ドクターヘリ調査検討委員会報告書ドクターヘリ調査検討委員会
平成12年6月8日事故・急病や災害等の発生時に、消防機関・医療機関等からの要請に対し、直ちに医師等が同乗し、ヘリコプターで救急現場等に出動する事業(以下「ドクターヘリコプター事業」という)は、搬送時間の短縮のみならず、救急医療に精通した医師が、救急現場等から直ちに救命医療を開始し、高度な救急医療機関に至るまで連続的に必要な医療を行うことにより、救命率の向上や後遺症の軽減に大きな成果をあげることが期待されている・
我が国におけるドクターヘリコプター事業については、厚生省の試行的事業や消防ヘリコプターの活動などの取組が見られるところであるが、諸外国の状況に照らせば、立遅れの感は否めないところである。
当委員会では、ドクターヘリ事業の全国的な導入・展開を図るため、まず、運航体制や搭乗スタッフの在り方・救急現場や出動拠点における安全確保の在り方等について議論を重ねてきた。
その検討結果は以下のとおりであり、これにより技術面での大きな障壁は槻ね解決されたものと考える。しかしながら、財源に関する問題をはじめ、地域の特性に応じた運航体制の在り方など、更に具体的な検討を必要とする問題も残されていることから、これらの問題について、今後、関係省庁において積極的な検討が進められ、我が国においても、人命尊重の理念に沿ったドクターヘリ事業が実施されることを強く期待するものである。
ドクターヘリ調査検討委員会報告書目次 1.運航体制
(1)運航形態
(2)出動基準
(3)航空法に基づく運航許可
(4)通信等の連携体制
(5)代替機
(6)大規模災害時の対応2.搭乗スタッフ
(1)医師その他医療スタッフの要件
(2)チーム編成
(3)操縦士・整備士
(4)教育訓練等の資質向上3.救急現場における安全の確保
(1)救急現場における離着陸場の確保
(2)医療機関からの転院
(3)交通規制等
(4)夜間の離着陸
(5)高速道路における緊急離着陸
(6)地上救急体制4.出動拠点における安全の確保
―― 5.搬送先医療機関の体制整備
―― 6.調整官庁等
(1)調整官庁
(2)転院搬送等の広域調整
(3)その他検討事項添付資料
○参考資料1:諸外国におけるドクターヘリコプターの現状(西川委員提供)
○参考資料2:厚生省ドクターヘリ試行的事業の実績(厚生省提供)○ ドクターヘリ調査検討委員会構成員
1 運航体制
(1)運航形態
○ ドクターヘリ事業を全国に導入・展開するに当たっては、地方公共団体の消防・防災ヘリコプターに加え、ヘリコプター運航会社を積極的に活用することにより、安全かつ効率的に全国配備を進めることとする。
その際、ヘリコプター運航会社が主体となる運航には、安全確保のため、医療機関、運航者、消防機関等との間で必ず実施要領を設け、組織的な安全管理体制を構築するものとする。
○ ドクターヘリ事業の目的の一つは、事故等の発生後、最短の時間で治療を開始することにあることから、ヘリコプターの常駐先(運航基地の場所)は、医師等の医療スタッフが即座に搭乗できる、救命救急センター等の医療機関とする。
ヘリコプターに搭載する医療機器の管理や医薬品の補充等には、医療機関の協力が欠かせないことからも、ヘリコプターの常駐先は医療機関とする必要がある。
なお、厚生省の試行的事業等においては、ヘリコプターは医療機関への常駐の下で毎日のように出動し、効率的な運航がなされている。
○ 消防・防災ヘリコプターを活用する場合には、ヘリコプターは医療機関に常駐していないことから、当面、医師のピックアップ方式によらざるを得ないが、できる限り迅速に現場に出動できるようにするため、自治省消防庁がまとめた「ヘリコプターによる救急システムの推進に関する検討委員会報告書」(以下「消防庁報告書」という)に基づき運航するよう各地方公共団体・消防機関に周知徹底する必要がある。また、ヘリコプターに搭載する医療機器の管理や医薬品の補充等のための体制も、十分に整える必要がある。
○ ドクターヘリの運航をヘリコプター運航会社に委託する場合には、あらかじめ都道府県の衛生主管部局と消防・防災部局が協力して、既存の消防・防災ヘリコプターの活動能力を検証し、活動範囲(地域)及び役割分担(補完体制等)を十分に調整しておく必要がある。
(2)出動基準
○ 救急事案を消防本部の指令室が覚知した時点で、指令課員等が、あらかじめ定められた判断基準(消防庁報告書基準等を参考)に基づいて、運航基地に、ドクターヘリの出動を要請することとする。
指令課員が判断に迷った場合は、治療開始時間の遅延とならないよう原則として出動を要請することととするが、出動指令を出した後で、患者の詳しい状況が判明し、出動不要と判断したときは、その時点で出動を撤回できることとする。
○ 消防本部の指令室が救急事案を覚知した段階では出動は不要と判断された場合であっても、救急現場に到着した救急隊員等がドクターヘリの出動が必要と判断したときは、直接、又は、消防本部の指令室を通じて、運航基地に出動を要請することとする。
○ また、救急現場に到着した警察官が、ドクターヘリの出動が必要と判断したときは、直接、運航基地にドクターヘリの出動を要請することとする。 . ’
○ 上記の出動要請に対し、運航基地の医師の判断により、ドクターヘリを出動させることとする。
ドクターヘリの出動が、結果的に軽症者に対するものとなったとしても、現場で患者の状態を医学的に正確に把握することは困難なことから、出勤を要請した指令課員、救急隊員及び警察官、並びに出動が必要と判断した運航基地の医師の責任を追及することは適当でない.
○ 医療機関の医師が、より高次の医療機関における救急患者の治療のためにドクターヘリの出動が必要と判断し、運航基地に出動要請をしてきた場合には、出動させることとする。
○ 上記のような運用を行いつつ、症例を集めて事後評価を行うことによって、関係機関は、無駄の少ない効率的な出動体制を整えるよう常に弛まぬ努力を払う必要がある。
(3)航空法に基づく運航許可
○ 平成12年2月の航空法施行規則改正により、消防機関等からの依頼又は通報によるヘリコプター運航会社の運航によるドクターヘリの救急現場への緊急離着陸についても、消防・防災ヘリコプターによる捜索・救助の任務に適応される運航と同様な取扱いとなったことは、ヘリコプター運航会社の活用による全国配備を進める上で大きな前進と評価できる。
○ ドクターヘリの運航を委託されたヘリコプター運航会社は、医療機関等と協力し、安全運航のため、あらかじめ、できる限り場外離着陸場を確保しておくものとする。
また、対象地域内の関係機関ともあらかじめ十分に協議を行い、緊急離着陸時の安全を確保できるように協力体制を構築するものとする。
○ 将来的には、天候不良時等に運航を行う場合の運航効率の向上と安全運航に資するため、GPS(全地球的測位システム)を活用したヘリコプターの計器飛行方式による運航方式を検討することが望まれる。
(4)通信等の連携体制
○ 現場に出動した医療スタッフが、救急患者の治療に当たりながら、搬送先の救急救命センター等と直接連結をとる必要があることから、地域内の医療機関との通信体制を確保するため、ドクターヘリには、一般電話回線とも交信可能な無線機器を搭載することとする。
○ ドクターヘリは現場の救急隊等と、患者情報の伝達や着陸場所の確認のために直接交信する必要があることから、ドクターヘリに消防無線等の搭載や、現場関係者とドクターヘリとの間の統一的な手信号をはじめとする連結要領等の作成を検討するなど、通信体制を整備する必要がある。
なお、将来的には、警察、消防、道路管理者、医療機関等の間の共通無線を整備する必要がある.
○ ドクターヘリ事業が地域の社会システムとして円滑に定着していくよう、離着陸をはじめとするヘリコプターの運航に伴う苦情への対応窓口を一本化するなど、関係機関の連携の下で、地域住民の理解を得る努力も積極的に行う必要がある。
(5)代替機
○ 救急医療は、毎日途切れることなくその−サービスを提供しなければならないことから、ドクターヘリに定期点検や−時的な修理が必要なときには直ちに代替機が確保できる体制が、必要不可欠である。
したがって、ドクターヘリの運航をヘリコプター運航会社に委託する場合には、当該運航会社の責務として、常に代替機を確保できる体制をとることを義務づけ、常時(当面は、夜間を除く時間帯のみ)、ドクターヘリを運航できるようにすることを原則とする。
また、消防・防災ヘリコプターを活用する場合には、当該地方公共団体は、上記の原則を確保するため、隣接都道府県・都市問の協力体制を整えておく必要がある。
(6)大規模災害時の対応
○ 大規模災害発生時には、関係機関のヘリコプターを多数活用する必要があることから、ドクターヘリも都道府県の指揮下で活動することとする.また、当該地域内の医療機関は、日常使用している場外離着陸場の使用の可否を調査して都道府県に報告することとする。
2.搭乗スタッフ
(1)医師その他医療スタッフの要件
○ ドクターヘリに搭乗する医療スタッフは、以下の要件を満たす者とし、あらかじめ、ヘリコプターの運航に関する事項、ヘリコプターを使用することで生じる医学的な影響に関する事項等について、必要な研修を受けることとする。
〔1〕医師は、現場での様々な患者に的確に対応するため、救命救急センター等の救急医療に精通した救急医であること。
〔2〕看護婦は、救命救急センター等の救急部門の専属看譲婦であること。
〔3〕救急救命士は、救命救急センター等の救急医の下で、一定期間、救急医療の研修を受けた救急救命士であること。
上記の研修は、ドクターヘリの常駐先である救命救急センター等が実施することとし、具体的な事項としては、次のものが挙げられる。
・ 一般的な航空医学
・ 航空機に関する知識(運用に必要な簡単な航空法規、航空気象、航空力学)
・ 地上との交信装置の取扱要領や、航空通信の専門用語
・ 計器等のさわってはいけない箇所など、安全管理に関する知識
・ ダウンウォツシュ(ヘリコプター回転翼により発生する下方へ吹く強い風)の中で作業すること等を想定した服装
・ ヘリコプターの騒音下で活動するための統一的な手信号等
・ ホイスト活動(ヘリコプターを空中で停止させ、機体に装備されたワイヤ−巻き取り機具を用いて患者等を機内に収容する手法)に関する知識・訓練
・ 消防、警察等の関係機関の組織や業務
○ 上記のことを達成するため、ドクターヘリの常駐先である救急救命センター等の医療機関は、医師、看譲婦の配置など、所要の体制の整備を図ることとする。
(2)チーム編成
○ 現場での医療活動を行うため、医師1名と看蓬婦1名、又は、医師1名と救急救命士1名のチーム編成を基本とする。
但し、患者の状況によっては医療スタッフを増員するほか、複数の患者が発生した場合も、必要に応じて医療スタッフの 増員を行うこととする。
○ 医療活動のみならず救助活動をも必要とするような救急事案の場合には、救助隊員も加えたチーム編成とすることとする。こうした場合に備え、あらかじめ、救助隊員も含めたチーム内の業務分担を明確にしておくこととする。
(3)操縦士・整備士
○ 操縦士・整備士は、あらかじめ、必要な医学的知識等について、ドクターヘリの常駐先である救命救急センター等が実施する研修を受けることとするほか、それぞれ、以下の要件を満たすこととする。
〔1〕操縦士は、かなりのストレスを受ける特殊な業務であるため、ドクターヘリの操縦士として必要な要件を満たす必要があることに照らし、ヘリコプター運航会社のドクターヘリ操縦士については、飛行時間に加えて、特定業務の飛行時間、特別な訓練等についての要件を満たす者であること。
なお、要件の具体的な内容は、厚生省の試行的事業において取りまとめることとする。
〔2〕操縦士及び整備士は、使用するヘリコプター内に装備されいる医療機器の基本的な仕様や電磁波干渉等による影響についての知識を有している者であること。
なお、機体整備に際しては、感染防御等に留意しなければならないこととする。
(4)教育訓練等の資質向上
○ ドクターヘリの搭乗スタッフは、あらかじめ定められたマニュアルに基づき、各々の役割を熟知しておくようにするとともに、緊急時にも的確七対応できるよう、通常より実践的訓練を行うこととする。
○ 搭載医療機器や医薬品等の事前チェックを、毎回の業務開始前に行うとともに、安全運航のためのチーム訓練や、ヘリコプター事故に際しての脱出手順等の訓練を、定期的に行うこととする。また、ドクターヘリが事故等に遭遇した場合の救急車の要請や、警察・運輸省への連終に関する事項など、事故対処マニュアルを作成しておくこととする。
○ 各ドクターヘリの活動範囲(地域)ごとに、関係機関及び関係者が参加する合同訓練を実施し、安全かつ効率的なシステムの構築に向けて、定期的に検証を行うこととする。
3.急現場における安全の確保
○ 想定される救急現場への緊急離着陸について、安全確保のための搭乗員全員のマニュアルを作成し、これに基づき搭乗員全員で、安全を確保することとする。
(1)救急現場における離着陸場の確保
○ 救急医療のみならず、へき地医療や防災対策の確保の観点からも、各市町村に少なくとも1か所の、夜間照明施設が付設されているヘリポート又は場外離着陸場の整備を推進するとともに、ヘリポート及び場外離着陸場の施設内容・所在地について関係者に対し周知する必要がある。
○ ヘリコプターの離着陸が可能と思われる場所について、入念に事前調査を行い、管理者の協力が得られるよう、あらかじめ了解を得ておくこととする.
○ 事前調査が行われていない場所については、離着陸する場所の広さ、電線等の有無や飛散物等について、現場からの連絡により離陸前に安全を確認することが望ましいが、少なくとも着陸前には必ず確認を行うこととする。
○ 離着陸の最終判断は、パイロットが行うこととする.
○ 救急隊及び消防隊は、現場に先着している場合には、着陸場所における人の排除や、その他安全の確認を行うこととし、状況に応じて警察も、救急現場における離着陸について安全確認を行うこととする。
○ 状況に応じて、救急現場に着陸せずホイストを用い、現場への降下や患者の収容を行うこととする。
○ 救急現場へ医療スタッフを降下させ又は悪者の収容を行う場合は、事前訓練を含む活動マニュアルを作成しておくものとする。
(2)医療機関からの転院
○ 救急患者を、救命救急センター等のより高次の医療機関へ転院させることが想定される医療機関は、転院搬送のために用いる場外離着陸場を、あらかじめ確保しておくこととする。
○ 救急患者を受け入れた医療機関は、より高次の救急医療機関における治療のためにドクターヘリの出動要請を行った場合、上記の場外離着陸場に患者を搬送するとともに、ドクターヘリが離着陸できるよう安全の確認を行うこととする。
(3)交通規制等
○ 交通事故や大規模な事故の発生時に、ドクターヘリが道路で離着陸する場合には、警察官により、所要の交通規制等が行われる必要がある。なお、この際、必要に応じ道路管理者等の関係機関もこれに協力する。
(4)夜間の離着陸
○ ドクターヘリ事業の導入に当たっては、夜間を除く時間帯での離着陸から開始することとする。
一般のヘリコプターの夜陶の離着陸については、現行においても、一定の基準を満たした照明施設が設置されていれば認められているが、運航条件が厳しいドクターヘリの夜間の運航については、その具体的な条件に関して、厚生省の試行的事業や東京消防庁の夜間訓練を参考に、厚生省、運輸省、建設省、自治省消防庁が協力して検討する必要がある。
(5)高速道路における緊急離着陸
○ 高速道路本繰において緊急離着陸を行うためには交通を完全に遮断する必要があることから、まず、当面の取組みとして、離着陸が可能なSA(サービスエリア)、PA(パーキングエリア)を選定し、必要な条件整備を図った上、離着陸訓練を行うこととする。その際、内閣官房、警察庁、厚生省、建設省、自治省消防庁の連携によるヘリコプター離着陸合同訓練の場を活用することも検討することとする。
○ これとあわせ、ドクターヘリ事業の全国的な導入・展開に向けての取組みとして、上記の離着陸訓練の状況等も参考にしつつ、各地域(都道府県単位)において、離着陸が可能な本線部分、SA、PA等を調査し、関係機関と必重な調整を図った上、あらかじめ、緊急離着陸が可能な部分を確定しておくことも必要である。
○ 十分な着陸スペースが確保されない場合の対応として、二次災害を防止するための交通規制が実施されたときにはホイストを用いて現場への降下や患者の収容を行うことも、検討することとする。
(6)地上救急体制
○ ドクターヘリが出動する場合には、同時に救急車も出動することを原則とする。
○ 患者の搬送は、現場に到着した医師の判断により、ドクターヘリ又は救急車により行うこととする。
○ ドクターヘリの医師が救急車による患者撒送を選択した場合、救急車に同乗するか否かは、ドクターヘリの医師自らが判断することとする。
4.出動拠点における安全の確保
○ 運航基地は、通信指令機能を有し、患者や天候の状況の変化にも速やかに対応して、安全運航の下で効果的な救急医療が確保されるよう、以下のとおり、ドクタ「ヘリコプターを支援することとする。 〔1〕消防本部、救急隊、医療機関等との連結調整を行うこと。
〔2〕医学的な判断が必要になることに備えて、当該運航基地が置かれている救急救命センター等の医療スタッフと連絡が取れる体制をとること。
また、使用した医薬品の補充や、医療.機対の交換等が滞りなく行える体制を整えること。
〔3〕必要な気象情報を収集し、常時、飛行の可否をモニターすること。
〔4〕常時、無線等で、ドクターヘリと連絡がとれるようにするとともに、ドクターヘリの活動をモニターして交信記録を保存すること。
5.搬送先医療機関の体制整備
○ 救急現場で患者を診断したドクターヘリの医師は、救急隊と協議して搬送先医療機関を選定することとする。
○ 救命救急センターや地域の二次救急医療機関など、搬送先となることが予定される医療機関は、あらかじめ、場外離着陸場を確保するとともに、院内の連格体制等についても確立しておくこととする。
この場合、場外離着陸場については、ヘリコプターによる時間短縮効果が最大限に活かされるよう、できる限り迅速に患者を収容して治療を開始できる場所とする必要がある。
また、場外離着陸場を院内に設置する場合は、救急処置室までの患者撒送ルートを確保しておく必要がある。
6.調整官庁等
(1)調整官庁
○ 消防・防災ヘリコプターの活用の場合にあっては、自治省消防庁が全般的な指導を行い、医療機関に関する調整については厚生省が行うこととするのが、適当である。
○ ヘリコプター運航会社への委託の場合にあっては、厚生省が地域の消防機関の協力を得て、全般的な調整を行うこととするのが、適当である。
○ 自治省消防庁と厚生省は、ドクターヘリ事業の全国的な導入・展開が円滑に進むよう相互に密接な連携を図り、一元的な対応が確保されるようにする必要がある。
(2)転院搬送等の広域調整
○ 消防・防災ヘリコプターが主体の地域にあっては、あらかじめ定められた手続きにより、都道府県が調整することとする。
○ ヘリコプター運航会社への委託が主体の地域にあっては、状況に応じ消防機関の協力を得て、医療機関が相互に調整することとする。
なお、医療機関の問の調整が整わない場合には、厚生省が調整を行うこととする。
(3)その他検討事項
○ 必要な財源措置については、今後、検討する必要がある。
○ ドクターヘリ事業の全国的な導入・展開に当たっては、各地域(都道府県単位)ごとに、必要な体制や条件の整備について詳細な検討を行う「ドクターヘリ運航検討委員会(仮称)」を設けることなども、考慮する必要がある。
添 付 資 料
○参考資料1:諸外国におけるドクターヘリコプターの現状(西川委員提供資料)
○参考資料2:厚生省ドクターヘリ試行的事業の実績(厚生省提供資料)
○ドクターヘリ調査検討委員会構成員
【参考資料1(西川委員提供資料)】
諸外国におけるドクター・ヘリコプターの現状 表1 世界の救急専用ヘリコプターは約600機。兼用機や予備機を合わせると1,000機に近いといわれる。そのうち主要国のドクター・ヘリコプター開始年と配備状況を見ると下表のようになる。
国 名
開始年
拠点数
機 数(専用/兼用)
国土面積(1,000平方キロ)
1拠点当たり面積(1,000平方キロ)
ドイツ
1970
51
43/17
357
7.00
スイス
1973
17
17/23
41
3.17
ノルウェー
1978
5
43/17
324
64.75
オーストリア
1983
15
34/−
84
5.59
イタリア
1985
19
19/18
301
15.86
フランス
1986
28
28/24
544
19.43
イギリス
1987
11
22/46
244
22.19
ルクセンブルグ
1988
2
2/−
3
1.5
スペイン
1989
2
17/8
506
253.0
チエコ
1989
11
11/−
79
7.17
オランダ
1995
2
2/−
41
20.76
アメリカ
1971
約350
約350/100
7,863
22.46
[機数出所]英AIR AMBULANCE HANDBOOK、1998年8月
[注]「−」表示は不詳を示す。
表2 上表のうち、いくつかの国の特徴を要約すると下表のようになる
国 特 徴 ド イ ツ 全国を半径50kmの円で埋めつくし、それぞれの中心部の拠点病院にヘリコプター基地を設け、世界で最も早く体系的、組織的なヘリコプター救急体制を構築、アウトバーンの高速自動車事故による犠牲者を劇的に減少させた。
フランス 消防、警察と並ぶ公的緊急機関として1986年に設置されたSAMU(緊急医療救助サービス)が運営。
イギリス 住民または企業の寄付金による運営。拠点数も少ないが、ロンドンでは模範的な救急飛行がおこなわれており、大都市の中でも至るところに緊急着陸し、患者のもとへ医師を送りこむ。
ス イ ス 山岳地が多いにもかかわらず、全国17か所にヘリコプターを配備して、国内のほとんど全域に医師が15分以内に到着できる体制をととのえている。
アメリカ 病院経営の必要から民間ヘリコプターをチャーターして救急業務に当たる。欧州諸国と異なり医師はほとんどヘリコプターに乗らず、救急治療の権限と能力をもったフライトナースやバラメデイックが現場へ飛ぶ。費用は医療保険でまかなわれるため、保険の非加入者からは取れないこともあり、回収率は8割程度。
表3 前掲(表1)の諸外国のドクターヘリコプターの特徴は、次のようにまとめることができる。
1 救急専用ヘリコプターの配備
2 フランス以外の国は消防機関と連携して日常化
3 待機の場所は病院
4 医師又は医療スタッフが同乗
5 2分で離陸、15分以内に現場到着
6 現場に着陸
7 24時間の運用体制
8 一拠点当たりの平均出動回数は年間700回前後
9 平易な出動基準――空振りを恐れない
表4 ドイツの実績は以下の通り
1998年
1997年
1996年
出動回数(前年比)
69,918回(103.8%)
57,699回(107.3%)
63,776回
搬送患者数(前年比)
53,317人(104.6%)
50,995人
――
拠点数
51か所
51か所
50か所
年間1拠点当平均
出動回数
搬送患者数
1,175回
1,045人
1,131回
1,000人
1,073回
――
【参考資料2(厚生省提供資料)】
厚生省ドクターヘリ試行的事業の実績 (1999年10月〜2000年3月)
東海大学救命救急センター:87例
死亡
障害あり
軽快
中等症
軽症
推計
20
24
24
15
4
実績
14
9
45
15
4
川崎医科大学高度救命救急センター:96例
死亡
障害あり
軽快
中等症
軽症
推計
28
25
10
33
――
実績
12
13
38
33
――
[注1]
推計;ドクターヘリを使用しなかった場合の維計
実績:ドクターヘリによる治療実績[注2]
障害あり:運動機能障害が残り、何らかの介助・介護を要するもの
軽快:完全に社会復帰し、障害が残らないもの
中等症:入院治療が必要であるが、生命の危険がなく障害も残らないもの
軽症:外来での治療で済むもの
ドクターヘリ調査検討委員会構成員 学識経験者委員
石井俊一 (航空保安研究センター理事長)
今井通子 (登山家、作家)
大森軍司 (東京消防庁航空隊航空隊長)
小笠原常資 (日本道路公団理事)
小川和久(軍事アナリスト)
◎小漬啓次(川崎医大救急医学教授)
西川 渉(地域航空総合研究所長)
宮坂雄平(日本医師会常任理事)
山内伸一(仙台市消防局警防部長)
[針生 進]
横田 猛 (警視庁交通執行課理事官)
[加藤信夫]
◎は座長、[]内は前任者
関係省庁
主宰 内閣官房内閣内政審議室内閣審議官
内閣官房内閣安全保障・危機管理室内閣審議官
警察庁交通局交通企画課長
警察庁交通局都市交通対策課長
総務庁長官官房交通安全対策室参事官
国土庁防災局震災対策課長
厚生省健康政策局指導課長
運輸省自動車交通局保障課長
運輸省航空局技術部運航課長
運輸省海上保安庁警備救難部救難課長
建設省道路局道路交通管理課長
建設省道蕗局高速国道課長
自治省消防庁救急救助課長[注]この報告書を本頁に掲載するにあたって、次の3点を修正した。一つは目次を付けたこと、第2は原報告書の「ヘリ」という言葉を「ヘリコプター」に置き換えたこと、第3は「参考資料2(厚生省提供)」をグラフから数表の形に改めたことである。ただし「ドクターヘリ」はそのままとした。
(西川渉、2001.3.8)
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