犯人はやっぱりエクスプローラー4

 

 

 10日ほど前、本頁に「エクスプローラー4に機械を壊された」ことを書いたところ、それを読んだ友人から、この問題はプロの間ではしばらく前から話題になっていたことを知らされた。

 こちらは、そんなこととは知らぬ素人の悲しさ、自分のやり方がまずかったか、もともとこちらの機械(NEC PC9821V13)がおかしかったかと思って、実はもう1台、決して安くない機械(IBM T9Eアプティバ)を買ってきたのである。しかもご丁寧に、それにもIE4.0をインストールして、またまた他のソフトまでおかしくなってしまうという二重の被害をこうむってしまった。

 友人のFAXによると(なにしろこちらはメールも読めなくなったのでFAXで知らせてもらうほかはない)、この問題に関するプロ同士のやりとりはパソコン通信のサロンとか掲示板とかニュースグループといったような場でおこなわれているらしい。アンチ・マイクロソフトと思われる面々がIE4.0はボロボロだとか、波乗り野郎も動かなくなったとか、「慌てて入れた馬鹿はやっぱり馬鹿を見る」とか、(うひぃー)とか(爆笑)とか大喜びなのである。

 こちらはマイクロソフトのアンチでもなければ親派(シンパサイザー)でもないのだが、たまたま購入した機械に入っていたのでそのまま使い始めたに過ぎない。しかも、その後のバージョンアップが雑誌の付録などでタダで手に入るというので、好都合だったのである。

 友人からFAXを貰った数日後、今度はインターネットCNNに、やはり「IE4のバグが見つかった」という記事が出ていた。辞書にもないようなコンピューター用語で書かれた英文は素人には分かりにくいものだが、単にIE4.0ブラウザーと付属プログラムに欠陥があるばかりでなく、ほかのプログラムにも悪影響を及ぼすというもの。しかも、それを承知の上でレリースしたのではないかというニュアンスが読み取れる。

 とすれば、マイクロソフトも実に卑劣な企業といわざるを得ないし、もうひとつ10月下旬から本屋の店頭でIE4.0を付録につけて売り出したパソコン各誌は、その時点でこういう問題が分かっていなかったのだろうか。

 新しいソフトを自分の機械に取り込んで、ちょっと使ってみれば、今回のような大きなトラブルはすぐ表面化するはず。まさか、何の検証もせずに付録のCD-ROMをつくったとは思えない。それとも大量のCD-ROMが出来上がった頃に事態が判明したけれども、ここは目をつぶって出荷してしまえということだったのかとも思われる。

 先のサロンのやりとりの中にも「日経ネットナビ編集部にも文句をいうべきですね。既存ソフトがトラブルを起こすことの告知を十分にしなかった……雑誌編集部はみんなが迷惑する欠陥商品を、欠陥の告知や対応策も書かずに平気でばらまくんだもんね。責任追及されて当然だと思う」という発言がある。

 実は、私が最初にインストールしたIE4.0も日経ネットナビの付録であった。パソコン業界については、ハード・メーカーもソフト・ハウスも、それらを取り巻く雑誌社も、私はかねて本頁で疑問を呈してきた。奇妙なジャーゴンを使って人を煙に巻こうという底意が見えるからだが、どうせ相手は素人のこと、騙せるだけ騙して後のことは知らぬといった、やらずぶったくりの根性で仕事をしているのではないのか。 

 それにしても何故、普通の新聞や雑誌がこの問題を取り上げないのだろうか。大新聞社がそれぞれパソコン雑誌を出しているせいかもしれない。とすれば一般紙誌も同じ穴のむじなということになってしまう。

 同様のことが、もしも航空の世界で発覚すれば、これは大変な問題になる。コンピューターと人間の葛藤から旅客機が墜落した例は、名古屋の中華航空事故にとどまらないが、インターネットが見られなくなったくらいは、別に人の命にかかわるわけではないし、そもそも一部の好事家(オタク)たちがやっていることで、社会的な意義はどこにもないというのが、一般的、常識的な解釈かもしれない。

 第一、IE4.0はタダで配ったものだから、賠償請求すらできないという見方もある。むろん金銭的な弁償を求めるつもりはないが、タダだから責任がないというのも不可解。まさにタダほど高い物はないという事態に落ち込んでしまった。この泥沼からどうやって這い上がればいいのか。素人としては泣き寝入りするほかはないのだろうか。

 今や電脳は伝悩と化した。この事態がマイクロソフトの故意か不作為かはともかく、プロの諸君も嗤って見ているだけでいいのか。

(西川渉、97.11.16)

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