苦闘するボーイング787

 

 ボーイング社が787の初飛行に向けて懸命に闘っている。悪くするとエアバスA380の二の舞になりかねない状況になってきた。

 もとより今のところ、787の設計に問題が見つかったわけではない。しかし787はもともと、今ごろは飛んでいなければならなかったはず。そのうえで9ヵ月間の試験飛行を経て、来年5月までに型式証明を取ることになっていた。

 しかし、7月8日のロールアウトから1ヵ月半を超えて、事態は逆戻りしているかに見える、と最近の英「フライト・インターナショナル」誌は書いている。それというのも、部品の取りつけどころか、取り外しが行なわれてきたためだ。今や、初飛行は10月にずれこむ可能性が出てきた。しかしボーイングとしては強固に、来年5月の型式証明取得と全日空への引渡し日程は変わらないと主張している。

 ということは、2,000時間の試験飛行を7ヵ月間で終えなければならない。新しく開発した大型旅客機の試験飛行がそんな短期間で完了した例は過去にはない。ましてや787は複合材を多用し、エンジンも新しく、電気系統も複雑である。特にキャビンの与圧やエアコンは、従来の旅客機のようにエンジンの空気を流用するのではなく、電気を使うことになっている。

 そうした新たな技術的課題をかかえて、なおかつ短期間の試験飛行が可能とすれば、これまでの設計と製造が完璧で、地上試験も完全でなければなるまい。そのうえで飛行試験では何の問題も生じることなく、地上作業を確認するだけですますことができる。それならば、7ヵ月でも可能だろう。現実は、しかし、なかなか難かしい。おそらくは無数の問題にぶつかるはずだ。

 10日ほど前の「シアトル・タイムズ」も、8月21日の記事で、きびしい見方をしていた。シアトルのお膝元にあって、いつもはボーイングに好意的な記事を書く同紙だが、現実は楽観できないらしい。

「去る7月8日、ファンファーレと共に華々しくロールアウトした787だが、今なお組立てラインに坐りこんだままだ。初飛行が1ヵ月後に迫ったというのに、いくつもの部品がまだ出来ていないからだ」「ロールアウトのときの787は、外側から見る限り立派に出来上がったように見えた。しかし中味の一部は空洞だったのだ」

 ボーイング787はロールアウトのセレモニーが終わったあと、工場の中で構造部分の一部、主翼前縁、水平尾翼、主翼付け根付近のフェアリングが外された。あれから1ヵ月半近くたって、今もほとんどが外れたままらしい。それにコクピットですら、ロールアウトのときは未完成であった。

 こうしたことから2号機以降の組立ても、ドミノ倒しのように順番に遅れている。下請けメーカーでは部品が完成していても、ボーイング社として納品を受けられない。トヨタ自動車同様、すべての部品がジャスト・オン・タイムでそろわなくてはならないからである。

 この方式を、そこまで厳密に守らなくてもよかろうという考え方もある。けれども工場は、組立て工程が円滑に進むことを前提に設計されているため、床面積にも余裕がないのである。次の機体の組立てを始めようにも、そのためのスペースがないのだ。

 さらに「シアトル・ポスト」も787の初飛行が10月まで遅れることになったと報じた。理由は、さまざまな装備品の取りつけと相互の連動が余りに複雑なため。とりわけ操縦系統と他の装備機器との連動調整に手間取っていると書いている。

 こうした状況から、787の型式証明の取得時期も遅れるのではないかという懸念が強まった。もとよりボーイングは、量産機の引渡し日程に変更はないと頑張る。ではあろうが、波乱含みの状況は否定できない。787にとって、A380の遅れは他人事(ひとごと)ではなくなってきたのである。

 【関連頁】

   パリの空の下セーヌは波立つ(2007.8.20)

(西川 渉、2007.8.31)

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