<ボーイング>

787またもや遅れる

 

 本頁でボーイング787のことを書いてきたのは、開発作業の遅延とか経営陣の見通しの甘さとか賠償金の悩みとか、そもそもそんなことを取り上げるためではなかった。しかし相手の方がどんどん横道へそれていって、出てくるニュースが不幸な話題ばかりになってしまう。今回もまた bad news だが、早く good news を聞きたいものである。

 ボーイング社は昨日、787の開発日程について3度目の遅れを発表した。量産1号機の引渡しが2009年第3四半期になるという。

 当初の計画では2008年5月が引渡しを開始の予定だった。それが遅れて、いったん2009年初めということになり、さらに1年近く遅れるというのである。これでボーイング社の信用は大きく揺らぎ、遅延に伴うエアラインへの違約金で多大の損失が出るもようというつらい話である。

 今回の引渡しの遅れは、主翼付け根のウィングボックスの強度に問題が見つかり、修正の必要が出てきたことによるらしい。したがって初飛行も早くて今年第4四半期にずれこんだ。

 787については現在、世界50社以上のエアラインが合わせて892機の注文を出している。それだけにまた、これら50社が引渡しの遅れに対する賠償金を要求することになれば、ボーイング社として大変な事態におちいる。もはや経営陣は「空振り三振」で、バッターボックスから出なければなるまいという人もある。

 注文は、まだ1機の取り消しもない。受注金額にして1,510億ドル(約15兆円)という莫大なもので、それだけに後が怖い。今のところ、これは第3者の推定だが、今回の遅れによる賠償金の支払いは40億ドル(約4,000億円)を超えると見られる。これはボーイング社の2007年の利益41億ドルに匹敵する。

 ボーイング787は周知のとおり、機体の大半を炭素繊維を主とする複合材で製造し、金属製よりも軽く、耐用性もあり、腐食もしにくい。さらに整備費が安く、燃料消費も少なく、経済性にも優れる。乗客にとっては現用機よりも快適といった特徴をもっている。

 こうしたことから石油価格の高騰も追い風となって、大量の注文を集めた。新しく開発する旅客機としては、史上かつてない売れゆきである。

 しかし製造工程は、構成部品の大半を世界各国のさまざまなメーカーに分散して外注し、最後に全てを同時にボーイング社に集めて組み立てるという方式を考えた。ところが、この工程がうまく進まず、材料不足などで部品製造が遅れるといったこともあって、ついに機体の最も重要な中心部、ウィングボックスに技術的な問題が見つかったのである。

 そのうえで今回の遅延発表となったものだが、このスケジュールも信用してよいのかどうか。株主の間にはボーイング社が問題の大きさすら分かっていないのではないかという批判もある。そのため株価も大きく値下がりした。

 ボーイング社のスケジュールは、今のところ2009年に25機を引渡す予定。当初の112機から大きく遅れることになる。遅れるけれども、石油価格と環境問題を考えるならば、787は待つ価値もあるという投資家もいる。それだけに注文を取り消すエアラインもないのであろう。

 もう一度野球にたとえるならば、ボーイング787は画期的な航空機としてホームランをねらった設計である。しかし、これまで2度三振に倒れた。今3回目のバッターボックスに立って、まさか3度目も三振を喫することはないと思うが、どうだろうか。

 ともかくも、787を発注しているエアラインが続々とボーイング社に対する賠償請求の意向を表明しはじめた。全日空、日本航空を初め、カンタス、エアニュージランド、エアインディア、バージン、英国航空などである。

 今のところは、全日空の就航も当初計画から1年半の遅れということになる。産みの苦しみはつくる方も飛ばす方も、まことに大変である。

【関連頁】

   ボーイング787を遅らせたのは誰か(2007.12.14)
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(西川 渉、2008.4.11)

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