<小言航兵衛>

地獄への高速道

 

 道路建設は金のかかる事業だ。特に日本ではそうである。利益の挙がらぬ高速道路をつくり続けることによって、何千もの土建会社が利益を挙げ続けており、自民党の政治家に多額の献金を出して事業を絶やさないように圧力をかけている。

 こうした悪弊を絶ち切るために、2005年までに道路公団を民営化し、無駄な建設工事をなくすというのが小泉首相の構造改革のひとつである。しかし、この政策には自民党内部と官僚集団から激しい抵抗があり、昨年は特別に民営化推進委員会を設置してまで推進しようとしたが、現実はなかなか進まず、今や小泉首相のアキレス腱ともなってきた。

 道路公団の民営化問題とスキャンダルがいつまでも消えないのは、表向きの財務諸表のほかに裏帳簿が存在し、莫大な負債のあることが内部から暴露されたためだ。公団総裁は裏帳簿の存在を否定したが、数週間後になって経理部のコンピューターの中にあったのが「発見」されたと前言をひるがえした。ただし、この帳簿は正式なものではなく、担当者の私的な勉強のための試算にすぎないと強弁している。

 当然のことながら、民営化委員会も他の専門家も、こうした公団の説明や数字を信用しているわけではない。しかし小泉首相も扇国交相も公団総裁を更迭するような考えはないかに見える。そこがまた構造改革を本気になってやる気があるのかという疑問が生じる原因ともなっている。

 その疑問を解くために、国交相は公団の決算を外部の第三者の監査にかけるとしたが、これを引き受けようという監査法人もなかった。……。

 以上はイギリスの週刊経済誌『エコノミスト』の「地獄への高速道」と題する報告要旨である。昔の映画の題名をもじったものであろう。

 最近はさらに「通行料金別納制度」にまつわるスキャンダルが表面化してきた。この制度は、通行料が年間700万円以上になるような大口利用者の料金を最大3割まで割引く仕組み。そのため本来の大口利用者以外に、中小の運送業者などが集まり、割引目的で組合をつくって、一本化して割引きを受けることもできる。

 問題はここからだが、組合の中には割引で得た差益を不適切な使途に回すケースもある――すなわち政治家への裏献金に使われているというのだ。すでに現閣僚を含む大物政治家の名前が何人か報じられている。

 なるほど、こんな騒ぎを続けていたのでは、高速道路上の事故で人が死のうと生きようと構ってはいられないかもしれない。

 いつぞや道路公団の関係者と話をしたとき、事故が起こったときは救急ヘリコプターを降ろすために車の走行を規制したらどうかと聞いたところ、われわれの任務は車を走らせることであって人を助けることではないと言われ、二の句が継げずに茫然とした憶えがある。

 これでは文字通り「地獄への道」になってしまう。皆さん、高速道路は低速で走りましょう。

(小言航兵衛、2003.9.3)

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