<ボーイング>

787さらに遅れる

 ボーイング787の初飛行は、何度目かの遅延によって2008年秋とされていたが、その時期も過ぎてしまった。今のところは2009年初めということらしい。しかし実際はおそらく2009年夏になるのではないかという見方が強い。とすれば1年後に型式証明が取れたとしても、量産1号機が全日空へ引渡されるのは早くて2010年4月、もしくは同年夏以降になる可能性が大きい。

 さらには秋になるかもしれないという見方もあって、そうなれば他のエアラインは2011年にならなければ受け取れないということにもなろう。

 これらの新しい日程について、ボーイング社は12月15日に公表すると伝えられる。今のところボーイング自体もどうなるか分からないというのが本当のところであろう。

 これでボーイング社の遅延発表は4回目になるが、当初の日程から2年以上の遅れという珍事というか不祥事というか、信じられない事態である。

 この遅れは先般の2ヵ月間に及ぶ従業員スト、27,000人の職場放棄の影響が大きい。けれどもストのせいばかりではない。

 全複合材製の機体構造など、余りに新しい技術を取りこんで、製造作業も難しいのであろう。さらに400万品目以上の部品が世界中に散らばるメーカーで製造されていて、歩調が合わないせいもあろう。

 さらにメーカーの中には人件費が安く、航空機の製造に不慣れな後進国の企業も入っている。もっとも後進国のせいばかりではない。米ヴォート社もボーイングのパートナーとして仕事を始めたときは技術部門がなかったし、作業員の中にも航空機の製造に経験がなくて実地訓練中の低賃金労働者も混じっている。加えてボーイング社の方も、下請けメーカーに対する管理監督体制が不充分。

 また、前から問題になっていたファスナーの不足は今も解決していない。しかもファスナーは、単に不足しているだけではなかった。すでに10機分以上の胴体が完成まぢかにありながら、これから1機あたり8.000個のファスナーを取り替える必要があるという。これは製造指示書の書き方があいまいだったため、ボーイング社のエバレット工場と下請けメーカーの両方で取りつけ方を間違えたらしい。

 ソフトウェアの問題もある。これはソフト自体に欠陥があるわけではなく、さまざまな下請け企業からのソフトを最終的にひとつにまとめるのに予想外の時間がかかるためという。

 機体のオーバーウェイトも解決していない。現在製造中の787-8は当初の設計より7トンも重くなってしまった。そのため航続距離は7,600〜8,000浬(nm)の設計案に対し、6,900浬にととどまる可能性が出てきた。とすれば、豪州カンタス航空など、787を長距離路線に使う予定のエアラインにとっては大きな痛手となる。

 また設計面で、窓の位置を間違えて機体強度に影響する可能性も出てきた。そのため位置を変更するとすれば前代未聞の異常事態であり、結果として窓のない座席も生じる可能性がある。そう書いているのは、エアバス社の「ボーイング787の教訓」と題する報告書である。

 一方で、現今の世界的な経済不況によって旅客需要も減っているため、引渡しの遅れは却って良かったかもしれないなどという気休めをいう人もある。石油価格も下がってきたことだし、燃費の問題はさほど大きくなくなった。考えようによってはけしからん見方で、どれほどの人が賛成するだろうか。

 問題の発端はファスナーというが、どこでボタンのかけ違いが始まったのか。

【県連頁】

   ボーイング787またもや遅れる(2008.4.11)

(西川 渉、2008.12.8)

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