ワールド・クラスのジェット旅客機

――フェアチャイルド・ドルニエ会長談――

  

 フェアチャイルド・ドルニエ社のチャールズ・パイパー会長が来日したというので、その話を聞く機会があった。かねてお馴染みの広報部長、ヘルガ・ドリーセン女史も同行していたが、そのときの内容をここに記録しておきたい。

 

 フェアチャイルド・ドルニエ社は今年4月、経営母体が変更になった。アメリカの有力投資グループCD&Rがドイツの大手生命保険会社と共に買収したためである。パイパー氏も、この買収と共にドルニエ社に乗りこんできたもので、かつてGEグループでいくつかの関連企業のトップとして経営にあたった経験を持つ。

 ドルニエ社はかねてリージョナル・ジェット市場をめざしてボンバーディア社やエムブラエル社に対抗し、いくつものリージョナル・ジェットの開発を進めてきた.。航空機の開発には技術力はもとより、時間がかかるために、大きな資金を寝かせておかねばならない。そのあたりの余裕の有無に問題があるのではないかと見られていたが、この経営母体の変更によって強化された。

 振り返って見れば、ドイツ航空界の長い伝統を持つドルニエ社は、先に米フェアチャイルド社に買収されたが、それがさらにCD&Rとドイツの保険会社に買収されたことになる。しかし、核となっているドルニエ自体は変わりがない。同社のすぐれた技術力を証明するものでもあろう。

 

 パイパー氏の話題は、リージョナル・ジェットが中心であった。リージョナル・ジェット急増の背景にあるのは、しばしば指摘されるように世界中の大空港が行き詰まり、これ以上の航空機を受け入れられなくなってきたためである。それでも旅客需要は伸びつづけるから、ハブ空港を避けて飛ばなければならない。

 そのうえハブ・アンド・スポーク・システム(HASS)はエアラインにとっては合理的で都合が好いが、旅客から見れば遠回りをして、時間がかかり、不便でもある。そこでハブ空港迂回路線とでもいうべき、ハブ・バイパス路線、もしくはポイント・トゥ・ポイント路線が開設されるようになった。しかし、その場合は需要量が余り多くないから大型機は使えない。しかも遠距離区間を飛ばねばならない。

 さらに旅客のジェット選好性も見られる。同じ路線にターボポロップ機とジェット機を飛ばした場合、利用率は前者が3〜4割、後者が6〜7割といった大きな差が生じる。こうしたいくつもの条件が重なって、リージョナル・ジェットの出番を迎えるお膳立てができたのである。

 だがリージョナルという言葉には地域、地方、田舎、小さいといったマイナス・イメージがつきまとう。けれども実際の小型ジェット旅客機は、そうではなくなってきた。技術的にはボーイングやエアバス社のつくる航空機と遜色ないもので、向こうは単に図体が大きいだけの違いに過ぎない。

 フェアチャイルド・ドルニエ社も「ワールド・クラス」の旅客機を開発し製造しているつもりだ。引渡し後の技術支援や部品補給などのサービスの質、ファイナンス体制など、決してトップ・メーカーに劣るものではない。いずれ将来は、リージョナル航空という言葉は消えてゆくであろう。

 というわけで、最近までのドルニエ・ジェットの販売状況は下表のようになった。

ドルニエ機の受注状況 

328JET

728JET

928JET

エンボイ7

528JET

合  計

座席数

31席

70〜85席

90〜110席

ビジネス機

50席

――

確定受注機数

119

114

28

――

265機

仮受注機数

76

162

――

――

240機

引渡し済

40

――

――

――

――

40機

引渡し開始

1999年7月

2003年夏

2004年秋

2004春

2005年以降

(総計496機)

主要航空会社

米アトランテ
ィック・コース
ト、KLMアル
プス、中国海
南航空

ルフトハンザ
・中Tライン、
米GECASリ
ース、ババリ
ア・リース、伊
ソルエア

ババリア・リ
ース

ユナイテッド・
アラブ
SAFADIグ
ループ他

――

――

 上表に見るように、仮注文を含む受注総数は総計545機になる。機種別には328JETが235機、728JETが276機、928JETが6機、エンボイ7が28機である。

 このうち328JETは昨年夏以来、1年余りの間に40機が引渡された。現在では毎月4〜5機の割合で生産が進み、2001年は48機を引渡す計画。騒音について質問したところ、328ターボポロップ機よりも小さいという。答えの中に数字は出てこなかったが、あとで調べたところ、『B&CA』誌は328ターボポロップが82.1/94.8、328JETが76.1/89.8/91.1と書いている。それでいて328JETの方が最大離陸重量は1.5トンほど大きい。今や、ひと昔前のターボポロップよりジェットの方が音は静かなのである。

 528JETは、まだ正式に開発が決まっていない。したがって注文も取っていない。 

 728JETは先週、ローンチ・カスタマーのルフトハンザ・ウェーバー会長が来社、最初のリベットを打ちこんで、原型初号機の製作がはじまった。2002年に初飛行し、2003年に型式証明を取って就航する予定。同機を基本とするビジネス機がエンボイ7である。なお328JETを基本とするエンボイ3は話題にならなかったから、新しい資本系列のもと、計画は中止になったのかもしれない。

 928JETは、このクラスでは最大で、胴体直径などはMD80よりも大きい。床下貨物室も大きくできている。1席あたり、または1飛行あたりの経済性も非常に高い。

 ほかに428JETの開発計画があったが、これは中止になった。すでに何機かの注文も取れていたようだが、多くの機種を同時に開発すると技術力が分散し、928JETとの間でアブハチ取らずになるおそれがあったためらしい。そのうえ開発コストが意外に大きかったのも中止理由のひとつ。

 

 

 最後にパイパー会長との雑談――ドルニエ社の開発と製造の現場はドイツにあって、会長はアメリカ人。どこに住んでいるのかと訊いたら、「飛行機の中」という答えだった。実際はニューヨークのようだが、ルフトハンザその他の定期便でミュンヘンとの間を連日往来しているらしい。飛行機には年間300回くらい乗るそうである。

【参考頁】独逸ドルニエ社を訪ねて(99.12.5)

(西川渉、2000.11.12)

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