民間ヘリコプター開発の動向

 

 ヘリコプターの世界は近年、新しい開発技術の進展に伴い、続々と新機種が登場してきた。その多くが日本にも輸入され、われわれの眼前で素晴らしい飛行ぶりを見せてくれつつある。ここでは以下、そうした新しい機材のいくつかをご紹介しよう。

 

低コストのEC120

 日本で間もなく飛びはじめるのは、ユーロコプターEC120Bコリブリ(蜂鳥)だ。この5人乗りの単発タービン・ヘリコプターは設計にあたってアドバイス・チームをつくり、35人の顧客を招いて要望を聴いた。機体左側のドアがスライド式になり、胴体後部のドアが取りつけられたのもその結果である。また機体には複合材が多用され、設計上の最終目標は「低コスト、高パフォーマンス」とされた。

 ローター・ブレードは複合材製。先端が丸められ、騒音が少なくなるように工作されている。ローターヘッドはエキュレイユと同じスフェリフレックス構造。

 エンジンはチュルボメカ最新のアリウス2Fターボシャフト(離陸出力504shp)が1基。出力増減の反応が速いために、高速飛行中の操縦性にもすぐれ、その一方で安定性も良い。

 用途はVIP輸送、警察活動、訓練、空中作業、救急搬送などの多目的が想定されている。販売目標は向こう10年間に1,600機だが、最近までの受注数は100機を超えた。引渡しは今年1月からはじまり、1号機は野崎産業に引渡された。

 最終組立ては南仏マリニアンヌでおこなわれるが、共同開発のパートナーとなった中国では胴体がつくられ、シンガポール・テクノロジーズ・エアロスペース社では複合材製の尾部とドアがつくられる。このアジア両国の協力は本機のコスト削減に貢献しており、基本価格は77万ドルという。

  
(98年6月末から日本で飛び始めたEC120ヘリコプター/撮影:斉藤実昭氏、ホームページ「Rotor Wind」より借用)

 

日本へも近くEH-101

 日本にとってもう一つの新機種は3発機のEH-101だ。間もなく東京警視庁に導入されるが、これもEH-101としては民間向けの1号機。

EH-101は1980年代初めから英ウェストランド社と伊アグスタ社が10年余をかけて共同開発をしてきた。基本的には洋上哨戒、潜水艦攻撃、捜索救難など海軍の洋上長航続飛行を目的として設計され、英海軍から44機、イタリア海軍から確定16機、仮8機の注文を受けている。加えて今年1月、カナダ国防省から捜索救難機として15機を受注、生産計画にはずみがついた。

 これで軍用機としての受注数は総数83機となったが、民間機としてはまだ日本向けの1機のみ。この民間型「ヘリライナー」は乗客30人乗りで、航続900km。エンジンが3発だから、1発が止まっても出力の損失が3分の1にとどまり、余裕の大きいのが特徴。特に離陸時の1発停止の問題が楽になり、沖合い遠くの油田へも安心して飛ぶことができる。これが本機最大の特徴だ。

 また複合材製5枚の主ローター・ブレードにも大きな特徴があり、その形状はウェストランド社が英政府の委託で進めてきたBERP(英国実験ローター計画)の成果を採り入れ、翼型は根元から先端に向かって複雑微妙に変化し、先端は高速用の特殊な形状になっている。そのため従来のブレードにくらべて揚力が3割ほど大きく、ローター直径は比較的小さい。これで速度性能が向上し、離着陸性能も良くなった。

 こうしたヘリライナーは1994年、英、伊、米の型式証明を同時に取得、北海の石油開発など長距離の洋上飛行と旅客輸送用に売りこみをはかっているが、まだ正式注文には至っていない。メーカー側は向こう25年間で 250機という民間向け販売目標を掲げている。

 余談ながら、このEH-101の開発を契機として、アグスタ社とウェストランド社との間には合併の話し合いがおこなわれているもよう。そうなると欧州のヘリコプター工業界は、英伊とユーロコプター社の仏独との二た手に分かれることになる。

 

8人乗りのコアラ単発機

 イタリア・アグスタ社では、A119コアラ小型ヘリコプターの開発が進んでいる。同機は現用A109双発機の単発型ともいうべきもので、外観もよく似ている。とりわけ新しいA109パワーの設計技術を採り入れて胴体幅が広く、キャビンも意外に大きくて、パイロット1人のほかに7人の乗客がゆったり坐ることができる。救急機としても担架2人分の搭載が可能。キャビン・ドアは大きなスライディング式で、降着装置はスキッド式。

 主ローターは4枚ブレード。チタニウム製のハブは軍用のA129マングスタで使われているものとほぼ同じ。ブレードは複合材製で、エラストメリック・ベアリングでハブに取りつけられている。

 エンジンはPT6。単発タービン機の中では最大の出力を持ち、最大連続出力は872shp。今年中に型式証明を取り、99年から引渡し開始の予定。想定価格は150万ドル。最近までの受注数はおよそ20機という。

 

快適な旅客輸送用EC155

 今年中の型式証明取得をめざしているのは、もう一つ、EC155だ。現用AS365N2ドーファンの発達型で、昨年6月のパリ航空ショーでAS365N4として公表された。旅客輸送機としての快適性をねらい、キャビンを大きくして機内容積を4割増とし、要人輸送の場合は5〜8人乗り、旅客輸送のためには最大12人の搭乗が可能だが、ベンチ・シートならば13人乗り。

 主ローターは5枚ブレード。振動が減って乗り心地が改善された。尾部には10枚のブレードが非対称的に植え付けられたフェネストロンを装備、安全性を上げると同時に騒音を減らしている。加えてローター回転数を自動的に減らす機構を持ち、騒音の軽減をはかった。機首は長く伸びて、内部に電子機器を集中搭載する。エンジンはチュルボメカ・アリエル2C1(851shp)が2基。

 すでにノルウェーのヘリコプター・サービス社から確定6機、仮6機を受注、ドイツ国境警備隊からも軽輸送用ヘリコプター(LTH)として13機を受注している。1機当たりの価格は約550万ドル。

 なお、ユーロコプター社は新しいEC145の開発を検討中。今のBK117の発達型で、詳細は1999年初めに明らかにされる。

 

S-92は間もなく初飛行

 シコルスキー社ではS-92ヘリバスの開発が進んでいる。日本の三菱重工も主キャビンを担当して開発に参加している。

設計上の基本となるのは軍用H−60だが、主ローターは4枚ブレードの全複合材製。翼弦は現用ブレードの12〜16%増になり、ブレードの中のスパーもチタニウム製を複合材に改める。またブレード先端は30°の後退角をもち、渦巻流の発生が減るように設計されている。これで後退角20°の現用ブレードにくらべて、高速飛行中でも振動が少なくなり、直径は同じでも、揚力が220kgほど大きくなる。

 胴体両側には大きなスポンソンがつき、燃料タンクと主脚を収める。降着装置は前輪式の引込み脚。エンジンはCT7-6D(1,750shp)が2基。用途は、ヘリバスの愛称が示すように、旅客19〜22人乗りのヘリ・コミューターや海洋石油開発など。

 シコルスキー社では目下、原型5機の製作が進んでおり、すでに2機が完成した。1号機は地上試験にかけられ、2号機は今年末までに初飛行の予定。型式証明は2000年に取得する計画だ。

 

427の開発と407の改良

 ベル社は、かねて「プロダクト2000」という開発計画をもって、21世紀向けの機材を開発してきた。そこから実現したモデル407単発機(7席)と430双発機(10席)は日本でも飛んでいるが、目下テスト飛行中の機体が427双発機である。

 同機はモデル407を基本とし、原型1号機は1997年12月11日に初飛行した。現在2機が飛行中で、機体は407よりも33cm長く、座席配置はパイロット1人と乗客7人乗り。救急患者搬送や荷物輸送にも使える。患者輸送用の担架は、2人分の搭載が可能。

複合材製4枚ブレードの主ローターも直径が大きくなった。エンジンはPW206Dターボシャフト(640shp)が2基。最大速度は260km/hである。

 427は今年中に型式証明を取り、99年初めから引渡しに入る。基本価格は、EC135の255万ドル強に対して、200万ドル弱と安く、98年3月までの受注数は70機となった。

 ベル407は130万ドル弱という価格が、最大260km/hという速度性能や1トンの搭載能力と相まって良好な売れ行きを示し、量産着手から最近までの2年間に260機を引渡した。エンジンはアリソン250-C47B(813shp)を装備、離陸出力674shp、最大連続出力630shpに減格使用している。これにFADEC(電子コントロール装置)がついているため、エンジン始動が自動的に行われ、ホットスタートの心配がなく、ローター回転数が正確にコントロールされるなどの利点がある。また近くFADECのソフトウェアに手を加えて、巡航中は主ローター回転数を92%まで下げ、静かな巡航飛行ができるようにするという。

 ベル社では、さらに今の206Bと412の後継機についても、新たな開発に着手するかどうか、今年中に結論を出す。

 
(MD600ノーターヘリコプター)

 

MDヘリコプターの前途

 旧マクダネル・ダグラス社のMD520N(5席)とMD600(8席)小型単発ノーター機は、今年2月ボーイング社からベル社が生産を引き継ぐことになったが、このほど白紙に戻された。もともと独占禁止法の問題があった上に、これまでのMDヘリコプター利用者が将来の部品補給や技術支援の問題を懸念して反対をしたためらしい。

 MD600は、昨年6月パリ航空ショーの直前に型式証明を取得した。小型機には珍しい6枚ブレードをそなえ、アリソン250-C47(790shp)を装備してエンジン出力が増強され、トランスミッション系統も強化されたために、搭載能力が増し、飛行速度も速くなって、ノーター機構のために騒音が少ないというのが特徴。カーゴフック容量も1,360kgと大きく、高度3,000mで800kg余りの吊り上げ能力を持つ。98年初めまでに約30機が生産されたが、今のところ日本へ輸入される計画はない。基本価格は125万ドル。

 他方、MD900の生産継続については、ボーイング社とベルギーのヘリ・フライ社との間で交渉が行われているもよう。同機も最近までの生産数は30機程度だが、価格は427の1.5倍、約310万ドルである。

 こうして世界のヘリコプター工業界は、新たな可能性を求めて活発な開発活動を続けている。

(西川渉、『WING』紙、98年6月24日付掲載)

【付録】ヘリコプターの値段と開発完成時期

 上の記事で取り上げたヘリコプターについて、その価格と開発完成時期を整理。

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