<小言航兵衛>

狂人と愚人と痴人

 アメリカの作家ロバート・ベンチリー(1889〜1945)は、あるとき近所の銀行に融資を申し込んだ。すると驚いたことに、無条件で融資が認められた。翌日ベンチリーは、その銀行から預金を全部おろしてしまった。理由は「こんな危険な融資をする銀行なんて信用できない」というのである。

 ベンチリーは自分が金銭感覚に欠けていることをよくわきまえていた。同じ作家の石原慎太郎が十分な金銭感覚を持っているかどうか知らぬが、いささか怪しい気がする。そんな人物が自ら銀行をつくって誰にでも融資をしてやろうというのだから、ベンチリーの心配通りになるのは当然のこと。わずか3年で1千億円を使い果たしてしまった。

 それで懲りたかと思いきや、ふたたび400億円の増資をするというのだから、気違い沙汰である。それを認めた東京都議会も愚人の集団としか思えぬ。与党か自民党か知らぬが、それだけで賛成票を投じたとすれば、400億円がなくなったときには、知事と都議の全員で合わせて1,400億円を弁償して貰うことにしよう。


こんな具合にうまく支えられるならばよいが

 それにしても、増資の議決にあたって何か起死回生の秘策でもあったのか。「再建計画」なるものはあったようだが、単なる数字合わせであって通常の銀行業務の域を出ていない。こんな対策では、再び過去3年間と同じ轍を踏むことになるであろう。

 今ここで事業の中止をすれば、損害額は1千億円プラス清算費用となる。しかも損害を受ける人や企業は関係者だけですむ。しかし400億円を増資すれば、将来の費用はさらに増え、関係者のほかに納税者にも損害を広げることになるのだ。

 この際は再建など諦めて「清算計画」を立てるべきである。1千億円の負債を清算するのに、どれだけの費用がかかるのか。先ずは、その費用が最小限ですむような計算をして、それを税金以外の方法で捻出するよう計画すべきである。

 税金を使わない捻出法として、航兵衛の提案は宝くじである。今でも東京都は宝くじを売り出しているようだから、さほど突飛なむずかしいことではあるまい。新しく「新銀行清算くじ」とか「慎太郎救済くじ」とでもいうようなものを売り出し、その益金を清算費用に充ててゆけばよい。問題が銀行だからみずほ銀行に委託などせず、「新銀行東京」が自ら売ってゆけば手数料を浮かせることもできよう。

 むろん新しい宝くじの創設や売り出しの手続きについては、むずかしい規制や複雑な手続きがあるだろう。しかし石原知事の400億増資を認めさせた強引さをもってすれば、宝くじの創設なんぞは大して難しくないはず。

 どうしても駄目ならば、昔知事がやりたがっていたカジノを開設してもよかろう。もっと手っ取り早く、都営パチンコ店でもよい。

 こうしたことを何年間か続けて、損失の回収と清算費を捻出してゆけばよい。いずれにせよ、狂人と愚人の不始末を税金で後始末というのはよくなかろう。


貯金箱も寄ってたかって叩き割られたんでは貯まったもんじゃない

 以上はまあ、航兵衛が今朝の厠の中で考えたことだが、知恵者を自認する東京都の職員にはもっとすぐれた方策を考えられる人が大勢いるはず。その人びとの頭脳を絞って、さらに効果的な方策を考えて貰いたい。その知恵が出てこないとすれば、東京都の職員もまた痴人の集まりということになろう。

 狂人と愚人と痴人には、早々に退散してもらうほかはない。

(小言航兵衛、2008.4.15)

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