<台湾戦闘機>

高速道路から出撃訓練

 台湾の国防部は去る5月15日、高速道路で戦闘機の発着訓練を行なった。中国本土からの攻撃で空軍基地の滑走路が破壊された事態を想定したもので、約2,500mの道路区間を閉鎖して臨時滑走路とし、F16、IDF経国号、ミラージュ2000といった3機種の主力戦闘機が2機ずつ、合わせて6機が着陸した。これらの戦闘機はミサイルや爆弾の装着、燃料補給などをしたのち、轟音を上げて離陸した。このもようは、道路沿いの民家やビルの屋上で多くの市民が見守った。

 台湾では、今の陳水扁総統が2008年5月に引退することになっている。このため中国からの独立色が薄まり、台湾海峡の緊張もやわらぎつつある。

 しかし中国は、この10年ほどの間にロシアから最新の戦闘機や火器を購入するなどして軍備を増強し、800基以上のミサイルが幅160kmの海峡をへだてて、台湾に照準を合わせている。一方で台湾が上のような道路着陸訓練をするという現状は、台中関係が依然、緊張状態にあることは確かであろう。

 中国には現在、ミサイルばかりでなく、総計およそ3,530機の作戦機があって、これはアメリカに次ぐ世界第2位の機数である。もっとも大半は「骨董品」のような旧式機だが、約350機はロシア製スホーイ27やスホーイ30、国産J10など第4世代の新鋭機で、決してあなどれない。『国防の真実――こんなに強い自衛隊』(井上和彦、双葉社、2007年2月15日刊)は、そう書いている。

 そこで、もし台中両国が戦闘状態に入ったらどうなるか。単に台湾を併合しようという意図ばかりでなく、中国の「共産党一党独裁体制に対する不満や貧困」さらには周辺「支配地域地域における反政府運動」など「国内問題のはけ口」として台湾へ軍事侵攻する可能性がある。そうなるとアメリカもみずからの「台湾関係法」に基づいて軍事行動を起こすことになり、日本も協力を余儀なくされるだろう。いや、日本は無関係などといっても、中国から見れば日本はアメリカの同盟国であり、敵対国にほかならない。

 当然のことながら、共に戦うこととなろう。日本としては、そのあたりまで視野に入れて計画しておかねばなるまい。

 ところで阿川弘之は『エレガントな象』(文芸春秋、2007年4月刊)の中で、台湾の李登輝前総統82歳が2004年暮、婦人と共に来日したときのことを書いている。

「我が国の政界、財界、学界を見渡せば、李前総統にヴィザは発行すべきでなかったと北京へ忠義立てする人物が各所にゐる。学界の中でも早稲田如きは、本来自由な所信表明なぞ出来るはずの無い駐日中国大使を招いて、北京放送のオウム返し、言いたい放題を言はせる一方、サマワ帰りのヒゲの隊長佐藤正久陸佐の現地報告は聞くことを拒絶した。”都の西北”で彼らが誇らかに歌う”学の独立”は何処へ行ったのか――。」

 しかし、そんな「北京北京と草木もなびく」情けないご時世に1人だけ珍しい国会議員がゐた、と阿川は書く。その元参議院議員は「先生は中国へいらしたことはないんですか」と訊かれて「僕はあの国を認めてないんでね。存在しない国には行けませんよ」と答えた、と。

 それにしては現在、台湾を国として認めていない日本の政界、財界、学界の連中が、随分たくさん台湾へ行っているのではないか。事態をあいまいにしたままの、だらしない日本人が増えたことは間違いない。

 そこで北朝鮮のことも考えて、日本も北海道の高速道路で同じような訓練をしてはどうか。稚内に向かって走ると、どこまでもまっすぐな高速道路が続いているから、台湾以上に戦闘機の離着陸に適しているはず。それどころか、もともと、そのことを想定して設計した道路だと聞いたこともある。

 クマしか通らぬ高速道路では、つくった方も甲斐がなかろう。是非とも有効に活用してもらいたい。 

【関連頁】

   無限の滑走路(2004.8.18)

(西川 渉、2007.5.25) 

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