フランク・ロイド・ライト(2)
これからも建つ超高層ビル 先日の本頁に、ニューヨーク・テロに照らして、高層ビルの建築は今後むずかしいのではないかと書いた。それに対して読者のお一人から、世界最高の高層ビルが目下建設中というお知らせをいただいた。私の不明を恥じながら、教えていただいた建物について感想を記しておきたい。
この超高層ビルは、その人の表現では「建築界の首都、シカゴ」に建つという。たしかにシカゴはそう呼ぶにふさわしい。マイルハイ・タワー構想を提案したフランク・ロイド・ライトを初め、さまざまな建築家の建物が妍を競い合いながら、みごとな都市景観をつくっている。いつぞや観光バスに乗ったときは建物の説明ばかりで、古い住宅から超近代的な高層ビルまで、建築の歴史と現状について講義を受けているような気分にさせられたものである。
建物の名前は「セヴン・サウス・ディアボーン」(7 South Dearborn)。由来は建設する場所の所番地かと思われる。建物の高さは472m(1,550フィート)、108階建て。竣工予定は2004年で、完成すれば世界最高の高さになる。これに屋上に立つアンテナを加えると609m(2,000フィート)にも達する。
形状は6個の円筒を積み重ねたような形で、上にゆくほど細くなる。この中の40階分は360戸の居住区、32階分はオフィスになり、最頂部13階分には通信施設を置く。ほかにレストラン、娯楽施設、フィットネスクラブなどを含むショッピング街や車800台分の駐車場が設けられる。
(ディアボーン・タワー)構造は強化コンクリート・コアを芯柱とし、床面をキャンティレバーで支えながら、外側にはスティールのフレームとガラスのカーテン・ウォールがつく。といっても建築の素人には、あのワールド・トレード・センターの構造とくらべてどう違うのか、旅客機が突っ込んできたらどうなるのか全く分からない。
しかし同じシカゴのシアーズ・タワーにくらべて、背丈が高いにもかかわらず足もとの基盤面積は小さく、しかも円筒のつなぎ目が細くなっているので、なんだかきゃしゃに見えて心配である。そのうえ外側の壁面には強度をもたせる柱がない。そこがディアボーン・タワーの売り物で、邪魔な柱がないために室内からの視界が広く、超高層と相まって素晴らしい眺めになるという。
それだけに飛行機がぶつかれば、ワールド・トレード・センター同様、建物の真ん中まで刺さりこむことになるのではないか。ただしコアがコンクリートだから、さほど簡単に崩れ落ちることはないかもしれない。そのあたりは素人が心配してもしょうがないのだが、テロリストが刺激されそうな建物ではある。
しかし、ディアボーンの完成予想図を見ていると、どこかフランク・ロイド・ライトの「マイルハイ」を想起させる。高さは3分の1以下だが、全体の形状がちょっと似ていて、内部に居住区とオフィス区を設けたところも同様である。同じシカゴの構想だからであろうが、ヘリポートがないのが残念。
完成後はテロに狙われることのないよう、本来の機能を発揮すると同時に、シカゴの新しい名所としていっそう美しい景観をつくってほしいものである。
(シアーズ・タワー)蛇足ながら、世界の高層建築は、どんな順位になっているのだろうか。子どもの頃はエンパイヤステート・ビルが一番高いと聞かされていたが、大人になってからはワールド・トレード・センターが出現し、さらにシカゴのシアーズ・タワーが追い越したなどという話になった。
今ではマレーシアのクアラルンプールにあるペトロナス・ツインタワーが最高らしいが、行ったことはない。ワールド・トレード・センターを含めると、どうやら次表のような順位になるもよう。所在地は10か所のうち6か所がアジア地域で、意外の多さに驚かされる。
順位 建 物 名 高さ 階数 竣 工 所 在 地 1 ペトロナス・タワー1
450m 88階 1997年 クアラルンプール
2 ペトロナス・タワー2
450m 88階 1997年 クアラルンプール
3 シアーズ・タワー
443m 110階 1974年 シカゴ
4 ジンマオ・ビルディング
421m 88階 1998年 上海
5 ワールド・トレード・センター1
417m 110階 1972年 ニューヨーク
6 ワールド・トレード・センター2
415m 110階 1973年 ニューヨーク
7 エンパイヤ・ステート・ビル
381m 102階 1931年 ニューヨーク
8 セントラル・プラザ
374m 78階 1992年 香港
9 中国銀行ビル
369m 70階 1989年 香港
10 T&Cタワー
348m 85階 1997年 高雄
フランク・ロイド・ライトは1939年、「シカゴは結局、世界で最も美しい大都市として残るだろう」と語っている。ディアボーン・タワーはその一翼をになわんがために計画された。2年後には上のリストの1行目に入ってくるのだろうが、いつまでもクアラルンプールにトップの座を奪われてなるものかというのが「建築界の首都」を自認するシカゴの意地だったのかもしれない。
(西川渉、2002.1.14)
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