考え方があるからだ。日本でも最近、似たような考えが出てきて、宅配便や郵便などは民間企業にまかるべきだという声が高まっている。何も郵政省が税金を使ってやる必要はない。民間会社にまかせれば、税金も安くなるし、ハガキ代も安くなるという主張である。

 同じような主張は、アメリカではヘリコプター界でも昔からなされていることで、たとえば森林局は山林火災の監視や消火のために自分でヘリコプターを持つことが禁じられている。民間ヘリコプターを使いなさいというわけで、救急でも何でも民間ヘリコプターでできるところに政府機関のヘリコプターが入ってくると、直ちに問題にされるのである。

 

 以上のような希望と問題をかかえながら、米ヘリコプター会社の機材は増えるのかどうか。1999年中に保有機を増やすと答えたのは43%、増やすかもしれないと答えたところが29%であった。

 特に救急ヘリコプターの運航をしているところが、最も多くの増機計画をもっているようである。半数以上が機材の追加導入をするつもりと答えた。

 そこで、こうした運航会社を相手とする、メーカー側の動きはどうであろうか。英『フライト・インターナショナル』誌(1999年1月6日号)は、世界のヘリコプター工業界の動きが活発になってきたと伝えている。

 シコルスキー社では昨年の暮れも押し詰まった12月23日、かねて開発作業を進めてきたS-92が初飛行した。乗客19人乗りの同機は今後2,000時間ほどの試験飛行を経て、2001年なかばまでに型式証明を取る予定。その開発には日本から三菱重工も参加している。

 1999年は間もなくベル427軽双発機とアグスタA119コアラ軽単発機の引渡しがはじまる。EH-101大型3発機も昨年夏、民間向け1号機が日本に到着、今年3月中には運輸省の耐空証明を取って、東京警視庁に引渡される見こみ。立川飛行場が定置場になるもようである。

 EH-101軍用型は、英空軍向けの量産1号機が昨年末にウェストランド社で完成、間もなく初飛行する。ペイロード4トン余の同機は2000年4月に英空軍へ引渡される予定。エンジンはロールスロイス・チュルボメカRTM322ターボシャフト(2,240shp)が3基。

 今年はまた、ティルトローター量産機の引渡しがはじまる。ベル社とボーイング社が開発してきたV-22オスプレイは、5月24日、米海兵隊向けのMV-200Bの量産1号機を引渡すことになっている。そして7月には2号機、8月には3号機が引渡される予定。史上初めてのティルトローター機がいよいよ実用段階に到達した。

 なお、海兵隊は総数360機のMV-22を調達する計画だが、ベル社は生産を早めて、今の年間30機という生産計画を36機に増やし、2003年までに終わらせるよう国防省に要求している。

  

 また『フライト』誌は、向こう10年間の長期予測を立てている。それによるとヘリコプターは8,000機、190億ドル相当の需要が見こめるという。8,000機のメーカー別内訳は、ベル社が最も多くて23%のシェアを占め、次いでユーロコプター社が18.75%、シコルスキー社が12.3%、ロシアのミルが10.7%を占める。

 1998〜2007年の10年間を見ると、全体的には前半の方が引渡し機数は多いであろう。けれども後半は民間向けの大型機――EH-101、カモフKa-62/62M、ミルMi-38、シコルスキーS-92が増えると見る。

 またヘリコプターの開発や生産は共同作業が増えてきた。最近ではベル427が韓国サムスンとの共同開発であり、ユーロコプターEC120はシンガポールや中国の協力を受けて開発された。ベル609ティルトローター機はイタリア・アグスタ社との共同開発になり、アグスタA319はベル社の協力を得るもよう。S-92も多数の外国メーカーが参加しており、ミルやカモフも西側メーカーとの共同プロジェクトを希望している。

 なおベル社とボーイング社の間で宙ぶらりんになっていたMDヘリコプターについて、間もなく新しいオーナーが決まるもよう。これらMD500/600およびMD900にはベルギーのヘリフライ社が買い手として名乗りをあげているが、エンストローム社やシュワイザー社も買収の入札に応じると見られている。

 

 最後に今年の航空界の主な行事予定は次表の通りである。私自身どれに参加するか決めてはいないが、できれば5月のAHSフォーラムに行きたいと思う。

展 示 名

主 催 者

時  期

場  所

ヘリ・エキスポ99

HAI(国際ヘリコプター協会)

2月2123

テキサス州ダラス

AHSフォーラム

AHS(アメリカン・ヘリコプタ協会)

5月2527

カナダ・モントリオール

パリ航空ショー

国際航空サロン

6月1320

パリ・ルブールジェ空港

ヘリテック99

スフィアヘッド展示会社

9月28日〜10月1日

英サリー州ニューモールデン

ビジネス航空ショー

NBAA(米国ビジネス航空協会)

101214

米ジョージア州アトランタ

アジア国防展99

エスタールー

11月3〜5日

タイ国バンコク

LIMA99

プロトンリマ

1130日〜12月5日

マレーシア・ランカウィ島

(西川渉、99.1.11)

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