<COMAC>

中国の野心ふくらむ 

 中国ではComac 919と呼ぶ新しい旅客機(130〜200席)の開発が進行中。ボーイング737やエアバスA320に匹敵する野心的な計画である。設計から製造までの開発にあたるのは中国商用飛機公司(Comac)。エンジンはGEやP&Wなど、西側メーカーのものを採用する予定で、すでに話し合いも始まっているらしい。

 完成目標は2016年。現用737やA320の代替機が必要になる時期をねらったもの。かつ、このクラスの旅客機が最もよく売れているところから、需要の多い大きさでもあり、中国の戦略的な思考法の一端を示す。さらに、ボーイングやエアバスに対して真っ向から勝負を挑むことになるが、新しい開発的な事業を始めるからには、このくらいの気概は必要であろう。

 中国はこれまで、エアバスやボーイングの旅客機を大量に発注すると共に、その見返りのような形で747、787、A320などの部品製造の注文を貰い、組立て工場なども誘致して相互協力を進めてきた。その結果、航空機製造の技術についてノウハウを蓄積し、いよいよ勝負に出てきた……といえようか。


Comac 919の模型

 問題は、しかし、航空機の製造と販売がうまくいっても、その後の技術支援や部品補給をどうするか。欧米のメーカーは、そのためのネットワークを世界中に張りめぐらしているが、如何にして新しい体制をつくってゆくかが課題となろう。

 もうひとつの課題は品質である。先進諸国のきびしい耐空性基準に中国製の旅客機が適合できるかどうか。エアバスやボーイングの下請けとして修練を積み、工作技術も高まったとはいうが、品質は技術だけの問題ではない。企業文化とかものの考え方、あるいは実際の作業にあたる従業員一人ひとりの職業意識や気持ちの持ちようが重要で、これが第2の課題である。

 3つめは、利用者に受入れられるかどうか。実は、これが最大の課題かもしれない。特にアメリカの消費者は、日用雑貨や食品について中国製を忌避する気持ちが強い。安いけれども品質が悪いとか、おもちゃの塗料に毒物が混じっているとか、わざわざ中国製というシールを商品に貼って、あとから文句をいわれないようにした時期もあった。

 日本でも毒入りギョウザとか、危険な農薬や染料を使った食品とか、中国製品に対する不信感はつきない。

 このような状況で、安全性こそが最も重要な航空機が世界中の信頼を得られるかどうか。とはいえ、737やA320の半値くらいで売り出す可能性もあり、欧米勢も油断はできない。

 そのうえ中国は、国内需要も大きい。仮に国外への輸出が伸びなくとも、国内だけで将来、相当な旅客機が必要になる。たとえばエアバス社は、中国市場について、向こう20年間に2,800機くらいの新製機が必要と予測している。そのうち2,300機は中国製の航空機でまかなうというのが、中国の目標。

 こうした需要をにらんで、一方では「翔鳳」の愛称をもつリージョナルジェットARJ21(70席)の開発も進んでいる。中国航空工業第一集団公司(AVICT)によって、すでに原型3機が完成、1号機は2008年11月28日、2号機は2009年7月1日に初飛行した。さらに6機の試験用機材を製作中で、うち2機は地上試験機。

 受注数も最近までに208機という。ただし、これは前渡金を払った確定注文ばかりではなく、単なる覚え書きか口約束だけの数字も含まれるもよう。

 なお、中国では現在、およそ1,300機の旅客機が飛んでいる。そのうちリージョナル機は110機のみ。そこで旅客機に占めるリージョナル機の割合だが、アメリカは43%、ヨーロッパでは36%。したがって1割に満たない中国では、これから増える可能性が高い。とりわけ中国西方の奥地では需要が高まると見られている。


ARJ21

 蛇足をつけ加えると、Comac 919は略してC919と呼ばれる。その意味するところは何か。CはChinaとComacの両方の頭文字を合わせたものであろう。同時にABCの3番目でもある。ということはA(Airbus)、B(Boeing)に続くことを象徴するとか。

 9(九)は中国では神聖な数である。919の最初の9がそれにあたる。次の19は、この飛行機が最終的に190人乗りの大きさにまで発展することをめざす意味らしい。本当かどうか、保証の限りではないが。

 中国の野心に満ちた2つの旅客機計画――果たして、世界の信頼を得て成功するであろうか。

【関連頁】

  リージョナルジェット三つ巴の開発計画(2007.12.27)

(西川 渉、2009.9.22)

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