<ベル・ヘリコプター>

モデル429に型式証明

 7月1日、ベル・ヘリコプター社が開発を続けてきたモデル429軽双発タービン・ヘリコプターがカナダ政府の型式証明を取得した。同時に米FAAの型式証明手続きも完了し、ヨーロッパの型式証明も1ヵ月以内に交付される見こみ。

 ここに至るまで、ベル429は原型2機と前量産型3機を使って、総計1,800時間以上の試験飛行をしてきた。

 量産機の引渡しは、この7月から始まる予定。1号機は米エアメソッド社が受領し、救急飛行に使用する。

 こうした発表を、ベル社としては先月のパリ航空ショーで大々的に行いたかったであろう。残念ながら半月の遅れとなったが、ショー会場では連日デモ飛行をして見せた。

 もともと429は、もっと早く2007年春には型式証明を取り、同年末から量産機の引渡しを始める計画だった。その開発計画は2005年2月に発表され、カナダ・モントリオール近郊のミラベル工場で作業がはじまった。

 開発にあたっては、利用者による諮問委員会をつくり、各方面の意見を聴きながら設計にあたった。その結果、利用者の意見を充分に反映し、大方の満足が得られる機体が出来上がったし、ヘリコプター市場に刺激を与えることにもなったというのがベル社の言い分。利用者からの要求の中には、たとえば救急機としてはパイロット単独の計器飛行ができること、床面が平らでストレッチャー2人分の搭載と医療クルー2人の搭乗ができること、などが見られる。

 ベル社によれば、たとえばキャビン容積は同クラスの他機種よりも3割ほど大きく、したがって使い勝手が良く、さまざまな用途に当てることができるので、広い市場に受入れられる。それを実証するかのように、429の開発計画が発表になるや、たちまち300通以上の予約レターが寄せられたという。その6割は海洋石油開発向け。ほかに救急医療や警察などからの発注や予約も多い。

 救急機としては、ストレッチャー2人分のほかに、運航クルーと医療クルーを合わせて4人の搭乗が可能。また要人乗用機としてはキャビンにゆったりした座席を設け、4人が坐る。さらに警察機としてはキャビンおよび後方貨物室が広いので、所要の人員のほかにさまざまな機器の搭載が可能。

 総重量は7,000ポンド。設計基準は連邦航空規則(FAR)パート27、日本でいう「N類」のヘリコプターで、アグスタA109やEC135と同クラス。しかしキャビン容積はもっと広く、EC145やMD902に相当する。特にキャビンの床面積はEC135より7%広く、A109より2割ほど広い。貨物室の容積はEC135やA109のほぼ2倍という。

 機外吊り下げ能力は最大3,000ポンド。人員の吊り上げホイストは容量600ポンドである。

 エンジンはプラット・アンド・ホイットニーPW207D1ターボシャフト(730shp)が2基。同クラスの他機種にくらべて出力重量比が2割以上大きいとか。

 これによって、たとえば飛行中にエンジンのひとつが止まっても、片発だけで飛行可能なカテゴリーAの証明を受けている。具体的には片発が止まると、30秒で残りのエンジンが最大出力まで上がる。これで2分間経過すると、パイロットが片発時の最大巡航出力に設定して飛びつづけることになる。

 429の速度性能は最大150ノット。燃料効率を考慮した巡航速度は140ノット(260q/h)と速い。さらに2011年頃、降着装置が今のスキッドから引込み脚になれば、巡航速度が150ノットに増す。

 こうした429に寄せられた発注予約は300件。これらの予約にもとづいて、ベル社は今後、正式契約のための交渉を進めることにしている。基本価格はおよそ500万ドル。

 また実際に429を購入した顧客のための技術支援や部品補給についても、決して不便または不自由なことにはならないと、ベル社は自信を見せる。長年にわたってつくりあげてきた世界的なネットワークが形成されているためだ。

 量産態勢は、今年末までの半年間に14機だが、2010年には40機、11年には70〜80機をつくり、2012年には年間96機の生産を予定している。

 ところで、ベル社は429の開発にあたって顧客委員会をつくり、利用者の意見を取り入れながら設計を進めたという。利用者にとっては、こちらの希望が入れられるわけで有難いことだが、しかし小生、こういう方法で設計すると、うまくゆけばそれでいいのだが、悪くすると2つの点で問題が出るのではないかと危惧する。ひとつは平均的な製品しかできないのではないかということ。もうひとつは多くの意見や希望を取り入れようとして、あれもこれもとアブハチ取らずになってしまうのではないか。

 もとより市場調査は大事だが、それを踏まえた設計にあたっては、誰か透徹した見通しの立てられる人物がいて、独自の創造力を発揮する方が、他に見られない突出した製品が実現するのではないだろうか。

 かつてベル社はモデル204B、すなわち軍用ヒューイ(UH-1)シリーズで大ヒットを飛ばし、つづいて民間向けのモデル206小型機でも成功をおさめた。これらの設計作業が、どのような経過で、どのような才能によっておこなわれたかは知らぬが、後につづいた407は206の延長線上にとどまり、それを双発化した427は計器飛行ができず、改良型の427iは計器飛行は可能になったものの、キャビンがせまくて、特に救急医療機としてはほとんど使われなかった。

 そうした流れの中で誕生した新しい429がどのような成果を上げるか。ベル社は、429は決して206、407、427の発展ではなく、全く新しいヘリコプターだと主張するが、そうであるか否かは今後の運用実績によって明らかになるであろう。

 さて、ここに不本意な話を書かねばならないのは、ベル429の生産拠点、カナダの新聞によると、同機の設計に特許の問題が生じているらしい。

 ユーロコプター社がカナダの裁判所に訴状を出したというのである。内容は、429の降着スキッドが、同社の特許に触れるというもの。この訴訟はパリ航空ショーの直前に起こされ、2,500万ドルの賠償請求がついている。

 これに対してベル社は、パリでの営業活動を妨げるものと反論している。しかし、この訴訟問題のために、せっかく型式証明を取得しながら、製品の引渡しが遅れてもつまらないということから、ベル社としてはユーロコプターの特許に触れるとは考えていないが、当面は降着装置の形状を変更する予定。

 かつてユーロコプターEC120小型ヘリコプターが出現したとき、降着装置が胴体から直接出ていて、これならば草ぼうぼうの不整地に降りても何かにひっかかるようなことはなく、安全性も高いだろうし、見た目にもスマートと感じた。

 それに対して従来の降着装置は、ベル機に限らずユーロコプター機も、そりのつま先が前方へ伸びていて、不整地などではつまづきそうな気がする。ベル429も、つま先のないスキッド脚だったが、それがユーロコプター側にいわせると特許に触れるらしい。競争はきびしいだろうが、ヘリコプターの安全という観点からも、なんとか円満に解決してほしいものである。


スキッドの形状が上の何枚かの写真と異なる。
特許論争を避けるために当面はこうなるらしい。

 いささか難しい船出となったが、ベル429が久しぶりのヒット作になり、大きく飛躍することを期待したい。

【関連頁】

   ベル429の開発進む(2008.1.31)

(西川 渉、2009.7.4)

表紙へ戻る